【閑話休題】
[記事配信時刻:2018-10-19 15:58:00]
【閑話休題】第544回・あなたは保守ですか、リベラルですか。
▼みなさんは、自分を保守だとお思いだろうか。それともリベラルだとお思いだろうか。この二つの言葉は、いかにも反対語のように扱われているが、実はもともとは全然次元が違うのである。
▼政治学の世界では、結構定義は曖昧だ。基本的には保守というのは、伝統や手続きを重視する。この点ばかりが強調されてしまたったためか、戦後の自民党の政治色と同一視された。
▼一方、リベラルは、個人の自由を重んじ、国家の役割をできるだけ小さくしようという立場だ。基本的には資本主義を基礎づけるような概念がリベラルなのだが、日本では戦後、自民党=保守の対抗軸として使われてしまい、たとえば憲法は改正反対、再軍備反対といったような平和主義と同義かのような意味合いになってしまっている。
▼アメリカではどうかというと、政治学では、保守というと、きわめて宗教とのかかわりが深い使われ方をする。アメリカでは宗教を背景とした社会規範を重視するのが保守であり、リベラルはこれに対して、少数派の権利を重んじる。たとえば、アメリカではプロテスタントが圧倒的に多数派なのだが、同じキリスト教でもカトリック教徒はなにかと差別されてきた経緯がある。その後、黒人の人権などにも「少数派の権利」は拡大していった経緯がある。現在はイスラム教徒である。
▼今まで述べてきたのは、あくまで政治学上の両者の違いである。そもそもリベラルというのは、権力者から価値観を強制されることを拒否するたちである。つまり、反対語は、権威をかざした強権政治的な立場が反対語であり、これはパターナルであって、けっして保守とは違うのである。
▼保守というものは、もともと常識や経験知、慣習といった文化を重んじる考え方だ。それは文字通りなのだ。どこに原点があったかというと、フランス革命である。
▼フランス革命は、その理想主義的なイデオロギー(自由、平等、博愛)を標榜したものの、実際には恐るべきジャコバン党による独裁と連日の断頭台送りなどの恐怖政治を生んだ。
▼当時の人口は2700万人。革命期間に恐怖政治によって処刑された人間は推定60-80万人。2.2%に相当する。このうち、ギロチン(断頭台)による処刑者数は16600人ということだ。保守という概念は、このとき、革命というものに疑念を抱いたところから生まれた。
▼保守は、フランス革命のように合理主義を突き進めば、きっと良い社会になるという左翼に多い思想を総じて疑う。理想主義、理念重視のイデオロギーというものに対する、生理的な懐疑論、それが保守である。その根底には、「人間は、間違いをおかす可能性が常にある」という経験知があるからだ。
▼だから保守は、議論を重視する。リベラルは少数派を無視するなという立場であるから、同じく議論を重視する。つまり、どちらも議論を大切にするという点では同じである。多様な意見を取り入れるスタンスは、保守もリベラルも実はまったく変わらないのである。
▼ところが、経済学では保守とリベラルでは、また全然話が違ってくるのだ。保守というのは、政府や国家の関与をできるだけ抑えて、市場に委ねようというスタンスである。小さな政府を目指す思想である。
▼一方リベラルは、政府や国主導で、需要をつくれるような大きな政府を志向する。このように経済学では、完全に逆なのである。しかも、厄介なのはリベラルである。政治学的には、個人の自由や人権重視をするために政府や国家の力を削ごうとし、経済政策では社会舗装などでは政府や国家の力を強化しようとするのである。つまり、リベラルというのはその理想主義はともかくとして、在野にあるときには反政府的になりやすく、権力を握るといきなり強権的になる嫌いがある。それが、理想主義的なリベラルというものの、宿命なのであろう。
▼保守はその点、理想を疑うから、在野にあるときと、権力を握ったときとで、行動原理はそう大きく変わらないのである。
▼さて、どうだろうか。はたして自分は保守なのだろうか。リベラルなのだろうか。自分でもよくわからない。ただこのように定義をいろいろと確認してみると、どちらと決めないほうが良いような気がする。どうしても、具体的な政策を巡って、矛盾が生じてしまう可能性が高いのだ。
▼となると、一番良いのは、やはり具体的な政策で賛成か反対かということを、個人がはっきりさせることなのだろう。党派やセクトで立場を決めるというのは、常に自分の主張が裏切られるリスクが非常に高いからである。
▼ということで、果たして政党政治というものが良いのかどうかも、疑問に思えてくる。日本の政治界の惨状はさておき、アメリカでさえ、リベラルは本来のリベラル色がほとんど民心を引き付けることができなくなってきている。理想や普遍的価値ばかり重視することで、現実に起こっている問題に有効策を打ち出せない政党になってきたからだ。
▼自由貿易といいながら、結局、(アメリカの産業自体の怠慢が大きいのだが)それによってアメリカの伝統的な産業は衰退してしまったということもそうだろう。積極的な移民政策によって、文化摩擦や民族的な衝突が恒常的になってきてしまったということもそうだろう。所得格差が極大化し、教育を満足にえられていない階層が増大。これによって、アメリカンドリームが昔ほどは容易ではなくなってきていることもそうだろう。
▼その結果、前回の大統領選で善戦したサンダース民主党上院議員のように、「社会主義者」を自認するような「左翼」が台頭し、いまや米民主党はほとんどこの「左翼」に主導権を奪われているような体たらくである。
▼さて、どうだろう。あなたは自分を保守だと思いますか。リベラルだと思いますか。
増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄
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