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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第11回・ユーロの正体

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【閑話休題】第11回・ユーロの正体

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-03-15 16:30:00]

【閑話休題】第11回・ユーロの正体


▼この3年というもの、ギリシャなど南欧各国の財政破綻で揺らぎ、大変お騒がせだったのがユーロだ。国際機軸通貨・ドルを補完するはずのユーロが、一体どうしたことだろう。ユーロはサブプライム暴落以降、域内経済が南欧の財政破綻懸念で揺らいだことから、にわかに動揺するにいたった。極端な話では、ユーロ崩壊などという危機説さえささやかれた。果たして、ユーロの行く末というのは、どういうものが考えられるのだろう。それには、その発足の理由や背景という原点に戻ってみれば分かりやすい。

▼2002年1月1日にユーロは発足した。当初、米国に拮抗する新たな経済主体が誕生したということで、夢のある将来性が語られたりもしたものだ。それが近年では財政破綻に開き直ったかのようなギリシャと、ルールを厳しく求めるドイツとの反目に見られるように、やや機能不全的な側面が露呈してきた。

▼マネタリズムの教祖であるミルトン・フリードマンは、ユーロに関してどちらかというと否定的な見方をしていた。金融政策の適切な選択は、変動相場制によって可能であり、統一通貨では不可能だとした。ユーロ経済圏は為替の変動による経済の調整機能を放棄しているため、それぞれの加盟国国内の価格、賃金、資本移動だけで調整するしかない。救済されるギリシャと、救済するドイツとで、政治的な衝突になるのは、ほとんど分かりきった話のはずだ、とこういうことになる。

▼しかし、そもそもユーロとは、欧州の明るい未来のためにつくられた、という理由ばかりとは言えないのだ。実はもっと長い歴史的なあるトラウマ、恐怖感などがある。1989年のベルリンの壁崩壊に続く、90年の東西ドイツ統一は、周辺欧州諸国に大きな不安を抱かせた。ドイツ語を母国語とするゲルマン民族は、1億人。話者人口は1億3000万人。居住地域はいわゆるドイツ以外に、東欧、ベネルクス三国、スイス、北欧、バルト三国に無視できない比率で存在している。

▼これだけの民族が東西ドイツ統一をきっかけに新たな国家を形成した場合、英仏が束になってかかっても、およそ人口、市場規模、経済力・軍事力また、技術力においても、到底かなわなくなる。とくにフランスの対独恐怖感というものは、歴史的なもので、ナポレオン戦争以来、ドイツ(当時は、プロシャと、ドイツ諸侯国家群)を封じ込め、分裂させるということが、フランスの国是とされてきた。ビスマルクによってドイツ帝国として統一国家になってからというもの、第一次大戦、第二次大戦とろくなことがなかった。

▼このため、戦後は東西ドイツを分割することによって、かけがえのない平和と、フランスの優位性が保たれてきたのだ。つまり、なんとしてもヒトラーの亡霊、「第三帝国の復活」だけは、阻止しなければならない、というその一点によって、フランスの国益は守られる。そうフランスは信じてきたし、周辺諸国の考えも基本的には同様だった。なにしろ、コテンパンに叩きのめされた割には、ドイツは日本と違って、したたかに国軍を保有し、「鉄十字」を勲章のシンボルとし、なにより憲法上、戦争を放棄していないのだから。

▼当時、すでに西ドイツは戦後の欧州世界における優等生であり、マルクは史上最強の通貨とさえ言われていた。このドイツ統一に、もっとも反対していたフランスのミッテラン仏大統領は、西独のコール首相と真っ向から衝突した。コール首相にしてみれば、東ドイツが自壊作用を起こしている今を置いて、ドイツ統一のチャンスはない、と判断していた。これをなんとしても阻止したいミッテラン大統領だったが、コール首相が動かずとも、東ドイツそのものが崩壊してしまえば、自然に、なし崩し的にドイツ統一が成立してしまうことになる。

▼結局、この両者の衝突をまとめるために苦肉の策として打ち出されたのが、ユーロだった。フランスは、ドイツ統一を認める代わりに、ドイツは史上最強の通貨マルクを捨てるという選択を強いられた。コール首相は、マルクを捨てても、統一ドイツの悲願達成のほうが、将来的にはるかにメリットがある、と踏んだ。また、マルクを捨てても、ユーロという統一通貨内で、ドイツ経済が欧州全体に「浸透」し、実質的に「支配」することも可能だ、という目算も働いた。フランスとしては、せめてドイツ色を薄めるための窮余の一策だったが、諸刃の剣であり、下手をすればドイツを盟主とした共栄圏の成立に手を貸すだけ、というリスクもあった。

▼いまのところ、独仏は蜜月関係を維持している。少なくとも表面上は、そう演出している。南欧問題を処理するまでは、この関係の維持が努力されるのだろう。しかし、やがてこのユーロという世界観が崩壊するとしたら、それは域内における脆弱国の離脱というものではく、ドイツそのものが「域内にとどまるメリットがない」と判断したときであることを覚えておく必要がある。ドイツ封じ込めのために生まれたユーロである。崩壊するときがあるとしたら、それはドイツが決めることになるのだ。

▼ただ、話はそう短兵急にはいかないもので、現実のドイツは欧州からひとたび出れば、それほどの突出した実力があるとは言えない。たとえば、対米国、対中国輸出の競争力では、ずっと伸びていない。ドイツの強さは、欧州域内に限定されているといってもいい。それは、いち早く東欧に生産拠点をシフトしたためで、欧州域内においては圧倒的な競争力を得ている。ドイツがこの現状に満足するか、それとも拡大こそが成長維持の鉄則だと考えて、この「枠」を超えようとするときがくるか。こう考えると、どうやら欧州というのは、結局ドイツという時限爆弾でいつも歴史が変わるような仕組みになってしまったようだ。

増田経済研究所
コラムニスト 松川行雄



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