【閑話休題】
[記事配信時刻:2017-10-06 16:29:00]
【閑話休題】第490回・映画音楽
▼映画音楽の話だ。人間の生活というのは、音楽と切っても切れない関係にある。自分の昔を思い出しても、何年のことかなかなかはっきりしなくても、あの頃そういえば、この曲が流行っていた、ということで年月を特定できることもあるくらいだ。
▼音楽というのは、徹頭徹尾、そういう意味委では人生のバックグラウンドミュージックなのかもしれない。
▼映画もそうである。とくにそこで使われる音楽というものは、映像の鮮烈さや感動を、いやが上にも記憶にとどめる効果を持つ。
▼その音楽独自でも、十分以上に名曲なのだが、映像とともにその記憶が鮮明に蘇ってくるから不思議だ。
▼誰しもそうした音楽が、いくつかあるはずだ。ここではわたしの場合、ということで、二三挙げてみようと思う。
▼この閑話休題でも以前、映画の話を書いたときに「ディア・ハンター」を挙げたことがある。そのテーマ曲は、スタンリー・マイヤーズ作曲の「カヴァティーナ」だ。
▼カヴァティーナというのは素朴な短い歌曲という意味であったが、抒情的な旋律を表現の主体とする小品という意味だ。さまざまな作曲家によって器楽曲のカヴァティーナが作曲されてきた。
▼カヴァティーナの代表的名作に、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第13番の第5楽章である。スタンリー・マイヤーズの「カヴァティーナ」は、基本的にギターのソロ曲だ。
▼映画の重厚さや哀切さを見事に描き切った名曲だと思う。
ギターのソロを聴いていただこう。
(カヴァティーナ)
https://www.bing.com/videos/search?q=%e3%82%ab%e3%83%b4%e3%82%a1%e3%83%86%e3%82%a3%e3%83%bc%e3%83%8a+%e3%82%ae%e3%82%bf%e3%83%bc+youtube&qpvt=%e3%82%ab%e3%83%b4%e3%82%a1%e3%83%86%e3%82%a3%e3%83%bc%e3%83%8a+%e3%82%ae%e3%82%bf%e3%83%bc+youtube&view=detail&mid=D8C6176635CE4AEF01C1D8C6176635CE4AEF01C1&FORM=VRDGAR▼当時、1979年に日本では封切だった。エンドロールになっても、誰一人席を立つものがいなかったのを覚えている。どころか、場内の照明がついても、座席から立つ人がまばらだった。わたしも立てなかったのだ。
▼シナリオ、配役、カットの一つ一つ、ライティング、演出や演技のすべてがこれだけ完璧に観客の心に感動を与えた映画というものを、それ以前もそれ以降も、わたしは知らない。そして、この「カヴァティーナ」のむせび泣くようなギターの音色は、そのとどめの一発だった。当社の重鎮・角南氏は、実は裏の顔は映画撮影なのだが、彼も先日、期せずして「ディア・ハンター」に、同じような評価をしていることがわかって、最近意を強くした次第。
▼この映画の中には、もう一つ非常に印象的に使われている曲がある。「Can’t teke my eyes off of you(君の瞳に恋してる)」だ。自体、名曲だから、長年にわたって多くのアーティストがカバーを出している。「ディア・ハンター」では、「カヴァティーナ」とこの「Can’t take my eyes off of you」を繰り返し、劇中で巧みに交差させているのだ。
▼この曲だけでも、3回は出てくる。スローバラードであったり(結婚式のシーン)、原曲に近いアップテンポのものであったりと一様ではないが、この音楽の使い方は絶妙である。この曲を使うことで、「カヴァティーナ」の深く心に染み入ってくるような悲哀が、より際立ってくるのだ。
(Can’t take my eyes off of you~劇中のクリップ。酒場でのシーン。)
https://www.bing.com/videos/search?q=cant+take+my+eyes+off+of+you+deer+hunter&&view=detail&mid=C05226220E3FE8880EDEC05226220E3FE8880EDE&FORM=VRDGAR(Frankie Valiのカバー、全曲)
https://www.bing.com/videos/search?q=cant+take+my+eyes+off+of+you+frankie+vali&&view=detail&mid=3F74A00D89C04050FD0A3F74A00D89C04050FD0A&FORM=VRDGARFrankie Valiのカバー曲は、「ディア・ハンター」制作当時に全米で大ヒットしていた。ベトナム戦争の最も悲惨な戦況の中で、この曲に若者たちがそのエネルギーを爆発させていた象徴的なヒット曲である。
▼さて、どんどん行こう。「ディア・ハンター」を出してしまったら、もうおよそどの映画とそのテーマ曲も、色褪せてしまうのが残念だ。「ディア・ハンター」が70年代から80年代にかけてとすれば、90年代はわたしにとって、なにが印象的だったろうか。
▼これは、もうコテコテの青春映画で(当時わたしはすでに青春が終わってしまっていたが)、今観れば、およそ気恥ずかしくなるような映画だが、「愛と青春の旅立ち」というのがあった。
▼頽廃的な生活から脱出するため、海軍士官養成学校に志願する青年がいた。そこで待ち受けるのは海兵隊軍曹の鬼教官だった。脱落者が続出する激しい教練をこなしながら、友情や恋愛などお約束の出来事を織り込んでいる。成長していく一人の青年の姿を描いた、ハッピーエンド。
▼主演は大根役者のリチャード・ギアである。映画自体は、いかにも古き良きアメリカという、定番の内容だといっていい。おそらく、これが佳作以上の評価を得ているとしたら、おそらくテーマ曲、「Up Where We Belong」の効果が大きかったのではないか、と思う。
▼定番の青春ドラマを、歌が盛り上げている。ジョー・コッカーとジェニファー・ウォーンズの主題歌だ。
(Up Where We Belong)
https://www.youtube.com/watch?v=1IRTMHoRlzkおそらくこの映画は、後に1986年に公開された、トム・クルーズ主演の「トップ・ガン」につながっていく、同じテイストだろう。
▼こうした、いかにもアメリカ的な青春賛歌とは、真逆の映画がある。1969年公開の「真夜中のカウボーイ」だ。若き日のジョン・ボイト(アンジェリーナ・ジョリーの父親)とダスティン・ホフマン共演の、これも青春映画だ。しかし、テイストはあまりにも悲惨かつ、悲哀に満ちている。
▼田舎からNYに飛び出してきて、一旗揚げようとする青年と、すでにNYでドロップアウトして、社会の底辺にすくっている男との出会いと別れである。夢のフロリダを目指す長距離バスの中で、ダスティン・ホフマンは失禁しながら、息絶えていく。
▼フレッド・ニールの「うわさの男(Everybody’s talkin’)」だが、劇中で使われているのは、ハリー・ニルソンのカバーだ。失意の連続のストーリー展開とは裏腹なカントリー調で、それがかえって哀切さを呼び起こす。私は、妙にこの映画と音楽のコントラストが気に入っている。
(ハリー・ニルソンのEverybody’s talkin’)
https://www.youtube.com/watch?v=AkkUKDHhT5Q&list=RDAkkUKDHhT5Q&t=39二人でフロリダを夢見て長距離バスに乗る。腐った大都会からの脱出行だ。ダスティン・ホフマンは、消えそうな命の最後の力を振り絞ってつぶやく。
「人間にとって一番大事なのものは何か、知ってるかい? 太陽の光とココナッツ・ミルクさ。」
ダスティン・ホフマンは、バスの座席で失禁しながら、死んでいく。
▼映画そのものは、どうなのかと思うが、テーマ曲が映画を名作にしているというケースは多いと思う。あるいは、名作「として」語られることが多いと言った方がいいかもしれない。
▼わたしはませていたのか、小学校の頃から映画が大好きだった。少年期、外国というものに異常に心を惹かれるようになっていったのは、映画「慕情」であった。1955年制作の映画だから、50年代の香港がスクリーン一杯にあふれている。偶然、ずっと後年、二度にわたって80年代から90年代、香港に長く居住する機会を得たこともあって、少年時代に何度も繰り返し見た映画の、随所にみられるシーンを、現地で追体験することになった。それが、この映画を忘れられないものにしている。とくに、テーマ曲(Love Is a Many-Splendored Thing)は、悲恋物語を否応にもドラマティックにさせている。
(慕情)
https://www.youtube.com/watch?v=VP6sbDPB8cw1950年代というと、まさに朝鮮戦争。アメリカの記者(香港駐在)と、英中混血女性との悲恋物語だ。原作は、映画そのままの英中混血女性ハン・スーインの自伝小説である。結局、記者は朝鮮戦争勃発で、従軍する。戦地から、スーインにどんどん手紙を書くが、彼は爆撃を受けて殉職する。それが記者の殉死公報で報じられてからも、彼が書いた手紙が後から後からスーインの元に届くという話だ。
ほかにも、映画の作品そのものは、果たしてどうなんだろうか、というレベルでも、テーマ音楽があまりにも優れているために、映画が生き残ったというパターンは多い。
たとえば・・・
(エデンの東)
https://www.youtube.com/watch?v=h1fOFlG5b2w&index=32&list=RDAkkUKDHhT5Q(酒とバラの日々)
https://www.youtube.com/watch?v=g823dAO_IGU&index=3&list=RDAkkUKDHhT5Q(いそしぎ、The shadow of your smile)
https://www.youtube.com/watch?v=6W20hPoo658▼最後に、映画音楽とはまったく関係ないが、一つURLを書いておこう。会員の方は、大多数が年配者と思うので、若き日、あの頃なにをしていたろう、と思い起こすよすがにもしかしたらなるかもしれない。ジャニス・イアンの「17歳の頃(At Seventeen)」だ。1975年リリースの、全米No.1ヒット曲。ちょうど、ベトナム戦争終戦の年。サイゴン陥落の頃だ。この曲が世界中に流れていたころ、あなたはどこで何をしていたろうか。
(ジャニス・イアン)
https://www.youtube.com/watch?v=-SuavKHes_Y増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄
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