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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第330回・機関車の理論

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【閑話休題】第330回・機関車の理論

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2014-10-10 15:52:00]

【閑話休題】第330回・機関車の理論

▼「機関車の理論」というのがある。と偉そうに書き始めたが、これはわたしが名づけただけで、世の中ではほとんど誰も知らないのだが。世界の金融危機が起こるか起こらないかの判断基準の一つだ。

▼世界経済がとんでもない危機に陥るというのは、これまでも何度も繰り返し叫ばれたのだが、そう滅多に起こるわけではない。そして、その最大のポイントは米国経済一つにかかっているといって良い。

▼「機関車の理論」というのは、米国経済を機関車に見立てている。これが磐石であれば、後ろの貨車がどう問題になろうとも、必ず短期間に修復が可能だという理論だ。ところが、肝心の機関車が動力機関に不調をきたせば、後ろの貨車はすべてトラブルに陥る。つまり、機関車次第だということだ。

▼これを世の中に公表したのは、1997-1998年のアジア通貨危機のときだった。当時、わたしは、証券会社勤めで、株式本部にいた。ところが、社内の方針を逸脱する言動が目立ち、なかなか思ったことが発信させてもらえなくなったため、源氏名を使って、外部に今で言うとことのブログをつくり、そこで勝手に自分の持論を展開したのだ。

▼アジア通貨危機は、当時、米国景気が絶好調で驀進しており、それに伴い、恩恵をうけた東南アジア諸国など新興経済国家が、軒並み好景気に見舞われていた。ところが、ドルとそれらの通貨は固定相場制で為替レートは一定だった。このため、ドル高局面が続き、新興経済国家の通貨もドル高に伴って上昇してしまった。

▼これがすべての発端だった。新興経済国家は、身の丈にあわない自国通貨高によって、輸出がままならなくなってきたのだ。このギャップにつけこんで、ヘッジファンドがこれら新興経済国家通貨を、ショートで叩き売り始めたのだ。

▼これがアジア通貨危機の発端で、韓国ウォン、タイバーツ、マレーシア・リンギット、インドネシア・ルピー、そして、さらにはロシア・ルーブルにまで通貨暴落が波及し、にわかに世界恐慌再来という危機感に見舞われたのである。

▼事情や経緯はもっと複雑で、さらにこの事態収拾に当たっては、米国連銀がいわばヘッジファンドを救済するような手段を講じるなど(彼らの逃げ道を作って戦線離脱させた)、さまざまな面白い話があるのだが、それはさておき、日本でも世界恐慌だ、という議論が沸騰していた頃、わたしがブログで展開した議論はそれに一石を投じようというものだった。

▼それが「機関車の理論」である。基本的に機関車がしっかりしていた1997-1998年当時、恐慌になるはずはない、という結論だった。もちろんそれには条件があって、米国を中心に各国が、通貨暴落に陥った国を支援する態勢を取れば、である。そして、それは行われていた。IMF国際通貨基金の特別融資である。

▼この「機関車の理論」がもともと生まれた最初のきっかけは、1929年の大恐慌をどう解釈するか、ということからだった。戦前の大恐慌では、機関車役だった英米経済自体が、不調となってしまったのだ。アジア通貨危機とは反対である。

▼しかも大恐慌のときには、この肝心の英米が、あろうことか高率関税を行ったりして、ブロック経済に踏み切った。「よその国のことなどかまっていられるか」という態度である。つまり、機関車が、重荷となってきた、後ろに連なる貨車の「切り離し」を行ったのだ。

▼この結果、貨車の国々(日独など貧しい国々)は、弾薬を満載していたということもあって、脱線、暴発してしまった。戦争への道行きである。

▼わざと切り離したという説もある。貨車を爆破・暴走させるためだ。とくに米国は、ケインズ流のニューディール政策が、3年で失速、大失敗に終わってしまったため、大恐慌からの復活の方法がまったく無くなってしまっていたのだ。その活路に、戦争による軍需景気一つに賭けたのである。

▼この無責任な英米の当時の判断については、当時からマネタリストのフリードマンのように、徹底的な糾弾が行われていた。現在でも、まともな経済学者で、第二次大戦が日本のせいだなどといっている人は、百人中一人もいない。第二次大戦の経済的な要因は、百%、英米の無為無策、無責任、誤断、エゴイズム以外のなにものでもないというのが、経済学上のコンセンサスである。

▼話を戻して、このように大恐慌というものは、機関車が不調となって、しかも機関車と貨車が協力体制をとらなかったことが原因である。ところが、97-98年のアジア通貨危機の場合には、米国はいち早くIMF(実質的には米国の傀儡・かいらい)を通じて、各国への緊急融資に踏み切った。

▼もちろんこれには抵抗もたくさんあった。韓国などはその最たるものだが、不幸なことに事実上、破産国家としてIMFの管理下におかれるような有様など、屈辱的な状況が各国に発生した。

▼そして、グローバリズムの名の下に、各国のそれまでの伝統的な社会・経済構造に、大鉈を振るうことを強制されたのである。いわゆる、構造改革の強制である。

▼機関車にものをたとえれば、アジア通貨危機では、機関車は元気一杯だった。ジェットエンジンか、ターボチャージャーか、というくらいのものだ。95年から、完全にインターネット社会化が進んでいた唯一の国家・米国は、信じられないようなコスト低下の奇蹟を享受していた。

▼それまで、世界を席巻していたはずのNECの98シリーズのパソコンと、同じ機能のパソコンにもかかわらず、米国のコンパックは半値で販売できたのだ。戦後、日本の製品で、同質のものを生産して、米国製より高いなどということはありえなかったのだ。

▼その神話が音をたてて崩れたのが1995年、ウィンドウズ95の登場だった。日本はその後、構造不況、金融恐慌とどんどんデフレ経済の真っ只中を落ち込んでいくことになった。が、米国は独走状態である。

▼そこに起きたのが97-98年のアジア通貨危機だった。これに対して、米国は、IMFという修理屋を各車輌に派遣した。インドネシアがルピーという連結部分が切れそうだ、と騒ぐと、そこに行っては溶接し、韓国がウォンという連結部分が切れそうだ、と狼狽すれば、またそこに行っては溶接した。

▼その代わり、助けてあげるから、あんたも重い無駄な荷物を捨てなさい、と要求した。それが、構造改革である。これが、伝統的な社会・経済制度を揺るがしかねない内容だけに、大変な抵抗を呼び起こし、反グローバリズム、反米といったような、きわめてお門違いの感情論が世界中に蔓延することにもなった。しかし、これで、危機は回避されたのだ。
少なくとも、戦前のような悲惨さを味わうことにはならずに済んだのだ

▼これが、「機関車の理論」だ。理論と呼んだが、単純な話である。今回はどうだろうか。不調をきたしているのは、欧州大陸である。またしても英米ではない。南米などの新興経済国家である。韓国もそうだろう。また、中国もそうなのだが、あそこは、なにしろ強権発動でどうにでもなる。

▼そう考えると、米国さえ磐石であれば、欧州を襲っているデフレ危機も、世界恐慌や金融不安から世界経済の破綻にまで至る可能性は無い、ということになる。問題があるとすれば、恐らくこういう議論だろう。「いや、米国そのものがデフレに突入するかもしれない」という不安だ。

▼これについては、正直わからない。今の状況では、ありそうにない。ただ、唯一、気になるとすれば、米国景気が拡大基調だというにもかかわらず(来年利上げ想定)、年初から一貫して米10年国債利回りが低下し続けているというミステリーだ。

▼これが、米国もデフレ突入だという懸念の根拠になっている。もちろん、この長期金利低下には、欧州がデフレ突入であるから、欧州国債が、日本国債のように買われ、極端に利回りが低下してしまったことで、格付けが最高の米国債のほうが、利回りが良いというとんでもない状況になっているということを導いていると解釈できる。

▼しかし、それで割り引いても、やはりここまで米国長期金利が低下するのは、なにも欧州発の需給的要因だけではないのじゃないか、という懸念が台頭しているのだ。だから、金が上がらないのだ、だからドルが110円からなかなか上昇しないのだ、だから株が下がったのだ、だから商品市況が下がっているのだ、だから・・・・となんでも、米国のデフレ化という新しいキャッチーな悪材料に飛びついている向きが無いではない。

▼正直、この米国のデフレ突入シナリオは、わからないとしか言えない。一応、米10年国債利回りが、2.2%を割らなければ、そのシナリオは無い、と考えている。ただ、そのぎりぎりまで低下することは、危機感が煽られれば、十分に可能性はあるだろう。

▼今、世界の機関車は、ほとんど減速していない。貨車は、きしみ始めている。しかし、かつて、最大のお荷物だった日本という貨車は、逆に、動力機関さえ搭載しようかというところにまで復活してきている。およそ、97-98年の通貨危機のような、世界経済の恐慌・破綻懸念は杞憂だろうと思っている。

増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄




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