【閑話休題】
[記事配信時刻:2018-08-17 15:56:00]
【閑話休題】第535回・大陸暗闘
▼今月、中国で謀議がなされた。俗に北戴河(ほくたいが)会議と呼ばれているものだ。15日に終わった「らしい」。習近平国家主席がホストとなり、歴代の共産党の長老たちが一堂に会したこの会議は、実は共産党が、その会議の存在自体を認めていなかったのだ。
▼こういう非公式の、しかし最高幹部会があるということは、民主主義的ではないと非難されるので、存在を認めていなかったのだ。しかし、もともと建国以来、一度も選挙をしたことのない国だから、誰も民主国家などとハナから思っていない。「人民民主主義」など、笑止である。
▼北戴河会議とは、「謀議」であり、「密議」だ。かつての日本の株主総会のように、何の反論や批判もなく、しゃんしゃんで終わる全人代や共産党大会などが公式には、政策決定最高会議なのだが、実は正式には存在しないはずの「北戴河会議」こそが、影の政策決定最高会議なのである。すべては秘密裏に行われていた。
▼が、今年は様子が違う。人民日報が、「北戴河会議」の予定や、内容などに関して報道をしているのである。事実上、これまで存在すら否定していた会議が、実は存在することを、公に認めたようなものだ。なにかが変わろうとしているようだ。
▼会議の前、江沢民元国家主席が、一万字を超える意見書を習近平主席に送り、外交・経済政策の見直しを要請している。これ自体も、噂である。が、おそらく江沢民派が自らリークしたのであろう。
▼習近平主席は、徹底的な粛正によって、反対派をことごとく監獄に入れるか、下野させ、空いたポストに自身の子飼いを片っ端から押し込み、毛沢東、?小平につづき、個人崇拝も実現しつつあったが、この動きにあちこちから反対の火の手が上がり始めているらしい。
▼退役軍人たちが、数百人規模で天安門広場前に集結し、待遇改善、年金支払いなどの要求をデモによって訴えたが、さすがに元軍人たちの集団であるだけに、警察は遠巻きにしたまま実力行使で阻止することはしなかったようだ。
▼しかし、一般の民間人でさえ、公然と習近平体制に反旗を翻す言動をし始めている。
▼中国の最高学府・北京大学が創立120周年を迎えた5月4日、驚くべき大字報(壁新聞)が、貼りだされた。「党規約を遵守し、中国は個人崇拝に断固として反対し、憲法を守り、国家指導者は定められた任期を厳守せよ!」と題した24枚の壁新聞だ。これがキャンパスに約10分間、掲示されたのだ。
▼作者は同大卒業生の樊立勤(73歳)。習氏が120周年記念式典に出席するため同大を訪問したタイミングを狙っての習近平批判である。キャンパスは一時、騒然となり、学生やガードマン、警官らに取り囲まれた樊氏は直ちに連行され、大字報も撤去された。
▼続いて、世界中の耳目を集める事件が発生した。7月4日、朝7時前に上海のビジネス街・陸家嘴で発生した「墨汁事件」だ。
▼これは、上海市内に暮らす董という女性が、「わたしは中国共産党による洗脳に反対する。習近平の独裁的、専制的な暴政に反対する」と動画で述べ、街角の政権プロパガンダ看板にある習近平の顔写真に墨汁をぶっかけたのだ。
▼この動画はさらに続き、董が自宅に警官がやってきた様子をツイッターで実況。動画はまたたくまに拡散されたが、この直後、彼女自身は行方不明となっている。
▼中国では、かつて毛沢東時代に行き過ぎた権力集中と個人崇拝によって国家体制が硬直化し、多数の政治的迫害や社会の発展の停滞を招いた。そのため1980年前後に?小平が権力を握って以降はこれらが強く戒められてきた。
▼だが、2013年の習近平政権の成立以来、習近平はこれらのタブーを無視。自分自身や父親の習仲勲に対する個人崇拝をなかば公然と復活させ、政権第2期となった今年春には国家主席の任期制を廃止。憲法に「習近平新時代中国特色社会主義思想」と自身の名前を冠した思想を盛り込むなど、やりたい放題となってきていた。
▼「人民が敬愛する領袖」といった歯の浮くような言葉で、習近平の個人崇拝が推し進められたが、誰も文句を言わなかった。
▼が、どうやらその「独裁」は、早くもほころびを見せ始めているようだ。董という上海女性が行った、先進国であれば、ただのいたずれでしかないような行為ですら、中国ではみな誰もが恐れてしなかったのだが、こうした「事件」はだんだんと表に出てくるようになっている。
▼メディアですら、なにやら習近平体制に対して、「いかがなものか」といったようなスタンスを取り始めている。たとえば、7月9日の、党機関紙「人民日報」のトップページには、「習近平」の文字を含む見出しが、一切消えた。
▼さらに7月15日にも、同じ現象が起きた。散発的にではあるが、「習近平」無視を人民日報が行動に移しているわけだ。
▼トップページに、「習近平」という文字が皆無という日が、何度もあるということは、習近平体制発足以来、初めてのことだ。習近平政権による報道統制に、管制メディアですらアレルギー症状を起こし始めているかもしれない。
▼国営通信社「新華社」もそうだ。7月11日、新華社のウェブ版では、「華国鋒(元国家主席)は誤りを認めた」という過去の歴史記事を、突如として再配信し、ネット上で盛んに転載された。
▼華国鋒は、毛沢東の死後、その後を受けて、1976年に党主席に就任。毛沢東時代の文化大革命式の政治を改めることなく、自身の個人崇拝キャンペーンを推進した。ところが、政治力が無く、失敗。経済政策も失敗。トウ小平(トウの字は、どういうわけか変換不能です)から批判を受けて失脚した人物だ。
▼新華社の記事は間もなく削除されたが、かつての「文革」風を吹かす習近平政権の政治姿勢を、遠回しに当てこすった行動であることは、間違いない。
▼7月12日には北京二龍路派出所が地域の会社に「習近平の写真・画像やポスターおよび宣伝品」を撤去するよう通知を出していたことがネット上で暴露されている。陝西省で実施されていた、学術研究の形をとった習近平への個人崇拝運動の中止も報じられている。
▼これは噂だが、江沢民、胡錦涛、朱鎔基など歴代の共産党の指導者OBが結束して、習近平主席を引きずり下ろす工作を画策している、という。噂にすぎないが、中国の内部でなんらかの政治的な変動が起きているのはほぼ間違いないだろう。
▼習近平政権は現在、アメリカとの貿易摩擦の拡大にともなう経済混乱に苦しんでおり、これは政権発足以来の最大の失点であるともみなされている。
▼上海の墨汁事件も、実は反習近平派の政治勢力が、なんらかの後ろ盾になって実行されたという可能性もあるのだ。習近平が蛇蝎のごとく嫌う、共産党青年団派の一部は、国内の人権活動家や民主化運動家のグループと、あるていどの連携を取っている可能性すらある。
▼その中国が、この時代錯誤ともいえる、習近平個人崇拝化・独裁化に、異議申し立てを始めているのだ。民主化されるところまでいくかわからないが、いわゆるリベラルが急速に台頭してくる環境は、整っていそうだ。
▼そこで、爆弾のような反習近平の論文が炸裂した。清華大学法学院(法学部)の許章潤教授(55歳)だ。清華大学は習近平の母校であり、北京大学と双璧をなす名門だ
▼許教授は、2005年に中国法学会が優れた若手法学者を顕彰する「十大傑出青年法学家」にも選出されるなどエリート学者である。
▼問題視されたのは、彼が7月24日に民間シンクタンク、天則経済研究所(ユニルール・クラウド)のサイトで発表した、『われわれの目下の恐怖と期待』と題する論文だ。
▼論文は、中国社会のひずみを提起し、「社会は混迷を深め、市民の生命の安全が危ぶまれている」「近年の強国主義は、改革開放以来、国家と市民が共有してきた最低限のモラルを破壊しようとしている」と警鐘を鳴らした。
▼特に、習近平の個人崇拝の強化については批判が容赦ない。今年3月、憲法から「国家主席・副主席の任期は2期10年を超えない」とする規定を撤廃するなど、習近平の“皇帝化”が加速していることに、猛烈な罵倒ともいうべき論調で非難している。
▼指導者の個人崇拝について、「極限に達した党メディアによる『神づくり』は、前時代的な全体主義国家のようだ」と批判。「自分の肖像画を世界中に無料配布しまくって崇め奉らせるなど、滑稽の極み」「自身への崇拝者を、○○理論家、○○研究家などと持てはやしている」と断じ、「一体なぜ、このような低能な行為がまかりとおるのか、検証する必要がある」と容赦なく斬り捨てた。
▼論文は、「改革開放後の成果を打ち消し、毛沢東時代に逆行する恐怖を予感させるだけ」「誰もコンロトロールできない『スーパー元首』を生み出す」と言い切っている。今秋に臨時党大会を招集するか、あるいは来年3月の全人代で議題として取り上げ、憲法を再改正して任期制を復活しなければならないと主張した。
▼さらに2019年は、民主化運動を政府が武力鎮圧した「天安門事件」の発生から30年になることを踏まえ「政府は適切な時期を見つけて事件を公に再評価し、誠意と知性を示すべきだ」と提議。それが実行できれば「毎年、(事件発生の)6月4日が近づくたびに厳戒態勢を敷く必要はなくなり、市民は緊張感から解放され、共産党統治に正当性を与える一助にもなる」と述べた。
▼このほか許教授は、際限のない軍拡競争、国際ルールの無視、度を越えた経済支援による影響力拡大、思想取り締まりの強化などについても批判。引退した党・政府の高官が死ぬまで特権を享受できるシステムや高官だけに安全な食品が提供される「特供制度」の廃止なども求めている。
▼論文が掲載された7月24日当日、許教授は日本にいた。現在も日本に滞在中とされるが、詳しい所在地や日程は不明だ。帰国すればたちまち、当局から厳しい取り調べを受けるのは確実で、国外で亡命を申請するとの憶測も流れている。
▼そこへもってきて、北戴河会議である。それも、存在そのものが共産党によって否定されていた「謀議」が、実は存在することを公然と認め、報道が始まっているということに、どういう結果になるかはわからないものの、なにか大きなうねりが起こっているということだけは、わかる。
▼もっとも、そうではなく、習近平体制が盤石になってきたから、北戴河会議の存在を認めるようになったのではないか、という見方も当然できる。つまり、長老たちは異議申し立てや注文を行うどころか、保身のために習近平体制を支持するという意思表示の場になり下がったという見方である。どちらかわからない。
▼現在、習近平政権は国際政治では土壇場に追い詰められている。アメリカが、明確に中国を「敵」をみなし始めたのである。第二次大戦以降、アメリカは中国が民主的な大国となり、アメリカと共存共栄できると期待した。文化大革命でその期待は裏切られたものの、その後の開放経済では、再びあの夢をもう一度と膨らませた。それが、近年ようやく、「われわれは騙されていたのだ」ということに、気づいたわけだ。
▼アメリカは、これまで「成長する弟分」である中国にしてきた恩を、仇で返されようとしていることに気づいた。オバマ政権のときには、訪米した習近平は、「太平洋をアメリカと中国で、二分しよう」などと、ぬけぬけと言ってのけたのである。アメリカにしてみれば、「お前、だれに向かってモノを言っているのだ」という感じであろう。
▼トランプ政権では、開放経済以降、40年近く、中国に対して取ってきた「大人の対応」を後悔し、利権の回復を露骨に要求し始めた。それが、貿易摩擦問題である。
▼無限の膨張をしかねない中国の海洋政策に対し、アメリカはこのほど「インド・太平洋戦略」を打ち出し、2020年までに宇宙軍創設もぶちあげた。すべては、中国と、これに関係を持つイラン、ロシアに鉄槌を下そうという腹である。
▼かつて、レーガン政権がソ連に同じような喧嘩をふっかけ、ロシアは愚かなことにこの挑発に乗った。そして、自滅した。習近平はそれを知っているから、アメリカの挑発には極力乗らず、ひたすら隠忍自重して、諸外国に「自由貿易を守ろう」などと、およそ自分がやっていることとは真反対のシュプレヒコールを上げ、トランプ政権の「横暴」に対して、共同で戦おうと呼びかけている。あれほど忌み嫌っていた日本にさえ、秋波を送ってきているくらいであるから、よほど窮地に立っているとしか思えない。尖閣列島近海に接近して、日本側の海保などと悶着を起こすな、と習近平主席自ら指示をだしていることが、今週明らかになっているくらいである。かなり神経を使っている様子だ。
▼一帯一路政策は、失敗である。すくなくとも、いまだに一件も回収できていない。そもそも各国で採算度外視して受注したプロジェクトは、片っ端から頓挫、中止となり、反対運動を巻き起こしている。
▼中国主導の現代版シルクロード構想「一帯一路」は、関係国のインフラ建設で、返済能力を度外視する融資を結ばせている点が、現在大問題となっている。関係国に融資を持ち掛け、いかにもお得な経済開発かのように見せかけ、関係国が返済に滞ると、条約に基づき、その国の利権や土地を収奪するという、まさにかつての帝国主義そのものにほかならない。
▼具体的に世界が驚いた事件は、スリランカのプロジェクトだ。スリランカは、一帯一路構想に基づくインフラ整備を受け入れ、巨額融資を受けて同国第3の国際港コロンボ港を建設した。しかし、国の経済規模にふさわしくない巨大港の未熟な運営計画により、返済目途が立てられなくなった。このため政府は2017年7月、同国主要の国際港であるハンバントタ港を、中国側に99年契約で運営権を貸し出した。大英帝国が、香港を清国から奪ったのと、なにも変わらないのである。同じようなことが、インド洋からアラビア海にかけてあちこちで起こり始めている。
▼とくに一帯一路プロジェクトの中央アジア方面はすごい。トルクメンはインフラ建設による放漫財政と汚職が財政悪化に拍車をかけ、借金返済のためガス田を中国に譲り渡さざるをえなくなるとの観測が浮上している。
▼タジキスタンは、発電事業への3億ドルの融資の見返りに、中国企業に金甲山の開発権を譲り渡した。キルギスでは、首都ビシケクの発電事業を巡る政府と中国国有銀行の融資契約の中で、「債務不履行の場合、中国はあらゆる資産を要求できる」といった条項が盛り込まれていると暴露された。鉄道ア建設の交渉でも、中国は融資の見返りに資源権益を求めているとみられる。
▼最近では、アメリカにとっては裏庭である、中南米にまで中国が食指を動かしてきている。アメリカが、敵視するベネズエラである。欧米諸国のメディアは、ようやく近年になってこの中国の野望というものに、警戒心を抱くようになった。
▼よって、アメリカは中国資本によるアメリカの先端企業の買収を認めない、とした。あの親中国的なドイツのメルケル首相ですら、とうとう中国の野望に気づき、中国資本によるドイツの精密産業の買収を却下したわけだ。欧州でも、中国のやり口というものにようやく「ノー」を言い始めたのである。
▼これに対し、中国の共産党機関紙「環球時報」は、7月15日、同じように発展途上国に借款を結ぶ日本を例にあげ、「なぜ西側諸国は日本を責めないのか?」と、日本をやり玉に挙げて、自らの侵略行為をぼかそうとした。このスリランカの債務過剰問題と、その債務不履行に対する、国際港の99年租借という事実は、西側が誤解していると反論したのだ。
▼環球時報は、「中国陰謀論は、欧米メディアの根拠のない誇大広告だ」と主張。負債過剰は、スリランカの政治的不安定さと低収入、福祉政策などによるもので、「中国はその責任を負えない」とした。そうではないだろう。スリランカのその状況の足元を見て、事実上、たぶらかして羽目たにもかかわらず、こうした言い逃れをするのは、戦前からの中国という国の論法である。
▼環球時報はさらに、2017年の統計を引用して、スリランカの借款は日本が12%、中国が10%だが、「日本を批判しない西側メディアはダブルスタンダード(二重基準)だ」と述べた。日本のほうが、スリランカに貸している金額が多いじゃないか、と子供のような言い訳をしているのだ。
▼2017年1月、スリランカのハンバントータ港近くに建設される中国資本の工業区域の設置は、仏僧を中心とした抗議運動が頻発している。
▼スリランカでは、環球時報に対して欧州する議論が起こっている。「中国はスリランカが中国により背負わされた負担を過小評価している。日本によるプロジェクトの金利は0.5%に過ぎないのに、中国は6.3%である」
▼これを支持する格好で、ワシントン拠点のシンクタンク南アジア遺産基金の研究員ジェフ・スミスが、中国の一帯一路に関する問題を非難した。
「日本は(外国における)インフラ計画の取引で、中国のように機密を犯したり、主権を侵害したりするような内容を盛り込まない。腐敗を促す違法な政治献金や、債務をほかの港の見返りに差し出させるようなことはしていない。コロンボ港のような高額計画も、政治宣伝に利用したりしない」。
▼環球時報の記事にはあいつぐ反論がほとんどを占める状態に陥った。たとえば、・・・
「日本は友好を築こうとしている、中国は支配しようとしている」
「日本は、植民地主義に基づいて海洋戦略上重要な位置にある地域を借金漬けにし、港を99年契約で貸し出させるよう迫ってない」
「普通の融資国なら、情報提供や共有を要求したり、返済できないことが明らかな、腐敗しきった国のリーダーと融資を結んだりしない」。
「中国は、一帯一路の評判が悪くなっていることに焦っているのではないか」
▼インドのメディア、ポストカードは2017年7月、スリランカの国の債務は6兆4000億円にも上り、全政府収入の95%が、借金の返済にあてられていると伝えた。そのうち中国からの借入は8000億円。同国財務相は「完済に400年かかる、非現実的だ」と環球時報を批判した。非現実的な融資を無理強いし、それが支払い不能になると、領土を奪い取るというのを、普通帝国主義というのではないだろうか。中国が建国以来、一貫して、日本をはじめ西側の帝国主義に徹底して戦うと言っていたスローガンは、今自らの汚辱にまみれたレッテルに成り代わっている。
▼こうした海外での外交・経済・軍事政策の破綻、国内において共産主義国家でありながら、大学卒業者が職にありつけない異常な状況、年金制度の崩壊は日本の比ではない。
▼景気循環論からは、来年にも在庫循環、設備投資循環がピークアウトする。成長国家にとって一番重要な超長期循環(社会インフラ・技術革新)は、2011年にすでにピークアウトして、下り坂をまっしぐらである。唯一、建設投資循環だけが、まだしばらく拡大基調だ。
▼しかし、この建設投資循環こそは、2008年暴落の際、最大の元凶であった不動産バブルの温床であり、この過剰債務問題の整理・消化にこの3年苦しんでいたのである。
▼このバブルの後遺症の治療を「棚上げ」して、このたび、景気浮揚のために財政出動を行うと習近平政権はアピールした。アメリカに対抗しうるカードが一枚もない中国は、さらなるバブルの積み上げになりかねない財政出動に踏み切らざるを得ないという、絶体絶命のピンチにあるといっていい。
▼なるほど財政出動で、一時的には景気を下支えることができるだろう。しかし、それによって、長期循環の建設投資循環のバブルの後遺症はそのまま残っており、その上にほかの循環のバブルまで積み上げる格好になる。
▼アメリカは、この一手に中国を追い込むのが目的であったとしたら、よほどの深謀遠慮である。見事なくらい、中国を袋小路に追い詰めたといっていいだろう。
▼当然、バブルは崩壊する。習近平体制どころか、共産党体制そのものが自滅する恐れもある。アメリカはそこまで読んでいるに違いない。
▼今、中国で、メディア、軍人、学界、そして一般市民に至るまで、ふつふつと習近平体制に対する反対運動が散発的に起こり始めているというのは、以前アメリカがスマートフォンをツールとして、「アラブの春」を演出し、民衆運動によって片っ端からイスラム独裁政権がドミノ倒しのように崩壊していった、あのパターンを中国に持ち込もうとしているのかもしれない。
▼あるいは、そうなる前に、中国が自身の手で、抜本的に「普通の国」に改革することができるだろうか。少なくとも、過去5000年の歴史を振り返ってみて、それができたためしは一度もない。日本にはできても、中国にはできないのである。なぜなら、もともと中国という国は存在せず、依って立つ宗教的な価値観は革命によって根絶され、国体を成り立たせるアイデンティティが欠如してしまっているからだ。おまけに国家の自浄作用が効かないほどの質量を抱えており、だれが指導者になっても、まとまりようもない茫漠たる「生存圏」がそこにただ存在しているだけだからだ。これは、哀しいことだが、事実である。
▼日本は、この無謀な新帝国主義の道を歩む中国という厄介な存在に、どう向き合えば良いのだろうか。簡単である。
▼台湾と国交を回復すればよいのである。それが過激すぎるなら、アメリカ同様、法律を作って、事実上の国交回復をしてしまえばよいのだ。
▼当然、中国は烈火のごとく怒り、日本を非難するだろう。構うことはない。「中国の正当政権がどちらかなどということは、北京と台北の内政問題であるから、日本は一切関与しない」と正論で跳ね返せばよいのだ。
▼そして、「どちらが正当かは、日本人が決めることではなく、あなた方が決めることだ。日本は、ただ、そこに明らかに誰がみても、独立した主権の国家と国民が存在する以上、台頭の法的関係を持つ必要があるのだ。だから、台湾と国交を回復する。どっちがどうとかという話は、そちらで勝手にやってくれ」ということで押し切ればよい。
▼中国は、日本と断交するというかもしれない。断交すればよいのである。困るのは、中国である。日本は、中国の代わりなどいくらでもある。目先は、インドという、中国より大人口になり、さらに有望で、なおかつ根本的に親日国家がそこにあるのだ。なにも恐れる必要はない。
▼中国で暗闘が繰り広げられている。日本は、ただぼんやり指をくわえてどうなるんだろう、などとアメリカ頼みでいてはいけない。日本は、中国の一帯一路を完全に包囲・寸断できる世界地図の要衝に、どこもかしこも親日国家があるのだ。
▼台湾、ベトナム、マレーシア、タイ、バングラデシュ、インド、イラク、イスラエル、トルコ、ポーランド。まさにぐるりとユーラシア大陸をつなぐ真珠のネックレスのように、無条件に親日である国家が連なっている。これらの国との政治・経済的な強固な絆を構築していくことを、日本はあまりにもなおざりにしすぎてきたのだ。もっと、戦略的にビジョンを描き、中国で繰り広げられている暗闘の先にあるものに、どうにでも対抗できるような連携をつくっておくべきであろう。
▼アメリカなどは、習近平が目が点になるような恐るべき武器を持っている。それは、「国際緊急事態経済権限法」だ。1977年に制定された法律だ。どういうものかというと、具体的に言えば、敵性外国が保有している米国債を、一瞬で無価値にしてしまうというものだ。ゼロである。つまり、中国が米国債を売るぞ、といって恫喝しても、アメリカは「やれるものならやってみろ」と、いきなりこの法律を持ち出せば、いきなり中国が持っている大量の米国債は、価値がゼロとなり、アメリカは一切、償還する必要もなければ、利金を支払う必要もない。つまり、一方的な「棒引き」である。
▼これが、世界的にも最高クラスの格付けにされている米国債の正体だ。というより、アメリカと言う国が、どれだけ恐ろしいほど一方的な国家であるか、ということだ。日本も中国政府の目が点になるようなことを、一つでもやってみたらいい。日本の足元を見るようなことを、ロシアも北朝鮮も、中国も、しなくなるようなことだ。
▼そして、今週、マティス国防長官は、「中国人民解放軍は過去3年間、海上爆撃機の展開範囲を大幅に広げ、重要な海域で飛行を重ねており、米国や同盟国の標的に対する攻撃の訓練を行っている可能性が高い」と指摘した。
▼もちろん、中国に米国を空爆するつもりなど無いだろう。が、アメリカの国防長官がこういうことを、あげつらって非難するということ自体に重大な意味がある。アメリカは、中国を敵視していると、公然と表明しているのにほかならないからである。
▼日本も、敵性外国や外国企業が日本に所有する「資産」は、強制的に没収ができるような「国際緊急事態経済権限法」のようなものをつくったらよい。日本各地に、官僚たちが斡旋して、事実上安く払い下げた、多くの中国企業や団体に所有権のある土地・不動産が対象だ。一兆事あらば、すべてを没収できるという究極の法律だ。下手な軍事力より、よほど効果がある。
▼これまで長年にわたり、唯々諾々と中国に日本の資産を浸食させてやってきた、日本の官僚や政治家たちというのは、一体、日本人なのか。それとも、スパイ、あるいはスキャンダルを握られた末の反逆行為なのか。非常にどす黒いものを感じるのは、わたしだけだろうか。
増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄
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