【閑話休題】
[記事配信時刻:2016-12-22 16:01:00]
【閑話休題】第450回・練度
▼どういうわけか、となりにある大国は、ことあるごとに日本と自国との比較をしたがる。往々にして、いかに自分たちの国が、日本を凌駕したか、優れた国になったかを自慢することしきりなのだが、その中の一つに、圧倒的な軍事力優位ということがある。
▼まあ、言わせておけばよいのだが、こういう異常な対抗意識というのは、正直不愉快である。こちらは、なんとも思っていないのだ。向こうが、なにかにつけて、日本との比較や、なんとかして自国の優位性を見出そうとするような論調ばかりだからだ。辟易する。
▼軍事力の比較については、ほとんどのかの地の論調は、圧倒的に自国優位で、日本など吹けば飛ぶ、コケのようなものだ、というものばかりだ。しかし、まったく事実認識が誤っている。だいたい、練度が違う。
▼練度というのは、熟練度のことだ。軍隊というものは、どんなに高度な兵器を用いて居ても、練度の水準が最終的にはモノを言う。
▼閑話休題191-193回る「定説を疑え~失敗の本質」で、この練度についてはかなり詳しく書いたことがある。
▼以前、日本の航空自衛隊が、アメリカに赴いて実弾演習を行っことがあるが、当時一機で2発だけの実弾演習であった。受け入れたアメリカ側は、「たった二発か。どんな訓練なんだ。」と笑い話にしていたそうだ。
▼ところが、日本のパイロットたちは、二発ともダイレクトヒットをさせており、米軍関係者の度肝を抜いた。これが、練度である。
▼湾岸戦争でも、米軍は日本に後方支援を依頼してきたわけだが、上記の「話」を裏付けるのは、彼らの要請は常に米機動部隊(空母)の対空警備だったのだ。いかに、米軍が日本の自衛隊というものの練度の高さを評価しているかがわかる。
▼一般のメディアでは、洋上における燃料補給や後方支援だとかいったようなことばかり報道していたので、自衛隊というものに対する米軍の期待がどういうものか、本当には日本人は知らないのである。
▼日本近海で日米合同演習を行うことも多いが、予定時刻に、予定海域に赴くところからすでに演習は始まっているのが普通だ。米機動部隊は、予定時刻の1時間前に到達。そこから砲撃準備などに40分かかっている。
▼有名な話では、このとき海上自衛隊は、予定時刻の10分前に海域に到着。米軍は、「なにか問題があって、遅れたのか」と演習実施を危ぶんだそうだ。
▼ところが、そこから日本側は、神わざとも言うべき、たった3分で戦闘準備を完了している。これにはさすがに米軍は驚愕したという。このため、もう一度、実演してみせてくれと要請したそうだ。結果、あまりに見事な急速スタンバイに、米艦隊からは惜しみない拍手喝采を浴びたという。
▼もちろん、米軍が劣っているということではない。米軍というのは、完全に制空権を握った状態でなければ、艦隊の出動は無い。この支援の下での予定海域における戦闘準備であるから、40分かけてもなんとかなるのである。
▼しかし、自衛隊はそうではない。予定時間寸前に現場に到着し、瞬時に戦闘準備を行い,交戦行動を完了したら、直ちに撤収しなければならない。この軍隊の仮想戦闘に関するスタンスの違いが、日米の練度の違いを生んでいるともいえる。
▼もちろん、日本の軍事力を支えているのは、人的練度の高さだけではない。根本的な技術力がモノを言っている側面も実に多い。
▼たとえば、米空軍のステルス戦闘爆撃機があるが、レーダーが捕捉しにくいということで一般にも知られている。しかし、このF-117ステルス戦闘爆撃機の外面塗装をしている電波吸収塗料は、日本製である。
▼イージス艦は、網の目のようなレーダーの目の集積のようなものだが、その「素子」も日本製である。
▼トマホーク巡航ミサイルも、京セラ製の半導体がなければ、「当たらない」とさえ言われていた。
▼かつて第二次大戦では、日本の戦車はおもちゃのようなもので、ドイツのティーゲル(タイガー)に比べると、恥ずかしいような代物だったが、今は違う。10式戦車(ヒトマルシキセンシャ)だが、最高速度70kmで疾走し、スポーツカー並みのドリフトやスラロームをしながら、適格な連続砲撃を行う。この性能は、日本の軍事技術の本気度がわかるというものだ。
▼再び「練度」に話を戻す。陸上自衛隊の射撃練度も実は大変なものである。近年のことだが、やはり実弾演習ということで、陸上自衛隊の砲兵隊がアメリカに招聘された。そこで、ばかばかしいほどの命中率を見せてしまったことで、アメリカ軍首脳部を恐慌状態陥れている。
▼そのときの成績たるや、米軍側が発射した数十発のトマホーク(巡航ミサイル)に対する迎撃訓練だったが、陸自の砲兵部隊は、全弾撃墜するという快挙をして見せたのだ。しかも、その数十発の後半は、米軍側が超低空、対地誘導その他、あらゆる可能な隠蔽技術をフル投入した上での成績である。
▼少数で、あらゆる制約を課せられているが故に、限界ぎりぎりまで戦力を高めようとする努力の結果が、この自衛隊の練度の高さである。人種の優越性や才能ではなく、肉体が擦り切れるような過酷な日常の訓練の成果なのだ。
▼現代、ことさら科学技術が進歩したことで、経済合理性、情報通信技術の高水準、ゲーム性理論による効率性といったことばかりが、世の中まかり通っているが、AIでさえ、最終的には人間がその重要な因子の選択や比重の加減を行うのだ。ましてや、戦争というものが、結局陸上地域の物理的支配をしなければ終息しないという事実からすれば、戦闘員の練度の高さこそが、決め手になる。
▼日本は、国土も狭く、資源も乏しい。幸いなことに四季折々の豊かな自然環境と、1億を超える人口だけが頼りである。その人口も、今や減る一方だ。本日も年間出生者数が100万人を切ったという、寒々しい報道があったばかりだ。
▼ますます、この練度の重要性が高まってくる。大国というのは、ともするとその物理的な巨大さに依存するあまり、練度がおろそかになりがちだ。そしてこの練度というのは、ただスポ根的に訓練強化すれば成るというものではない。長い歴史と、重厚な文化の積み上げの上に初めて可能なことなのだ。国民の気質と不可分だからにほかならない。
▼どこぞの大国など、5000年という悠久の歴史を自慢することしきりだが、ラーメン一つとってみればよい。5000年かけてこのていどか、ということ一つだけでもお里が知れるというものだ。ましてや、軍隊の練度などかたるに落ちる。
▼幕末、通貨交渉でみせた幕臣・水野忠徳(ただのり)の論理展開力は、アメリカ総領事ハリス、イギリス総領事オールコックに、知性の劣等感さえ感じさせ、江戸期の日本人の上質さに舌を巻いた。同時期、初めて日本からアメリカへと、太平洋を渡った咸臨丸(かんりんまる)の操船を指揮したアメリカ海軍ブルック大尉は、航路計算をしていた小野友五郎の測量・天文知識のレベルの高さに腰を抜かした。
▼1000年以上も前に、女性が書いた物語や小説を多発した平安文化というものは、同時代世界のどこにも見出すことができない。幕末どころではない。
▼隣の国の自称5000年という伝統より、ずっと短い歴史のうち、はるかに重層にして精緻・繊細な文化を積み上げてきたのが、この日本という国だ。そうしたベースが、高い練度を可能にする根本的な背景であり、優れた技術力を生み出してきた原動力なのである。
▼現在、事実上、軍事技術開発が解禁された日本では、着々と次世代「空対艦ミサイル」の開発が進んでいる。XAXM-3と仮名を持っているのがそれだが、900kgの重量で、最低でもマッハ3の超音速で飛翔し、ステルス性を備えているので、迎撃不能である。マッハ5も可能であると言われている。現在、米国のハープーン・ミサイルでさえ、マッハ1前後である。
▼かつて、戦艦大和の巨砲製造の意図が、完全に敵の射程外から目標を撃破するアウトレンジ砲撃力にあった。今回のXASM-3ミサイルは、まさにこのアウトレンジ攻撃を地でいっている。その思想が、今年XASM-3に結集して、その開発完了が迫っている。もう事実上できているのかもしれない。
▼F2戦闘機から発射されるこの空対艦ミサイルは、射程距離200km以上の圏外から発射され、なおかつ超高速で飛翔することで敵からの捕捉率を極度に低め、確実な目標破壊を可能にするために開発された。それによって、F2操縦士の生存率も完全に確保しようとしているわけだ。
▼日本の武力をなめるな。
増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄
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