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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第424回・大穴。

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【閑話休題】第424回・大穴。

【閑話休題】

[記事配信時刻:2016-06-24 16:57:00]

【閑話休題】第424回・大穴。


▼とんでもない風雲児が、まさにアメリカの大統領選挙で暴れまわっている。メディアではその暴言の数々や、政策公約の実効性に対する疑問などから、ほとんど総スカンといっていいくらい、バッシングに遭っているトランプ候補だ。さすがに最近では、勢いに翳りが見えているものの、失速という状況でもない。

▼ただ、表面的な世論(要するにメディアや、公論を代表しているかのように見える専門家や知識人の恣意的意見)だけで、この人物のことを理解するのは、どうも無理のようだ。

▼昨年、大統領候補に名乗りを挙げて以来、数々の暴言スキャンダルでお騒がせだが、それもこれもすべて、ポピュリズム(大衆迎合主義)を最大限に活用するという戦術的な目的だと割り切っている可能性も高い。

▼だいたい、この人物の交渉というのは、昔から、まず100と吹っかけて、落としどころは50で満足し、着地させるというやり方だから、話半分と聞く反面、半分の本音が見え隠れする。

▼しかも、重要なことは、これだけの暴言を連発しながら、大方の予想を裏切り、あれよあれよと共和党指名にまでこぎつけようとしているのであるから、その選挙戦術は(誰が裏でブレーンとなっているのか知らないが)きわめて有効だったといわざるを得ない。

▼そこで、このトランプ候補が本当に米国大統領になったら大変だという、一般的な見方はさておき、実際に彼がなにを言っているのか、具体的に整理してみよう。その公約綱領を彩るさまざまな暴言は、無視してみよう。

▼すると意外な事実がわかる。今の米国におけるさまざまな階層・分野の人たちそれぞれに、実にメリットのある目標を掲げていることがわかる。ざっと一覧してみよう。

・10兆円相当の減税・・・一般消費者に恩恵。
・インフラ投資の拡大・・・製造業・建築不動産業に恩恵。
・ドットフランク法(金融規制改革法)の規制緩和・・・ウォール街など金融業界に恩恵。
・完全なエネルギー自給自足(7割増産)とそのための環境規制大幅緩和・・・石油・エネルギー業界に恩恵。
・法人税ゼロ・・・企業の海外移転防止→米国人雇用者に恩恵。
・最低賃金の引き上げ禁止・・・米国企業の競争力に恩恵。
・富裕層に一時的に14・25%を課税し、国の債務を返済する原資にする。その代わり相続税は廃止する。・・・バータで、富裕者と国家の両方に恩恵。

▼どうだろうか。誰にでも恩恵がある公約なのだ。もちろん誰も、すべて成し遂げられるなどとは思っていないだろう。しかし、強力なリーダーシップを取れれば、目標の100%でなくとも、相当部分を現実にすることは可能だろうし、アメリカがそこに向かっているという国家社会全体のベクトルがはっきりする。国家の活力は、まずそのベクトルが明確かどうかだからだ。

▼オバマ政権は、「Change!(変えよう)」といいながら、実はほとんどなにも変えることができなかった。偉業となったのは、歴代大統領の誰もができなかった(というよりしようとしなかった)キューバやイランとの和解である。しかしそれらは、実は苦しんでいる相手と「仲直り」をしようという話であるから、やろうと思えば、簡単なことだったのである。

▼今回のトランプ候補は、その意味では完全に内政に関して、大きく社会の方向を変更させようとしていることは間違いない。その点で、現実路線踏襲というイメージから抜け出せない、ヒラリー・クリントン候補とは、まったくカラーが違う。

▼さて、米国民は現実路線を選ぶか、それとも閉塞状況に陥っている中で、国民は劇的な変化を選ぶだろうか。

▼日本にとっては、経済面ではトランプ候補がTPP反対論者であることが、とくにメディアでは喧伝されており、日本にとって大変不利だという論評が多い。それはそうかもしれないが、理解しておくべきなのは、トランプ候補がなぜTPPに反対しているのかという、最大の論点である。それは、彼がはっきり述べている。

「TPPはとんでもない取引だ。いずれ中国が参加して、中国に利用されるだろう」

要するに、標的は中国だということにほかならない。その排除ができれば、トランプ候補は、その他の条件については、交渉が可能だと考えているわけだ。

▼こと、日本に関わる問題では、やはり日米安全保障体制に強烈な不満を訴えている。

「日本が攻撃されれば、米国はすぐに助けにいかなければならないが、我々が攻撃を受けても日本は助ける必要はない。条約は不公平だ」

しかし、これは、敢えて言われなくとも、当たり前のことだ。それに触れずに、70年間黙っていた日本国民のほうが、「ずるい」のである。当然だろう。これをもって、トランプ候補は過激を通り越して、滅茶苦茶だとか、乱暴だとかいうほうの見識をわたしは疑う。

▼このように、一見破天荒な暴言ばかりが目立つかのようだが、よくよくその本意や、理由や細目を見ていくと、どうもアメリカ人にとっては本音そのものでちりばめられていることが多い。ちなみに、日本そのものに対しては、トランプ候補は「まともな」普通のインタビューに際して、「respect(尊敬)」している、と述べている。彼がrespectという表現を使った国は、日本以外でわたしは知らない。

▼メキシコ人の違法移民に対する激しい論説も、たとえば、国境に万里の長城を築いて、物理的に入れなくしてやる、などといったような暴言がそうだが、明らかに、違法移民問題は、アメリカでは大問題になっていることは言うまでもない。「万里の長城」という暴言で、その本音を見失うととんでもないことになる。

▼軍事面でもそうである。トランプ候補は、アメリカの国益を最優先するとしている。そのためには、一々謝る必要などないと言い切っている。つまり、国際法などどうでもよい。アメリカの利益が、法である、という考え方だ。これは、伝統的な共和党の発想だ。そして、これはアメリカの同盟国にとっては、なにより望まれることなのだ。

▼人道援助ではなく、軍事力をもって紛争解決するというトランプ候補の主張は、過激でもなんでもなく、かつてアメリカが行ってきたことそのものである。民主党政権になってから、やたらと「ものわかりのよい」国になったアメリカが、先祖返りをしようとしているのだ。

▼ISIS(イスラム国)に素早く強力に打撃を与えるため、イラクの油田を爆撃し、地上軍を派遣するということも主張している。これは、誰も言わないが、欧州各国が実は本音でのどから手がでるほどほしい、アメリカの実力行使である。

▼面白いのは、ロシアとの関係における立ち位置だ。トランプ候補は、こう言っている。

「シリア紛争はロシアに関与させる。ロシアにISISを攻撃させる。」

ポイントは、ロシアを利用する、と言っている点だ。同時に、プーチン大統領を褒め上げている点は、読者もよくご存知だろう。そして、

「ロシアとは交渉する。援助しても紐付きで行う。」とも述べている。
明らかに、ロシアと、「付き合う」と言っているのだ。これまでのアメリカのロシア包囲網は解除するつもりだということだ。

▼その理由は、先述の「中国」という難題の封じ込めが目的であると推察される。トランプ候補は、その中国に関して、こう述べている。

「米国から数十億ドルを奪っている中国は敵であり、強硬に対応する。」
「北朝鮮の核開発を止めさせるため軍事力を行使する。」

過激な暴言を繰り返すトランプ候補が、明確に「敵」と名指ししているのは、中国だけである。ISIS(イスラム国)や北朝鮮などは、「敵」ですらない。雑魚扱いだ。殲滅しても、誰からも文句を言われる筋合いはない、というスタンスである。これらを野放しにし、余計なコストと人命をあたら犠牲にしてきた、これまでの国際社会や国連に対する強烈な「あてつけ」と言ってもいい。

▼あのイランに関する暴言でも、せいぜい「イランの核開発はどんな手を使ってもやめさせる。今まで以上の経済制裁を課す。」と言っているくらいにとどまり、敵とは言っていない。
そもそも、イランとはすでに、和解しており、イランも核開発を止めているわけであるから、それが守られる限りは、彼が言っている経済制裁の追加というものは、現実的には起こりえない、はずである。暴言の裏には、こういう周到な現実論を踏まえているという部分も相当ありそうだ。

▼また、アメリカというといわゆる、東部エスタブリッシュメント(保守本流)の軍産共同体が隠然たる勢力を持っているのであろうが、当然イスラエルというテーマにも言及せざるをえない。彼は、こう言っている。

「米国の中東における不沈空母であるイスラエルは今まで以上に援助する。」

明確である。親イスラエルの立場だ。

▼さて、また日本に話を戻してみると、こういうトランプ候補だから、先述のように、日米安全保障体制が、きわめてアンフェアなものであるという常識の上に立って、こう述べている。

「米国が日本を防衛する必要はない。日本の防衛に要した費用は日本に支払わせる。」

もちろん一義的には、金を払え。でなければ、馬鹿馬鹿しくてやってられないという本音を述べているわけだが、一方でさらにその奥にある本音とは、日本にいっしょに戦えるふつうの国に戻れ、と望んでいるのだ。それは、言うまでもなく先述の「対中国」対策に日本が必須だからである。当然、同盟国である以上、ISIS殲滅の地上軍派遣にも、日本に要請してくるだろう。

▼こうしてみると、暴言のように見えて、実はアメリカの本音を正してみれば、すべて当然の目標であり要求なのだということがわかる。

▼11月の選挙まで、まだ時間がある。序盤で勢いを見せた候補は、たいてい本選に向かう中で、失速するものだ。トランプ候補も昨年は大旋風を巻き起こし、「良識派知識人」たちの失笑を買ったものだ。今年に入って、いったん失速し、消えていくかと思いきや、どうしてどうして、勢いを盛り返し、とんでもないダークホースになってきている。まさに大穴だ。

▼ヒラリー候補の現実路線(つまりなにも変わらないという選択か)、トランプ候補の本音で政治をとにかくやってみようという路線か(暴言には目をつぶるという選択)。どちらにアメリカは傾斜するのだろうか。

▼とくにトランプ候補の暴言の中では、人種差別的な部分が極端にクローズアップされる。日経新聞に取材が掲載されていたが、トランプ候補を支持しているカラード(有色人種)の市民への各種インタビューだ。

「彼の人種差別的な発言が気にならないか?」

しかし、彼らは一様に「気にならない」と答えている。そうなのだ。人間とは、人種が違う以上、その違いを心の底から排除しようといったところで、世の中そうはならないものなのだ。しかし、間違いなく今、不興をかこっている切迫する物理的な問題は、解決が可能だ。それを、トランプはやってくれるだろう、と支持しているのだ

▼メディアはこれを民衆扇動の最たるものだと批判している。しかし、1930年代、ヒトラーもこうして圧倒的な国民の支持の中で、政権を取ったのだ。トランプ候補がヒトラーのような政治家だとは、毛頭思っていないが、言いたいことは、そのヒトラーでさえ、戦争をおっぱじめるまでは、ドイツにかつてない最大限の豊かさと自信と、成長を実現して見せたことを忘れてはならない。(ユダヤ人はそのすべてのシワ寄せを押し付けられることになってしまったが。)

▼しかも、トランプ候補のようなアメリカの出現を、実は海外の「目の前に敵」を抱えている国々の政府は、みな実は彼の登板を心待ちにしているはずだ。同じ流れは、本日の英国での選挙でEU離脱が決定したことにも現れている。フランスでも、極右政党がぐんぐん人気を取っており、来年の総選挙で政権奪取に向かうようだと、英国どころかれっきとしたユーロ通貨国であるフランスの、EU離脱などという大騒ぎにもなりかねない。

▼試金石は、最も経済合理性に近い動きをする米国株式市場の反応だろう。これがトランプ大統領の可能性が高まっていった場合に、どういう反応をするかである。もし、上がれば、トランプがリードするアメリカは、かなりまともな方向に向かうとマーケットは判断したということになる。マーケットは社会の予見性においては、きわめて鋭敏で、正確である。ただ、たまに大きく「はずす」のだ。今度は絶対に「はずし」て欲しくないものだ。アメリカにヒトラーが生まれないためにも。

増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄




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