忍者ブログ

増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第457回・クリストファー・シムズの経済理論〜新古典派台頭

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

【閑話休題】第457回・クリストファー・シムズの経済理論〜新古典派台頭

【閑話休題】

[記事配信時刻:2017-02-10 17:12:00]

【閑話休題】第457回・クリストファー・シムズの経済理論~新古典派台頭

▼経済学原論というものは、時代時代で「はやり」があった。戦前から戦後にかけては、圧倒的にケインズ理論が有名だが、わたしが大学在学中はおおむね教科書の定番は、サミュエルソン理論であった。

(サミュエルソン)

▼90年代に入ると、こんどはスティグリッツ理論が「常識」化した。

(スティグリッツ)

ところが、2007年のサブプライムショック以降、非伝統的金融政策ということで、ベン・バーナンキ前連銀議長が私淑していたミルトン・フリードマン理論(マネタリズム)がにわかに時代の表正面で脚光を浴びるようになった。

(フリードマン)

▼かつて、1929年の大恐慌の折、ケインズ派の財政出動による裁量経済という発想に対し、その限界性を指摘したフリードマンは、貨幣供給を過剰に増大させることで危機を克服するというウルトラCを提唱していた。

(ケインズ)

▼ところが、このフリードマン理論は、あまりにも過激な副作用(インフレ)を恐れる中銀や政府当局からは、長いこと敬遠されていたのだ。「仮説が非現実的でも、結果が妥当であれば、問題ない」という考え方をするのが、マネタリズムの発想である。

▼サブプライムショックによって、経済がデフレ化するかもしれないという恐怖感から、バーナンキ前連銀議長(大恐慌研究の専門家であった)主導で、マネタリズムに基づく量的緩和策を相次いで発動し、ゼロ金利という限界にまで金融緩和を推し進め、徹底的に不良債権の買い支えと償却に務め、結果、奇蹟的に恐慌化に歯止めをかけて、いまや、利上げをしている状態にまでアメリカを復活させることに成功した。バーナンキ前連銀議長が、「非伝統的金融政策」というのは、まさにこのことだ。

▼さてここへきて、今度はこのマネタリズムの限界が垣間見えてきたのだ。日本、欧州、アメリカと、相次いでマネタリズムに基づく量的緩和策を行ったことで、危機回避は成功したものの、そこからの伸びが無いのだ。

▼これが金融政策の限界である。需要を掘り起こさなければならないのだ。ハナから、人口減少に陥っていた日本(2003年をピークに日本は人口減少国家へと転落している)では、デフレ経済に陥って以来、ずっと財政出動をしてきたのだ。

▼そう、つまり、金融政策によって、最悪の金融危機でもリスクの回避は可能だということを示したものの、その後の肝心な需要増大には効果が限定的であるということが明らかになってきたのだ。

▼そこで、財政出動の必要性が叫ばれ、昨年のサミットでは初めて共同コミュニケ中に「財政活用の重要性」が盛り込まれた。安倍首相がホスト役となった伊勢志摩サミットでもこの点が、はっきり確認されている。

▼では、なぜ日本は以前から財政をとめどもなく出動させてきたのに、デフレ脱却ができなかったのか。ここに問題がある。金融政策と、財政出動がなんの関連もなく、ばらばらに行われていたことが問題なのだ。

▼典型的な例が、安倍政権下で行われた消費増税である。黒田日銀は量的緩和という、それ以前の金融緩和の常識を破る、マネタリズムを推し進めて、一定の成果を得た。あとは、そこから景気を浮揚させるのには、当然財政出動で需要を喚起する必要があるのだ。ところが、馬鹿な役人どもが、ちょっと良くなったくらいで、いきなり財政健全化などという綺麗事の正論をまくしたてたために、安倍政権は消費増税に踏み切ったわけである。

▼その結果は惨憺たる有様で、再び成長率はマイナスに沈むというとんでもない結果をもたらした。これなどは、金融政策と財政がまったくかみ合わず、ばらばらに行われた悪しき例として長く歴史に記録されることだろう。元凶は、財務省という伏魔殿である。

▼この金融と財政が、協力してセットで景気回復のシナジー効果を生まなければならないという考え方は、素人でもわかる通り、けして目新しい経済理論ではない。いわゆる「新古典派」と呼ばれる一派の主張だ。いわばマネタリズムを、さらに尖鋭化させて、理論モデルで予測を立てるのだ。

▼財政出動を持ち出すことから、一見すると、ケインズのように思えるが、あくまでこの金融・財政の一致した協力体制が肝である。金融政策が効かないから、財政だ、というのではない。あくまで両方セットなのだ。

▼現在、この新古典派に属する著名な経済学者(ノーベル賞受賞者)が、クリストファー・シムズだ。

(クリストファー・シムズ)

▼シムズの理論で有名なのは、FTPL(Fiscal Theory of the Price Level)だ。これは、一定のステージを想定している。

1 政府が財政支出を増大させる。
2 企業・個人が将来の財政悪化を予測する。
3 通貨の価値が下がる。
4 インフレが発生する。

ケインズのような裁量経済の発想とは実はまったく違い、増税で国家の借金を返そうとするのではなく、インフレによって返そうとするのである。これは、バーナンキ前連銀議長の、「政策はすべからく過剰でなければならない」、「ヘリコプターから紙幣をばらまいてしまえばよい」に通じるものがある。

(ベン・バーナンキ)

▼シムズのFTPL理論のとくに重要な点は、消費者や企業が、インフレによって借金は帳消しになるという「期待」そのものである。

▼したがって、日本がこれまで長い時間をかけて成功しなかったデフレ脱却は、日銀の金融緩和策に対して、首尾一貫した政府による財政の後押しが無かったことなどは、このFTPL理論からいえば、まさに大失敗の典型的な例だということになる。

▼もっと平たく言えば、政府は国債という借金を返済するための財政資金を用意できないから、物価による調整で(インフレにすることで)カドをそろえて返済できたようにしてしまう、ということだ。

▼税負担なく、財政支出の恩恵にあずかる、いわば「タダ乗り」を奨励し、幻想を抱かせることが、すべてのエンジンになってくる。

▼ことごとく日本のデフレ脱却の芽を、財政健全化という大義名分によって潰してきたA級戦犯ともいうべき財務省は、この新たな経済理論にいい加減目を覚ましたら良い。

▼しかも、彼ら財務省が持ち出す財政健全化論は、畢竟、綺麗事であって、つまるところは自分たちが各省の予算配分の権限を保持し、駆使したいだけなのである。公僕としては、最も醜悪な権力欲の権化と言ってもよい。

▼新たに誕生したトランプ政権というものは、連銀が財政出動までは必要性が無い、と言っているにもかかわらず(これは正論である)、それでも大型減税と膨大なインフラ投資を公約にしているわけで、ある意味このシムズ理論の実践者としての役割をもっての登場なのかもしれない。

増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄




増田足15日間無料お試しはこちらから
https://secure.masudaasi.com/landing/pre.html?mode=cs
PR

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。