【閑話休題】
[記事配信時刻:2016-04-08 16:45:00]
【閑話休題】第413回・パナマ文書(PanamaPapers)
▼明日の【赤備え・週報(編集長の独白)】で、外国人勢の日本株売りや、世界全体の相場の緩急について、4月2日に掲載した分にさらに追加して解説する。そのための一つの前資料として、読み物を書いてみる。大問題に発展しそうな気『パナマ文書』である。
▼激震が走ったのは、4月3日の日曜日、世界で100を超えるニュース媒体が一斉に、それまで知られていなかったある膨大な資料について報じ始めた。パナマの法律事務所モサック・フォンセカから流出した1100万件以上の内部文書だ。
▼モサック・フォンセカは、世界の権力者や富裕層がパナマのタックスヘイブン(租税回避地)にペーパーカンパニーを設立し、資産隠しや麻薬・武器取引、脱税などに利用するためのアドバイスをしていたのではないか、と疑われている。
▼ちなみに、タックスヘイブンというと、「ヘイブン」という言葉を、日本人はheaven(ヘブン=天国)と誤解している人がいる。これはhaven(ヘイブン=逃避地)の意味だから、間違えないように。
▼モサック・フォンセカの40年にわたる秘密の記録を最初に入手したのは、ドイツの南ドイツ新聞と国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)。そICIJは、米国ワシントンに本部がある。これを70前後のメディアで手分けし、400人規模で、1年かけてウラを取ったのが今回の報道だ。
▼一説には、モサック・フォンセカの内部告発があったとされるがこのへんは藪の中である。命の危険があるだろうから、当然出て来るはずもない。いたとして、本人たちはフォンセカには今、いないだろうし、とっくに高飛びし、おそらく米国の諜報機関のバックアップで、顔も名前も、国籍も変えて、安全確保されているはずだ。
▼このパナマ文書で名前の挙がった政治家や官僚や家族・友人の詳細なリストのうち、すでに明らかになっているのは、カタール前首相、同じく前首長(国家元首である)、ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領等等、おびただしい。
▼このほか、アルゼンチンの大統領マウリシオ・マクリ、アラブ首長国連邦の大統領ハリーファ・ナヒヤーン、サウジアラビア国王サルマン・ビン・アブドゥルアズィズ、アイスランドの首相シグムンドゥル・ダヴィード・グンラウグソンなど現職も多い。
▼現職ではない名には、グルジアの元首相、イラクの元首相、ヨルダンの元首相ア、ウクライナの元首相、スーダンの元大統領など。
▼多くの政府関係者の親族や友人の名前も文書に書かれており、公表された人々の出身国はアルジェリア、アンゴラ、アルゼンチン、アゼルバイジャン、ボツワナ、ブラジル、カンボジア、チリ、中国、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、エクアドル、エジプト、フランス、ガーナ、ギリシャ、ギニア、ホンジュラス、ハンガリー、アイスランド、インド、イタリア、コートジボワール、カザフスタン、ケニア、マレーシア、メキシコ、モロッコ、マルタ、ナイジェリア、パキスタン、パレスチナ、パナマ、ペルー、ポーランド、ロシア、ルワンダ、セネガル、南アフリカ、サウジアラビア、韓国、スペイン、シリア、イギリス、ベネズエラ、ザンビアの46カ国である。
▼幸か不幸か、日本人はいない。それだけの金持ちがいないということなのか。それとも、149件には入っていないだけのことで、1100万件の中には入っているかもしれない。とくに、80年代バブル時代の記録になると、いきなり日本人名が飛び出してくる可能性もある。
▼いきなりこの報道が耳目をにぎわしているのは、例えば、ロシアの大統領のウラジーミル・プーチンの本人の名前はないものの、3人の友人の名前が文書にあることだった。また、中国共産党中央委員会総書記習近平の義兄(姉婿)、中国元国務院総理李鵬の娘・李小琳、イギリスの首相デーヴィッド・キャメロンの父親、パキスタンの首相シャリフの子供達、メキシコの大統領エンリケ・ニエトの「大好きな契約者」などの名前がある点だ。
▼これが米国という謀略の巣で爆弾を炸裂させたことが問題なのである。誰が、何のためにこの暴露に踏み切ったのかということである。謀略以外の何ものでもないことは、明らかだ。
▼たとえば、キャメロン首相は、グローバル企業が自国にある本籍を、海外の低法人税国へと移していることに関して、「脱税である」と糾弾する急先鋒であった。米国でもこの運動は激しく、昨年から大問題になっていたことはご存知の通りだ。このキャメロン首相本人が脱税容疑で挙げられるなどということにでもなれば、このアンチ大企業運動にとっては大打撃である。
▼あるいは、中国政府は国内で、仮借ない汚職摘発・撲滅運動を推進している一方で、大ボスの習近平自身の親族が、脱税していたということになると、国内騒乱に火をつけかねない。今週に入って、中国ではインターネットでこのパナマ文書に関するワードが削除され、徹底的にアクセス不能にしている。
▼余談だが、スポーツ界などにおいても、要人やアスリートの名が上がっている。例えば、南米サッカー連盟の元会長であるエウヘニオ・フィゲレド、欧州サッカー連盟の元会長であるミシェル・プラティニ、国際サッカー連盟の元事務局長であるジェローム・バルクなどだ。金塗れですでに大問題が露呈していた国際サッカー連盟だが、追い討ちをかけるような材料になっている。アスリートでは、アルゼンチンのプロサッカー選手リオネル・メッシも名が挙がっている。
▼こういう話は国際政局を野次馬のように見ている分には、おもしろいやれやれ、といった気分なのだが、こと金融市場にどういう影響があるのか、と考えると、まかり間違えるとたいへんなダメージになりかねない。
▼ポイントは、「脱税」である。つまり、富裕者層ばかりだから、当然タックスヘイブンに流していた金といえば、ヘッジファンドにかなり運用させているはずだ。これを慌てて、まずは資金回収に動いている可能性があるのだ。
▼当然、黒い話だから、できるだけそれとわからないように売らなければならない。しかし大量である。この動きは、たとえば日本で、13週連続で、累計1兆を超える外人売りとなっていた、本質的な要因であった可能性も否定できない。
▼通常その規模の売りが出てきた場合、1987年のブラックマンデー以上の売り玉であるから、暴落していてもおかしくないが、まったくそれがなく、日本の証券自己がすべて引き受けるという形で、相場を崩さずに換金化されている。
▼もちろん、そういう上手に売り抜けるケースばかりではないだろう。下手を打った換金売りも多かったはずだ。年初からの世界的な株安が、ある意味異様な下げ方だったことを振り返ると、この種の富裕者層がヘッジファンド解約にともない、換金売りがどっと出たというのが、本質かもしれない。
▼思えば、ヘッジファンドというのは、(これが嘘だという話もあるし、市場では一般的にそう信じられているが)期末、中間期末、あるいは四半期末に、ファンドによって解約を受け付けている。
▼それは、2月、5月(中間)、8月、11月(本期末)である。従い、従来、解約から45日前ルールといって、前月中旬に売りがかさむというアノマリーが昔から指摘されていることでもある。
▼思い出してみよう。今年1月からいきなり世界の株価が総崩れとなったのだ。2月が解約だとすると、45日前ルールでいえば、1月15日には売りがどっとでるということになる。日経平均の安値は1月21日だった。
(ヘッジファンドの期末と、解約請求に基づく換金売りタイミング=45日ルール)
▼2月に、日本株はもっと安かったが、海外市場ではたいてい1月がボトムである。さて、次だ。今度は、5月である。ここは重要だ。先述のパナマ文書の完全版公開が5月初旬とされているからだ。
▼5月に解約すると言う場合、45日前ルールでは4月15日である。ここまでに換金売りがかさむということになる。恐らく、第一波の換金売り(年初1-2月)でおおむね、急いだ向きは換金売りを処分したと思われるので、年初ほどの下落にはなっていないのは、このためだろう。
▼が、いずれにしろ、米国株市場が戻り一巡から下げ始めたのは、3月21日(ダウ輸送株の戻り高値)、4月1日(ダウ工業株)からである。
▼ちょうど【赤備え・日報及び週報】では、相場の変化日として次は4月12-13日としている。アルコアに始まる米国企業の決算発表が11日、変化日12-13日、15日が米国個人の連邦税支払い期限(換金売りの最終期限)と、重要日程がちょうど団子のようにかたまっているのが、4月前半である。
▼そこに、ヘッジファンド5月中間期末での解約にからんだ、換金売りの期限である45日前ルール、4月15日がかさなる。
▼しかし、このていどの下落であれば、やはり、かなり「危険を察知している資金」に関しては、年初の換金売りで峠を超えている可能性は高い。
▼もっと言えば、連続で日本株売り越しをしてきた「外人」だが、4月第二週以降に、この売り越しが止まってくるとすれば、この売り圧力は当面、終息したという判断になってくる。相場は、【赤備え・日報及び週報】で展開している、7月4日(変化日)まで、相場は上げ調というシナリオに、ちょうど話が符号してくることになるのだ。
▼さて、そのように都合よく、話は運ぶであろうか。この問題は、今後長く各国の政局を揺るがす材料になるだろうし(実際アイスランド首相は辞任)、アメリカがこれを、麻薬取引や、武器取引、不正資金流用や送金などをネタに、各国の反対政府などを攻撃するための材料にしていくことは充分に考えられる。
▼5月のヘッジファンドの中間期末の次は、奇しくも8月である。つまり、その45日前ルールでは、7月15日ということになる。変化日の7月4日には、いったん株式投資から撤退という現時点でのシナリオ想定は、気持ちが悪いほど、話が見合ってくるのだ。
▼最後は、11月の本期末である。それは、よくご存知の10月という毎年、一番株が下がりやすいアノマリーで知られる、魔物のすむ10月である。
▼以上は、「お話」ではあるが、最終的にカネの話であるから、国際的な金融市場に今後、意味不明の(年初の下げのような)、とんでもない波乱が起こるとしたら、この種の特殊な需給関係が働いている可能性があると思っていよう。これを、杓子定規に、ファンダメンタルズで解釈しようとしたりするのは、愚の骨頂だということになる。
▼たとえば、トヨタ自動車がここまで売られる理由は、トヨタには無いし、まったく間違った下落相場だということになるが、トヨタが下がる事情は、持っている株主の内部事情によって決まる側面もある。彼らが、なんらかの事情で売り切りたいとすれば、それが終わるまでトヨタは下がり続けてしまうことになるわけだ。逆にそれが一巡したのであれば、不合理なトヨタの株価水準は、黙っていても、元に戻るはずである。
増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄
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