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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第56回・バブルの正体

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【閑話休題】第56回・バブルの正体

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-05-23 18:05:00]

【閑話休題】第56回・バブルの正体

▼もういい加減に勉強したらどうでしょう、と思ってしまうのは、“識者”や“専門家”と称する方々の、「株式相場はバブルだ」という言説だ。株が上がればバブルだと、判で押したようにのたまう。私も市場にかかわって、これで26年目になるが、この世迷いごとにはほとほと嫌気がさす。

▼そもそもバブルとは、金利が止めどもなく上昇する過程で、株価が延々と上昇し続ける状態のことだ。つまり、株価が金利上昇を無視し、それをなんとも思わない、という状況である。1989年の年末に、日経平均が史上最高値をつけたときのことを思い起こせば分かりやすい。当時、半年前から日銀は利上げに踏み切っており、10年国債利回りは7%にまで上昇していった。この金利上昇をものともせず、株式相場は狂乱の高騰を続けていたのだ。

▼マネーというものは、有利なほうに動く。極端に言えば、1年間の運用を見通した場合、国債を買って元本保証で利回りを享受したほうが得か、それともリスクをとってでも株に投資したほうが得か、という天秤(てんびん)にほかならない。当時は、7%の利回りを確実に取れるという国債に軍配が上がったのだ。7%というのが、当時の経済常識からいって、国債と株の投資がひっくり返る分水嶺だったとも言える。

▼一年間、株式運用を一生懸命にやって7%のパフォーマンスを出すより、ただ国債を買って、放りっぱなしにしているだけで7%の金利がついてくるなら、国債のほうが楽じゃないか、という判断だ。そこで、株は暴落した。それでは今、分水嶺になる金利水準はどこか、という問題になる。とてもではないが、現在の国債利回り0.8%前後の状況下で国債有利と言う人間はいるまい。

▼それが今日は国債暴落で1%に跳ね上がった。米国のそれは、2%に跳ね上がった。休みなく上昇し続けた株が、びっくりして下げても当たり前。狼狽(ろうばい)するようなことではない。

▼実体経済以外のところに、アブれたマネーが流れ込むことを俗に過剰流動性と言う。金利がきわめて高く上昇している中でこうした現象が起こるのは、確かに市場の自浄作用がまったく失われていると言える。熱狂(マニア)という局面だ。だいたい景気過熱後に起こることが普通で、金利と株価が競り合った場合、最終的に株価は必ず金利に敗北する。

▼ところが、今はどうか。世界中の先進国がゼロ金利状態である。極端に金利が低い。それも先進国同時というのは、戦後世界で経験したこともない状況だ。確かに金融政策を超緩和しているから、きわめて過剰流動性が高いということになるが、米国、ドイツ、そして日本とわずかに先行きの明るさが見える経済に、そうしたアブれた資金が流れ込んでも当然。流れないほうがおかしい。いや、流れ込ませたいのだ。

▼景気が一向に動こうとしないから、米国連銀のバーナンキ議長は、それこそ「バブル的な傾向」を演出することで(つまり、大量のマネーを株価や不動産に誘導して)、資産効果を挙げることで、逆にそれをテコとして実体経済を無理やり動かそうとしているのだ。従来の金融政策からすれば禁じ手とも、タブーとも言われたフリードマン方式である。だからこれを「非伝統的金融政策」と米国では呼び、日本では「異次元の金融緩和」と呼ぶ。

▼本来、専門家であるはずの機関投資家も不甲斐ない。なにしろ彼らのおかげで、1%以下の利回り債券に世界中の2000兆円が呻吟(しんぎん)しているのだ。日本の国家予算92兆円を考えれば、とんでもないくらいバカバカしい運用を機関投資家はやっていることになる。そうした彼らに大金を預けている投資家も、どうかしているとしか思えない。これこそ「債券バブル」と言わずになんとしよう。常軌を逸した債券投資には目をつぶり、ちょっとでも株が上がると「バブルだ」と騒ぐこの国の習性は、何か経済や金融に対する根本的な誤解か、無知がなせるわざであろうか。

▼今回、外国人も動きが遅かった。昨年11月から日本株を買ったのは、外国人といってもほとんどはヘッジファンドだけだった。ここへきて、日本の経済や市場を調査するためのデリゲーション(使節団)が大挙してやって来ているが、これは一般的な投資信託や金融機関の運用者たちだ。そのあまりのアクションの鈍さには一驚する。すでに、日経平均は昨年11月から70%も上昇しているのだ。プロなら、今までいったい何をしていたのか、と言いたくもなる。

▼しかし、そのような外国人を笑うことはできない。日本の個人投資家(多くは、大口の人たちだろうが)はずっと売り越しできているのだ。やっと動き出した外国人がしこたま買い込んだあと、日本の個人投資家が素っ天井を買うといういつものパターンになるのだろうか。

▼もちろん、日経平均で何百円単位の急落などいつでも起こりうる。今日は何と1144円も下げた。するとおそらく、「そらみろ、言わんことじゃない。やっぱりバブルだったのだ」と“識者”や“専門家”がのたまうこと必定。彼らは株価が上がること自体をバブルと呼んでいるとしか思えず、株式投資を競馬や競輪などと同レベルのものとみなしているその浅はかさが、実に情けない。江戸時代の米相場において、世界で始めてロウソク足というチャートを生み出した、世界でも稀に見る「資本主義的な」相場民族が、いったいどうしたことだろうか。

▼アメリカでは、小学校から投資理論を勉強する。小さいころから、知的なケンカの仕方を徹底的に教わるのだ。考えようによっては、憲法改正より、徴兵制より、まずそのほうが先かもしれない。世界のケンカは、何も武力だけではない。マネーのケンカのほうが、はるかにスマートで威力が大きいのだ。

▼そもそも、これだけ金利が低いというのは、すべて政府・日銀のせいだけではない。直接的には、銀行の運用が下手だからにほかならない。日本人は、どういうわけか銀行にマネーを預けることを、タンス預金の延長としてしか見ていない。銀行に金を貸していることへの認識が薄いらしい。そしてついてくる金利は、タダ同然。金利が低いのは、銀行の運用がなにしろ下手だからである。しかし、預金者たちがそのことについて憤激しないことも、七不思議のひとつだ。ならば、自分で学んで、自分で運用しようという気にならないものなのだろうか。これまた、七不思議である。

▼世の中は、「自己責任」という大原則がまかり通っている。しかし、当局は国民に、「とにかくリングに上がれ」と言っているわけだが、その反面、グローブのはめ方も、クリンチの仕方も、ジャブもストレートもフックも、何も教えていない。そのような状態なのに、国民はトランクスを履いてリングに上がっている。やはり、「外国人」によってやっと目が覚める国民性というのは、黒船来航以来160年経っても変わらないということなのだろうか。

▼景気を回復させるための大事な、唯一のテコである株価が値崩れしようとしている今、米国連銀とその後を追った日銀が、このまま手をこまねいているとは、とても私には思えない。

増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄



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