【閑話休題】
[記事配信時刻:2019-06-28 16:39:00]
【閑話休題】第578回・今、そこにあるチャイナリスク
▼この閑話休題で、あまり時事問題を取り上げるのはよそうと思っていますが、めずらしく今回はチャイナ・リスクの問題について、書いてみようと思う。
▼長いこと、中国は、バブルが崩壊しただの、国家が破綻するだの、体制がひっくり返るだの言われ続けて、結局未だになにも起こっていない。
▼わたしも、あの規模の多きさと、独裁政権の強みから言っても、そう簡単につぶれるような国ではないと思っていた。
▼しかし、である。さすがに今回は、いささかピンチなようだ。米中問題も然り、香港の騒動に代表されるような、分離独立的な動きもそうだ。あるいはまた景気そのものの問題、臓器売買やイスラム系・チベット人などへの弾圧はじめ人権問題、挙げていけばキリがないほどある諸問題だが、いずれもかなり限界にきている。
▼その中で、ここでは財務破綻に瀕しているという話を書いておこうと思う。
▼中国の対外債務が急速に膨らみ、中国のみならず潜在的には世界にとって大きな問題になりつつある。
▼公式的には中国の対外債務は1兆9000億ドル(約205兆円)。経済規模13兆ドルの中国にとっては大きな額ではないが、この数字だけ見ていると、内在するリスクを著しく過小評価することになる。
▼昨年9月時点の対外債務全体に占める短期債務の割合は62%だと公式統計はなっている。つまり今年1兆2000億ドルの借り換えが必要となるわけだ。
▼懸念されているのは債務の増加スピードだ。対外債務総額は過去1年で14%増え、2017年初めからは35%増加した。短期債務も、似たようなペースで増大している。これに対して、外貨準備は、公称3兆ドルだが、誰もそんなに現時点であると思っている人はいない。1兆ドルあれば、驚きである。
▼実は対外債務は、もっとあるはずだ、という意見もある。日本の民間調査によれば、中国の対外債務は3兆-3兆5000億ドルだと推計しているものもあるのだ。つまり、公式統計に含まれない香港やニューヨーク、カリブ海諸島といった金融センターでの借り入れを考慮すれば、対外債務総額は最大1兆5000億ドル過少に見積もられている可能性もあるわけだ。
▼習近平国家主席肝いりの広域経済圏構想「一帯一路」を推進するため、ドルでの借り入れなど、政策が対外債務の増加を加速させた。返済は今年と来年、ピークを迎える。これが時限爆弾である。
▼これまで、中国に関して強気派は、「対外債務水準は低く、外貨準備高は巨額であり、金融リスクは封じ込められている」とずっと主張し続けてきた。しかし、今や状況は変わりつつある。
▼17年初め以降、中国の対外債務は四半期ごとに、平均700億ドルずつ増えている。こうした増加ペースが続けば、中国は外貨準備取り崩しか元安容認という受け入れ難い選択肢に向かわざるを得なくなり、いずれにせよリスクはさらに高まる。
▼元安容認などした日には、アメリカがどんな報復をしないとも限らない。「相殺課税」である。
▼こうした中国によるドル建て債務依存の拡大についてしっかりと考える必要がある。資金調達のいかなる停止も深刻かつ予期せぬ結果を招く恐れがあるからだ。
▼今、中国は、米国による事実上の輸入制限などを受けて、塗炭の苦しみの中にある。景気は悪化する一方だから、金融緩和措置をドラスチックに行いところだが、それでは人民元安が強まる。ドル高・人民元安はアメリカが忌避するところだ。
▼かといって、この状況で(香港騒動もあいまって)富裕層や中国系グローバル企業あたりでは、資本の逃避が始まっているようだ。これを止めるには、金利を引き上げなければいけないのだが、そんなことをしたら、株も債券も、そして不動産も耐えられない。
▼資金は無い。一帯一路で大盤振る舞いしすぎたのだ。アジア・アフリカでの支配力を強めるために行ったのだが、大量保有している米国債をかなり担保に入れているということは、公然の秘密であるから、むやみやたらに米国債を換金売りすることすらできない。
▼それでも一部米国債を売ったり、なんとか工面して資金をつくり、人民元を買い支え、そのための担保価値を確保するために、金を買いためている。
▼一般マネーも、恐らく、リスクを取れるものは、ビットコインや金に資金を逃がしたのだろう。このところのビットコインや金の戻り高値更新は、このチャイナマネーの逃避行動ともいえる。
▼人民元からのマネー流出が、一番恐れるのは、中国の国債の価値が毀損するということである。いわゆる格付けだが、これが引き下げられようものなら、ただでさえ金が足りない中国政府としては、金利支払いもできずにデフォルト(債務不履行)ということにもなりかねない。
▼さて、この状況がいつまで続くだろうか。ここでアメリカの金利が再び上昇し始めたら、一体中国になにが起こるか、かなり背筋が寒くなる。
▼一体、どこのほころびから、どういう危機が発生してくるのか、ということは誰にもわからない。そして思い出していただきたいが、かつてサブプライムローンが破綻し、アメリカ発の暴落となった頃である。
▼あの暴落が、ことのほか1929年以来の大恐慌になるのではないか、といった危機感に至ったのはなぜかというと、だれもサブプライムローン(劣悪な不動産担保証券)が何なのか、どのくらいの規模で、誰がどのように痛手を被るのか、まったく全容がつかめなかったからだ。
▼市場が一番嫌がるのは「わからない」ということなのだ。景気が悪化するとかいう話は、危機でもなんでもない。悪化した場合にどのていどまで最悪ひどいことになるか、およそ予想がつくからだ。しかし、サブプライムはその予想の建てようがなかったのだ。誰もその実態を知らなかったためにほかならない。
▼先述通り今年、来年と、債務支払いがピークとなる中国で、危機が起こらないとは誰も言えない。従って、その時点では、一体それがどこまでどういうふうに波及していくのか、サブプライムローン問題以上に、まったく見通しの効かない竹のカーテンの中だけに、グローバル市場の動揺ははかりしれない。
▼かつてのように中国が破綻したところで、世界の資本市場にほとんどかかわっていなかったときと違い、大いに自らクビを突っ込んでしまっただけに、だれももはや全容をつかみきれない状態で危機が起こることになる。
▼思った以上に、このチャイナリスクの炸裂というものは、遠いものではないかもしれないし。従来の「閉ざされた中国」という認識から、世界金融と複雑に関係を以てしまった中国へ変貌しているため、思った以上に、その副作用は大きいような気がするがどうだろうか。
▼日頃から、危機が発生する前のアンテナを、よくよく注意してみておこう。なかなかネットでは見ることができないと思うのだが、中国5年物国債のCDS(クレジットデフォルトスワップ)というのがある。一種の保険効果を持たせた契約なのだ。
▼このCDSが急騰したら、リスクの炸裂が始まったということである。一応、目は光らせておくので、万が一そういう事態が起きたときには、日々のレポートでお知らせする所存。
日韓チャート新聞 編集長
松川行雄
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