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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第260回・中央銀行のお仕事

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【閑話休題】第260回・中央銀行のお仕事

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2014-03-24 15:25:00]

【閑話休題】第260回・中央銀行のお仕事

▼ちょっと週明けから、堅い話でいこう。中央銀行の仕事とは何か、ということだ。

▼日本銀行の政策目的とは、その日本銀行法によって規定されている。総則の第一条に、「我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする。」とある。

▼これだけでは、よくわからない。そのため、第二条が続く。「通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。」

▼これではっきりした。日銀の仕事というのは、物価の安定だということだ。この考え方は、ECB(欧州中央銀行)や、個別のたとえばドイツ連銀でも同じだ。

▼これに対して、米国連銀は違う。その法による規定では、「完全雇用(Maximam Employment)」と「物価安定(Stable Prices)」となっており、これが有名な「二つのマンデート(Dual Mandate、デュアル・マンデート、二つの使命)」と呼ばれているものだ。

▼明らかに、日欧の中銀とはスタンスが違う。しかもこれは1970年代のハンフリーホーキンス法で、より強化された。成長の持続という概念である。この法律は2000年に失効しているが、その後も連銀議長は同法時代の慣例に則って、議会証言を行っている。

▼ただ、法律上、文字面でいくら書かれていても、連銀の指導部がそう思わなければ、なにも始まらない。その先鞭をつけたのが、前議長のベン・バーナンキだった。

▼日欧の中銀は、これまでひたすらインフレ抑止にばかり目を向けていた。米国連銀も実はそうだったのだ。ところが、世の中はデフレのリスクに怯えはじめ、日本がその一番最初の悪しき実例として、現実にデフレの恐怖をまざまざと見せ付けたのである。

▼中銀がそれまで目の仇(かたき)にしていたインフレとは逆で、景気がよくても物価がそれほど上がらず、景気が悪くなると、どんどん物価が下がり続けてしまう、景気失速の悪循環が発生しがちだということがわかってきたのだ。

▼私見では、この大きな変化は、やはり90年代中盤以降の、米国にはじまるインターネット社会の浸透であろうと思う。

▼それまで、銀行の窓口業務を例えていえば、ATM化が進むことで、コストは10分の1に劇的に低下した。さらにインターネットによる電子決済方式が浸透するにつれて、コストは100分の1に低下した。といったような具合だ。

▼これを一言で言えば、人手がそれほどいらない社会になってきたということを意味する。ある意味、「恐るべき進歩」とも言える。

▼そもそも、物価というものの6-7割は、賃金によって左右される。賃金上昇があって、はじめて物価が上昇するのだ。資源価格など、物価への影響度からいったらわずか1割前後しかないのだ。

▼その賃金がなかなか上がらなくなってきたのだ。労働市場の流動化によって、終身雇用のようなコスト高のシステムが次第に崩れはじめ、臨時雇用に依存したほうが、企業はコスト的に楽だ。インターネットの普及によって、この雇用不要の社会現象に拍車がかかった。

▼これではたまらない。中央銀行が、それまで目の仇にしていたインフレなど、起きっこないという状況なのだ。それどころか、放っておけば物価は下がり続けてしまう恐怖に苛まれるようになったといってもいい。

▼バーナンキ議長は、そこで「非伝統的金融政策」に打って出た。つまり、金利を調節するだけで、なんとかなった時代と違い(しかもサブプライムショックという、恐慌突入の危機的状況でもあった)、デフレの恐怖を払拭するためには、むしろインフレに向かって、振り子を動かさないと、とてもではないが真ん中では止まらないということだ。

▼そこで、資産買い入れによって、通貨供給量を一気に増大させ、自国通貨安を引き起こし、インフレ効果を出そうとしたのだ。量的緩和と呼ばれるのは、この政策のことだ。

▼当時、頭の固い経済学者やメディアなどは、こぞってバーナンキ前議長と連銀のなりふり構わない政策を批判したが、けっきょく世界で一番最初に危機から立ち直ったのは、米国だった。

▼黒田日銀総裁も、今、この米国連銀と同じ道を辿っている。先日の記者会見でも、「もっと早く行っていれば、物価目標の2%という数値は、とっくに達成できていたはずだ。」と述べたが、そのことだ。ECBも、ドイツの度重なる反対を押し切って、ドラギ総裁が、同じ道に踏み出している。

▼さて、ここでとても重要なことを書こう。今、米国連銀は、デフレ突入の淵から逃れ、ついに成長持続へと回復し始めている米国経済に対して、量的緩和策の縮小を始めている。デフレ(左)に振れた振り子を、無理やり右に振らせ(インフレ)、ほんとうのインフレにならない(振り子が右に振り切れてしまわない)うちに、振り子をちょうど真ん中のニュートラルな位置に定着させようというのだ。

▼この神業とも曲芸とも思える連銀マジックは、成功するだろうか。市場で運用を行うわれわれにとって、この連銀が今、何を考え、何がどうなると思っており、何をしようとしているかを探るのに、一番重要な指標がある。それは米国10年国債利回りだ。

▼というのも、先述の「二つマンデート」と呼ばれる「完全雇用」「物価安定」という言葉には、さらにもうひとつの言葉が続くのだ。ところが、意外にこの言葉が、ないがしろにされて、新聞などにもなかなか出てこない。その言葉とは、「穏やかな(Moderate)長期金利」というものだ。

▼長期金利とは、米国10年国債利回りにほかならない。従って、すべての政策の先行性というものは、この米国10年国債利回りによって表現されるとみていい。

▼毎日、「朝の作戦」などで、しつように米長期金利の位置と動きを解説したりしているのは、このためだ。これを、ファンダメンタルズというのだ。




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