【閑話休題】
[記事配信時刻:2017-08-04 16:20:00]
【閑話休題】動画URLを追加済み~第481回・幽霊は足跡を残す
▼夏真っ盛りだから、怪談を書かないわけにはいかない。不快な人は、読まないように。
▼このタイトルは、怪奇現象のルポルタージュを専門に書く小池壮彦氏の著作タイトルだ。今回、タイトルを拝借した。
▼普通、怪談というと、殺人事件が起こったり、自殺現場だったりした「いわく付きの土地」で、幽霊が出るというパターンだ。すでに、周囲の人間は、そこがどういう場所であるかを知っているから、科学的には潜在意識の誤作動(妄想や錯覚)によって、幽霊を見た気がするだけだ、という解釈も成り立つ。いわば、先入観が引き起こす現象だと片づけられてしまう。
▼ところが、怪談にはまったく逆のケースもあるのだ。突然、そうしたいわくも何もない場所で、どういうわけか幽霊の出現が「突然」始まり、通行者や近隣住民が恐れおののく。後でそこで死体が発見されたというパターンだ。これはどう説明すればよいのか、という話だ。
▼騒ぎは、埼玉県にある永福寺の近辺で起こった。この永福寺という寺は、秩父霊場二十二番札所としても知られており、霊場巡りをする人たちが立ち寄る名刹(めいさつ)である。
▼1976年(昭和51年)夏頃から、この近辺に幽霊が出るという噂が広まり始めた。あるタクシー運転手が、深夜にこの辺りを走っていた時、道端にうずくまっている女を見つけ、具合でも悪いのかと思ったらしいが、気味が悪いので通り過ぎたところ、バックミラーにはすでにいなかった。
▼同じような時期、このタクシー運転手だけではなく、実際に幽霊らしきものを見た、という人が何人も現れている。トラック運転手や、地元の住民も頻繁にこの女を目撃して騒ぎになったのだ。
▼中には、車を停めて、近づいて行ったところ、女は顔がどろどろに溶けているようだった、というとんでもない話まで飛び出すようになった。
▼当時一帯では「殺人事件」で、死体がどこかに遺棄されているのではないか、という噂がしきりに立ったのである。この段階で、地方版の新聞ではこの「噂」がたびたび記事として書かれている。
▼目撃談の共通項は、女、黒いセーター(夏でも)、顔がどろどろに溶けているような感じ、という三点である。
▼翌年の1977年(昭和52年)になると、騒ぎはますます拡大し、「自分も顔が溶けた女を見た」という人が後を立たなくなった。これは、集団心理のなせるわざか、それとも本当に見た、のであろうか。
▼不可解な事実がある。1977年(昭和52年)12月1日、永福寺の門の近くの山道で「オバケガデル」とチョークで書かれた30cmくらいの石が発見された。しかもこの石は誰もいじってないのに、いつの間にか移動しており、毎日、場所が変わっていたという。後でわかったことだが、どういうわけか、遺体発見現場の周辺をぐるぐる移動していた。(後に犯人がやったことではないことが判明している。)
▼そしてその一週間後である12月7日、事件が発覚した。防火用の貯水槽があるのだが、地元の消防団の男性がたまたま消防の業務の一環で、この防火用貯水槽のフタを開けてみた。彼は、夜、急にくだんの貯水槽のことを思い出し、点検を忘れていたことに気づいた。そこで、翌日現地に赴いて事件が発覚したのである。
▼その瞬間、異様な臭いが貯水槽の中から漂ってきた。中を見てみると、水の中に人間の背中が浮いている。死体発見である。
▼地元紙で、たびたび「噂」として報じられていた幽霊騒ぎの道路沿い、「オバケガデル」という不可解な石の出現と移動、これらはすべて死体発見現場の貯水槽を中心に発生している。
▼顔は、腐乱が進行しまったく原型をとどめておらず、結局検屍は、奥歯の治療跡に絞られた。結果、以前から行方不明になっていた地元女性、21歳の女性「Y」だと判明。遺体は、黒いセーターを着ていたことが確認されている。
▼くだんの消防団員が、貯水槽を最後に点検したのは、約1年前であるから、秋から冬にかけてである。セーターというのは季節的には一致する。女性Yは妊娠6ヶ月であったことも確認された。
▼警察は殺人事件として捜査を始めたが、当初は慰留品が無いため、難航が予想された。ところが、捜査開始3日後、女性Yと付き合っていた男性が捜査線上に浮かび、任意聴取したところ、犯行を自供し逮捕されるというスピード解決となった。
▼動機は、妊娠した女性Yが、結婚を迫ったために、殺したというものだった。新聞報道は、それまで地方紙などでたびたび取り上げられていた、「幽霊の噂」を引っ張り出し、これが事件解決の糸口になった、と書いている。全国版の週刊誌でも一斉に取り上げた記事にしている。しかし、これは事実誤認である。得てして、オカルトにすべてを結び付けようとする報道意図があった場合、こうした話のでっち上げになる。こうした「捏造」が、かえって幽霊否定論者からの指摘を誘い、幽霊というものが、非科学的だと片付けられてしまう一端になってしまうのだ。メディアが、いけないのである。
▼幽霊が出ていたという目撃自体は事実である。しかし、幽霊出現が貯水槽における女性死体発見と直接結びついていないのだ。あくまで消防団員が、「たまたま」1年ぶりに貯水槽を点検したら、わっと驚く事態になったというだけである。
▼ただ、この消防団員が、地元の幽霊騒ぎを聞いていて、潜在心理にそれがあれば、自分の仕事の守備範囲でもあり、忘れていた貯水槽点検を思い出したというつながりは、否定できない。これも、あくまで偶然の産物であるから、やはり幽霊が死体を教えたと報道する新聞記事は、行き過ぎとしかいいようがない。
▼この怪談には、後日談がある。そのほうが、怖い。ルポライターの小池氏が、カメラマンの住倉カオス氏とともに、この「心霊現象」の検証をしているのだ。
▼二人が、検証のため、2004年にこの地を取材に訪れた。問題の貯水槽はすでに埋め立てられていたが、小池氏は被害者である女性Yの実家を訪ねようとした。事前に調べておいた実家の住所をカーナビに入力して車で出発した。
▼ナビの指示通り車を走らせていると、到着を知らせる電子音が鳴った。だが、そこは住宅地ではなかった。ある墓地の前だった。(百や二百はあろうかという、かなり広い墓地である)
▼この経緯はすべて動画撮影されており、実家に向かう二叉路で、どういうわけかナビの音声は、ニ叉路を右に行けと指示する様子がはっきり記録されている。ナビ画面には、二股の左のずっと先に「目的地」のマーキングが出ているにもかかわらず、である。
▼二人は、誤作動であろうということで、墓地の前で入力しなおしたが、やはり目的地に着いたと音声は言う。
▼二人は、来た道をかなり車で戻って、Uターンし、入力しなおしたのだが、結果は同じことになってしまう。この動画の様子は、わたしもDVDを見たが、非常に奇怪である。
▼二人は、「まさか」と思い、車を降りてその墓地の中を調べた。ひょっとしてとは思っただろうが、なんと驚くべきことに、この墓地の中で、事件の被害者である女性Yの墓が発見されたのだ。
▼言わば、亡き女性Yの現在の「住所」に案内されたということになる。このカーナビを巡る奇怪な現象は、後に日本テレビのスタッフも行い、テレビで放映されている。実際の女性Yの実家は、先述通り、その直前の二叉路を左に500Mほど行った先にあるのだが、日テレ・チームが何度やっても、結局小池・住倉両氏の行った結果と同じになってしまっていた。これには、カーナビ・メーカー側も、「原因不明」と述べていた。
▼後に、小池氏は、地元のタクシーにも協力を頼んで、このことを試しているが、やはり同じ結果となった。
▼さらに決定的なことがある。小池・住倉両氏が検証に赴いて、墓地内に立ち入ろうとしたとき、ふいに小池氏が手にしていたデジカメが、なにかに弾き飛ばされたように落ちたのだ。
▼そのときは、小池氏はなんとも思わなかったようだが、帰って撮影画像を確認していたところ、撮ってもいないのに、数秒の動画が撮影されていたのだ。
▼動画を、スローでコマ送りをしていくと、なんとそこには、女性Yの墓が数十メートル先に映っており(これは、この直後、実際に墓地に入って、Yの墓石を発見したからわかることだ)、その墓石の向こうから黒いセーターを着ている女性(にしか見えない)が、ずっと上半身をのぞかせてくる様子が記録されているのだ。これも、DVDに入っているから、興味のある人は実際に見てみたらよい。Youtubeにも、あちこちでアップされている。
(問題の、数秒間の動画)
https://www.youtube.com/watch?v=IqTbobGwZMM6分ほど経過したところから、何回か再生される。スローモーション、拡大スローモーションあり。
▼二人の証言では、当時墓地には人っ子一人、墓参者はいなかった。もちろん、この墓石の向こう側から覗いてくる女性が、Yだと断定はできない。が、カーナビの誤作動といい、この不可解な数秒の動画撮影といい、Yの実際の墓石とその女性といい、あまりにもイレギュラーな現象が同時に発生しすぎていて、偶然や機械的誤作動で片づけるにはかなり無理がある。それぞれが、単発で起こっていたらまだしも、一連のものが同時に発生するというのは、やはり普通ではない。
▼このケースは、人間が一切先入観を持たない場所で幽霊が、なんらかのアピールをするように出現し、後にその事件が発覚するという、通常の怪談とはまったく逆のパターンだ。しかも、後日談まで考えれば、その後も奇怪な現象が、現在進行形で発生するというきわめて稀有な例である。
▼さて、これを信じるか、信じないかは、あなた次第。
増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄
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