【閑話休題】
[記事配信時刻:2018-06-01 16:50:00]
【閑話休題】第524回・命の叫び
▼非常に複雑な思いにかられる文学というものがある。
わたしの場合、その多くは自殺している。書き残した作品は、あまりにも魅力的であり、多くのことをわたしに投げかけるのだが、本人の実際の生き方にはどうしても納得がいかない、あるいは微妙に釈然としない思いに駆られるのだ。
▼有島武郎もその一人だ。軽井沢の人の別荘で、愛人と縊死。6月に死んで、管理人によって7月に発見されたので、どういう状態だったか想像に難くない。
愛人には夫がいて、彼から脅迫されたのが直接的な動機だったようだ。この人生の終わり方というのは、どういうことなんだろうか。やはり納得がいかないのだ。
▼生きざま、死にざまと作品とは、別個であって別個ではない。太宰治にもこのことは当てはまる。芥川龍之介もそうだ。三島由紀夫もそうだ。ヘミングウェーも同様である。まったく好きではないが、川端康成もそうだ。生きざまというのは、多くはその死にざまとも通じる。この作家たちはすべて自殺である。
▼しかし、自殺した作家の書き残したものこそ、逆に言えばほんとうはこうでありたかったという命の叫びのようなものが凝縮されているのかもしれない。そう考えると、その生きざまや死にざまにどうしても納得がいかなくても、心を震わせるなにかがあるのかもしれない。
▼作家を理解する上での、この大きな壁については一応横に置いて、もしかしたらその命の叫びのようなものを、一つ挙げてみよう。
▼『小さきものへ(有島武郎』から抜粋
お前たちをどんなに深く愛したものが
この世にいるか、或はいたかという事実は、
永久にお前たちに必要なものだと
私は思うのだ
私はお前たちを愛した。そして永遠に愛する
・・・
お前たちの若々しい力は
既に下り坂に向おうとする私などに
煩わされていてはならない。
斃れた親を喰い尽して力を貯える
獅子の子のように、力強く勇ましく
私を振り捨てて人生に乗り出して行くがいい
・・・
私の一生が如何に失敗であろうとも、
又私が如何なる誘惑に打負けようとも、
お前たちは私の足跡に不純な何者をも
見出し得ないだけの事はする。
きっとする。
お前たちは私の斃れた所から
新しく歩み出さねばならないのだ
・・・
不幸なそして同時に幸福な
お前たちの父と母との祝福を胸にしめて
人の世の旅に登れ。
前途は遠い。そして暗い。
然し恐れてはならぬ。
恐れない者の前に道は開ける。
行け。勇んで。小さき者よ
▼さて、あとはざっと並べていこう。ここからは、作家に限らず、また自殺の有無にかかわらず、名言の旅とでもいこうか。過去、閑話休題で引用したことのないものに限ろうと思う。
:::
▼失敗なんかしちゃいないよ。うまくいかない方法を一万通り見つけたじゃないか。(トーマス・エジソン)
▼「未来」というのは、いくつもの名前をもっている。
弱き者には「不可能」という名。
卑怯者には「わからない」という名。
そして勇者と賢人には「理想」という名がある。(ヴィクトル・ユゴー)
▼自分が愛するに値する相手かどうかを考える前に愛してしまえばよい。(ウィリアム・ワーズワース)
▼わたしたちは三つの教えを受けて育つ。
一つは両親から。もう一つは教師から。残りの一つは社会から教えられる。
そして、この三つ目は、初めの二つの教えに、すべて矛盾するものなのだ。(モンテスキュー)
▼ぼくは、あの星のなかの一つに住むんだ。その一つの星のなかで笑うんだ。
だから、きみが夜、空をながめたら、星がみんな笑っているように見えるだろう。(サン=テグジュペリ『星の王子さま』)
▼私の苦痛が、 誰かが笑うきっかけになるかもしれない。 しかし、私の笑いが、 誰かの苦痛のきっかけになることだけは 絶対にあってはならない。(チャップリン)
▼アイデアの秘訣は執念だ。(湯川秀樹)
▼思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。
大切なのは、どれだけたくさんのことをしたかではなく、どれだけ心をこめたかです。
大きなことをできる人たちはたくさんいます。でも、小さなことを大切にしようとする人は、ほんの一握りしかいないのです。
(マザー・テレサ)
▼別れる男に、花の名を一つ教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます。(川端康成『化粧の天使達』)
▼束縛があるからこそ、わたしは飛べる。哀しみがあるからこそ、わたしは高く舞い上がる。逆境があるからこそ、わたしは走れる。涙があるからこそ、わたしは前に進めるのだ。(マハトマ・ガンディー)
▼ぽかんと花を眺めながら、人間も、本当によいところがある、と思った。
花の美しさを見つけたのは人間だし、花を愛するのも人間だもの。(太宰治『女生徒』)
▼ベストを尽くして失敗したら、ベストを尽くしたってことさ。(スティーブ・ジョブス)
▼たとえ百人の専門家が、「あなたには才能がない」と言ったとしても、もしかしたらその人たち全員が間違っているかもしれないじゃないですか。(マリリン・モンロー)
▼壁というのは、できる人にしかやってこない。越えられる可能性がある人にしかやってこない。だから、壁があるときはチャンスだと思っている。(イチロー)
▼信じる理由があるから信じているのではなくて、信じたいから信じているのだ。(二葉亭四迷『浮雲』)
▼人は仰いで鳥を見るとき、その背景の空を見落とさないであろうか。(三好達治『烏鶏』)
▼あなたが転んでしまったことに、わたしは関心がない。そこから立ち上がることに、関心があるのだ。(エイブラハム・リンカーン)
最後に、ぐさりとわたしの心臓に突き刺さった詩を書いておく。
:::
▼『自分の感受性くらい(茨木のり子)』
ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて
気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか
苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし
初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志しにすぎなかった
駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄
自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ
:::
やはり言葉は、命の叫びなのだ。
増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄
増田足15日間無料お試しはこちらから
https://secure.masudaasi.com/landing/pre.html?mode=cs