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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第448回・プーチンがやってくる

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【閑話休題】第448回・プーチンがやってくる

【閑話休題】

[記事配信時刻:2016-12-09 16:27:00]

【閑話休題】第448回・プーチンがやってくる

▼12月15日に、ロシアのプーチン大統領が来日する。1998年10月のエリツィン大統領以来18年ぶりとなる。東京市場では、トランプ・ラリーにかき消されて、この材料はさほど表立ってはいないが、アメリカの政策転換以上に、このロシアというファクターは歴史的な流れの激変を引き起こすだけのインパクトになりうる。

▼最大のネックは北方領土問題だ。この問題は、わたしも含めて、多くの日本人がある種誤解している部分も多い。改めて、常識とされている誤謬を正してみたい。わたし自身の長年の見方に対する反省も含めて、問題を整理してみよう。

▼よくある誤解だが、サンフランシスコ講和条約に参加していないソ連(ロシア)に対しては、北方領土の放棄という要件は適用されない、という点だ。四島返還議論の前提は、主にこの要件である。これなどは、わたし自身が誤った理解をしていた嫌いがあるのだ。

▼つまり、この四島返還こそが正論であるという主張の裏には、ソ連が日本にとっては正式な敵国(連合国)とはみなさない、という解釈がある。それは、ソ連が日ソ不可侵条約を破って、一方的に侵攻してきたためだ。正式に戦った敵ではなく、ただの泥棒にすぎない、という議論である。

▼実際、ソ連はサンフランシスコ講和条約において、正式な連合国として出席もしていなければ(そもそも招かれていなかった)、調印もしていない。日本は、ソ連に不法に領土を侵し盗られたのだ、という議論の有力な根拠になっている。

▼しかしである。そもそも、日本は戦争に負けたのである。ソ連の対日参戦を決めた英米ソ連間のヤルタ協定が秘密協定に過ぎず、国際法的に有効性がないとか、ソ連が日ソ不可侵条約違反で侵攻してきたのだから、ソ連には旧日本領を支配する権利はないとか、正論をいくらまくしたてたところで、詮無いことなのだ。負けた日本がすべて悪いのだ。

▼文句を言うなら、昭和20年8月15日に、アメリカには降伏したものの、ソ連には全力で抗戦すればよかったではないか。実際、現地軍は大本営や政府の戦闘中止命令を無視して、悲壮な抗戦を単独で慣行したのだ。いわゆる「8月15日からの戦争(閑話休題、第19回)」である。

▼わずかに千島列島北端の占守(しゅむ)島で、第五方面軍司令官の樋口季一郎中将が終戦後の8月18日、「徹底抗戦命令」を発令、第11戦車隊の猛戦で、上陸してきたソ連軍は日本軍の3倍の死傷者をだして、北海道侵攻作戦が頓挫した。スターリンは、9月に予定されていた日本と連合国の降伏文書調印までに、火事場泥棒をして北海道まで占領の既成事実をつくろうとしたが、この日本の現地部隊による「8月15日からの戦争」というあらぬ抵抗に遭って、その意図がくじかれたのである。

▼また、外地である内蒙古では、押し寄せる8倍(4万人)のソ連軍に対して、同じく中央の停戦命令を無視して肉弾戦で徹底抗戦をした響兵団5000人は(閑話休題、第40回)は、4万人の邦人居留民の脱出を成功させている。

▼一方、日本は樺太を見殺しにしたではないか。救援が間に合わなかったというのは、言い訳である。満州でも、無傷の関東軍がいたにもかかわらず、徹底抗戦しなかったではないか。樺太と満州の在留邦人の悲劇は、およそ言葉に尽くし難い有様だった。

▼日本は、国境の邦人と領土を、どんな理由を並べたところで、見殺しにしたのである。いまさら、四島返還もないものだ、とわたしは思う。一億総玉砕と謳っていたのではなかったか。英米連合軍には降伏するのはともかくとして、無法のソ連軍の好き勝手にさせる言われは全くなかったはずだ。

▼しかし、上記のような一部の現地軍の、命令違反による独断専行を除けば、日本政府と日本国民は抵抗しなかったではないか。わたし自身、この点に関しては、長らく「甘えた」スタンスであったことを現在、かなり猛省している。

▼法(条約)というものは、しょせんただの空文である。それに実効性を与えるのは、当事者たちが共通の認識である。従って、わたしたちは、まず、最終的に日露間で一体どういうコンセンサスが、現在まで有効性を維持しているか、そこからこの問題の現実的な解決を図るしかないのだ。

▼はっきりさせておかなければならないのは、1960年の安保条約改定以後のソ連・ロシアの首脳の中で、1956年の日ソ共同宣言の有効性を認めた、初めてのロシア最高首脳こそ、プーチン大統領だということだ。これこそが、終戦後、日ソ両国間の最初の「合意」だということは、はっきりさせておく必要がある。

▼プーチンという人物は、基本的に約束を守る。裏切るということは、いまだかつてしたことが無いのだ。しかも、法律の専門家でもある。

▼プーチンは、日ソ共同宣言の存在を認めた上で、2001年に文書にした。いわゆるこれが森元首相とのイルクーツク宣言だ。これが日ソ共同宣言を交渉の出発点と位置付けた、公式の宣言であり、今でも生きているすべての根拠にほかならない。

▼このイルクーツク宣言のポイントは2つだ。歯舞・色丹の2島について、日本への具体的引き渡しの協議をしようということ。もう一つは、国後・択捉についてはどちらに帰属するかの協議を行おう、というものだ。いわゆる「二島先行返還論」である。

▼ところがこれをひっくり返したのは、2001年の小泉政権である。驚くべきことに、日本サイドから交渉の旗を降ろしてしまったのだ。いきなり、世論に押されてか、四島返還に話を戻してしまったのである。米国一辺倒になった小泉政権の方針なのだが、同じ政党にもかかわらず、政策を大転換してきた日本の態度に、プーチン側が当惑し、不信感を強めたのは言うまでもない。その後、2012年末に第2次安倍政権が誕生するまで、日露関係は「空白の10年」を経過することとなった。

▼日本で、プーチンとの合意であった二島先行返還というものを、全島(四島)返還でなければ交渉の余地はないとしてしまったことが、この空白を生む最大の原因となったのである。

▼例の、鈴木宗男氏などは(あまり個人的には好きではないが、客観的には気の毒な境遇に陥ったと言える)、日露合意に基づく一貫した言動を行っていたために、あたかも売国奴のごとく罵られたりもしていた。おまけに、ODA支援金がらみで、政界からも結局追われる羽目になったわけだ。小泉政権下で、あくまで鈴木氏支持に回っていたのは、当時官房副長官だった安倍晋三(現首相)である。鈴木宗男氏の、ロシア関連の主張はなにも問題はない、と支持していたのである。

▼その安倍首相が、今、ロシアに交渉再開を呼び掛けているわけだ。2012年末、首相に再び就任すると、翌年の2013年にはモスクワを訪問して交渉の活性化で合意。2014年には欧米とロシアの関係が冷え込む中、ソチ五輪の開会式にも出席。しかも、クリミア半島の問題が深刻化してからも、日露交渉の進展に向けて、前向きの態度を一切変更していない。

▼ソチで安倍首相は、資源や医療、インフラ、環境など8分野にわたる経済協力案を提示。かなりプーチン大統領はこれで心が動いたようだ。安倍首相の本気度を、プーチン大統領が確信を持ったのである。ここで、初めてプーチン大統領は安倍首相を「シンゾー」と呼び、安倍首相も「ウラジミール」と呼ぶようになっている。

▼こうした経緯を見ると、明らかに今回予定されている長門会談は、にわかに飛び出してきた話ではないことがわかる。3年前から周到に計画されてきたものだ。

▼このような流れを理解した上で、両首脳の立場を考えなければならない。いずれも双方の自国内に対して、大きなリスクを抱えた決断を迫られている。

▼1956年の日ソ共同宣言を前提に交渉が行われるといっても、ロシア国内では国民の8割が、「日本に領土を返すいわれはない」という認識でいる。かつてソ連が一方的に、かつ違法に北方領土に侵攻したことなど、おそらく誰も知らないのである。

▼日本は日本で、こうした流れに対する理解はほとんどないわけだから、安倍首相もとくに右派勢力を抑えるのに必死である。

▼領土というのは、戦争で得られるものなのだ。話し合いで得られる領土など、一くれもない。そんな歴史は存在しない。原因はどうあれ、いったん戦争で取られた領土を、一滴の血も流さずに取り返そうなどという根性こそ、噴飯ものである。ロシアと、一戦を交える覚悟なら、四島返還も意味はある。が、日本中誰もそんな気骨など無いではないか。

▼国際法など、先述通り、当事者間にコンセンサスが無い限り、空文に過ぎないのだ。中国の南シナ海や尖閣諸島への対応を見れば、馬鹿でもわかる話だ。いつまでも、子供のようなことを言っている日本人のほうが、甘い。

▼民進党の野田幹事長(元首相)が、「ロシアは、日本から昔100万円盗んでおいて、今ごろ7万円返すなどというのは、けしからん」と、俎上にあがっている二島先行返還の動きを非難しているが、これこそおめでたい議論である。ここにも、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して(憲法前文)」軍隊と戦争を放棄した、大馬鹿者のザレごとである。

▼長い目で見るのだ。ロシアもいつまでも、これまでのロシアではない。かつて、東西に国家が分断されたドイツは、1972年になって西ドイツがまず東ドイツの「存在を認め」た。それが、東西ドイツ基本条約である。ベルリンの壁は、永遠に残ると誰しも思っていたが、その17年後には崩壊した。90年にはドイツは統一しているではないか。

▼まず、国後・択捉二島先行返還が先決である。国後・択捉二島には、経済面で圧倒的に日本に有利な条件を得れば良いのだ。そこからロシアという大国の中に、入りこんでいく突破口にする。それは、樺太、沿海州、そしてシベリアへと、なし崩し的に金融・経済・インフラ・医療・物流・資源開発など各分野に浸食し、日本無しには成り立たないロシアに作り替えていってしまえばよいだけのことだ。

▼領土より重要なのは、権益である(ユダヤの戦略はそれを地で行っている)。それは、経済的に「敵のきんたま」を握ること以外にはないのだ。10個師団を投入して血を流すより、強力な破壊力を持っているからだ。それが、金融や経済という世界の恐ろしさだということを、日本人はもっと学ぶがいい。

▼よく、トランプ次期米大統領が親ロシア的であることから、プーチン大統領としては、ことさら経済支援で日本にしがみつかなくても良くなった、対日交渉はちゃぶ台返しになるといったような批判がよくある。

▼わたしはそうは思わない。なぜなら、国際政治で、ウクライナ問題によって窮地に立っているロシアとしては、日本とアメリカを抱き合わせでタッグを組めるとなれば、西側を、「欧州vs米国・日本」に、完全に分断することができるからだ。その取引条件が、ロシアにとって、対中国牽制であったとしても、失うものより、得るもののほうが、ロシアにとっては遥かに大きい。この日米との連携に、ロシアが躊躇する根拠は一つもないはずである。ましてや、プーチンという人物は、安倍首相との間に築かれた3年越しの信頼関係を、反故にするような男ではない。あの男は、裏切らないのである。

▼交渉の難しさは残っている。しかしそれは、両者とも国内を納得させることができるかという難しさである。多少、交渉がもめて、平和条約締結がまだ先になるとしても、日露のこの関係修復の流れは変わらないと思う。少なくとも日本は、過去の歴史にかんがみ、大陸の二大国家を同時に敵に回す愚は犯すべきではない、ということだ。

増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄



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