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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第470回・芸術と変態

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【閑話休題】第470回・芸術と変態

【閑話休題】

[記事配信時刻:2017-05-19 15:43:00]

【閑話休題】第470回・芸術と変態

▼芸術というのは、一種の変態的行為である。では、ただの変態と芸術との差はどこにあるかというと、結局変態的行為(創作といってもいい)が、鑑賞する人に感動まで与えるほとのものに仕上がっているかどうかだ。多くの人にそれを与えることができなければ、ただの変態で終わるのだ。

▼芸術と高尚なレベルでなくても同じ。芸能でもそうなのだ。根っこは変態以外のなにものでもないはずだ。

▼変態とは、およそ常識では想像もつかない発想が前提になっている。単なる技術・技巧が異常に優れているということでは無いのだ。簡単な話、「赤富士」などもそうである。

▼明和8年1771年、文人画家の鈴木芙蓉が描いたものが、記録に残る最古の「赤富士」だが、現在は、葛飾北斎が天保年間1830-1834年に描いたものが、あまりにも有名である。

▼主に晩夏から初秋にかけて、早朝に富士山が朝日に染まって起こる現象だが、富士山の絵を描くのに、赤い富士を描こうとしたのはやはり、常人では思いもつかない変態性がいかんなく発揮された故にほかならない。

▼ムンクの絵画「叫び」などもそうである。誰が、一体この口を大きく開けた人間の、恐れおののいて耳をふさいでいる姿など書こうと思うものか。

ムンクの叫び

▼この「叫び」は、一般に認識されがちなのが、この人物が「叫び」を発しているのではない。そう解釈すると、ただの変態である。しかし、ムンクが描いたのは違う。この人物がなぜ、耳を塞いでいるのかが重要だ。自分が叫んでいるのなら、耳など塞ぎはしない。

▼「叫び」は、「自然を貫く果てしない叫び」に恐れおののいて耳を塞いでいる人間の姿を描いたのだ。

▼北斎然り、ムンク然り、よく「芸術(ここでは絵画に限定しておこう)がわからない」という。その一番多い理由が、「子供でも描けるような絵だ」というものだ。

▼北斎はともかくとして、ムンクの絵などは子供でも描けるだろう。しかし、そこに芸術の価値は無いのだ。冒頭で述べたように、技術や技巧など芸術性とは別の話なのだ。要するに、創造性のことである。子供に、この「叫び」はなかなか描けない。常識的な大人でも、やはりなかなか描けるものではない。ましてや、描かれた人物が叫んでいるのではない、と気づいたとき、その絵の意味はおよそ普通では発想できないものだとわかるはずだ。

▼「いや、こんな絵など、わたしは感動しない」という人もいるだろう。しかし、考えてもみよ。全員が全員、感動するような絵画、小説、音楽、歌舞伎や能など、あるわけがないじゃないか。こういう理由を言う人間というのを、「ものわかりが悪い」と言うのである。

▼たとえば、わたしは講談や落語は、芸術だと思っている。それが堅苦しければ、芸能と呼んでもいい。いずれにしろ、その名手の語りは、芸術性に満ちている。

▼しかし、総人口1億2000万人のうち、落語を真に愛好している人は何人いると思うだろうか。わたしは、100万人もいないと思っている。いても、数十万人程度だろう。

▼100万人いたとしても、わずか1%である。おそらく、0.2-3%程度いればいいくらいではないだろうか。その程度の非常に狭い世界の中での話なのだ。

▼これだけ視聴覚機器が発達した音楽(歌謡曲といってもいい)という世界ですらそうである。過去CDの年間最多生産枚数は4億5000万枚。しかし、普通は非常に生産の多い年でも1億枚である。

▼たいていは5000万枚ていど。おそらく、音楽CDを買った人たちというのは、音楽好きであるから、1年に軽く10枚は買っていることだろう。若い世代であったら、数十枚、100枚などざらにいたのではないだろうか。計算してみれば、やはり恒常的な音楽の愛好者というのは、数%から、下手をすれば、1%を切るのかもしれない。

▼一番世の中にある、「芸」ごとの中で身近なものであると思われる音楽でさえそうなのだ。映画などは、それにも及ばないくらい、恒常的な愛好者の比率は、数字上では大変小さいはずである。

▼しょせんそんな狭い、小さな世界で、熱狂して感動を与えるものが芸術ということになる。その他の、無関心な大多数にとってはどうでもいい世界なのだ。その小ささゆえに、変態性こそが芸術性の原動力にほかならないと言えるだろう。汎用的なものであれば、変態性が評価されるわけがないからだ。

増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄




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