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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第192回・定説を疑え〜失敗の本質(中編)

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【閑話休題】第192回・定説を疑え〜失敗の本質(中編)

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-12-06 18:45:00]

【閑話休題】第192回・定説を疑え~失敗の本質(中編)


▼次は、アメリカだ。ドイツと戦争をしたかったルーズベルトなど米政府首脳部は、ドイツと同盟を結ぶ日本を追い詰め、先に手を出させて戦端を開き、いわば裏口から対ドイツ戦に介入しようとした。しかし、この参戦に前足を?いていた米首脳部の対日認識とは異なり、米海軍は日本との戦争では負けると信じていた。だから、戦争突入を急ごうとするルーズベルトに、米海軍司令部は、「とにかく開戦を遅らせてくれ」と懇願している。先に示した日米戦力比較を見れば分かるとおり、あの時点で米国が日本に勝てる見込みはまずなかったのだ。

▼アメリカに勝算があったとすれば、長期戦・持久戦に持ち込んだ場合である。資源と工業生産力で遥かに勝っていたアメリカは、時間と物量を頼むことが、唯一日本に勝利するシナリオだった。しかし、それは期待すること自体が困難だった。なぜなら、フィリピンに米軍を置いていたからに他ならない。

▼日米開戦となれば、当然日本は南方の石油を奪取するため、その途中にある邪魔なフィリピンの米軍を叩くはずである。これを見殺しすることはできない。従って、米国海軍は総力を挙げて、フィリピン駐屯の米陸軍を支援することになる。結論は、日米艦隊決戦ということになる。

▼艦隊決戦では、どう逆立ちをしてもアメリカが勝てる可能性は、限りなくゼロだったのだ。初戦で米太平洋艦隊を撃滅されてしまったら、ハワイは丸裸である。ハワイが日本軍に占領されてしまえば、次は米本土攻撃が予想される。こうなると、持久戦・長期戦どころではない、本土防衛戦争に話がひっくり返ってしまう。

▼これには反論があるはずだ。「いやいや、太平洋戦争は完全に航空戦力が雌雄を決したのであって、艦隊決戦は時代遅れだ」と。この考え方も、間違っている。航空戦力優位の原則は、開戦直前の段階では、世界的にまったく存在しなかった。海軍の戦争は艦隊決戦しかなかったのである。航空戦力が一躍脚光を浴びたのは、真珠湾攻撃によってである。びっくりしたのは世界のほうだった。

▼開戦当初のマレー沖海戦では、合計86機の日本の航空機動部隊によって、英国海軍の超ド級新鋭艦、レパルスとプリンス・オブ・ウェールズが撃沈された。さらに、翌年には空母ハーミーズがセイロン沖で撃沈され、英インド太平洋艦隊は全滅している。この航空機動部隊のみによる先制攻撃という戦術は、日本が打ち出した前代未聞の新機軸であって、開戦前には誰も想像することができなかった。

▼従って、日米開戦が真珠湾ではなく、フィリピン攻略主体で始まっていたら、どうサイコロを振っても、日米の総力を挙げた艦隊決戦はフィリピン沖で行なわれたことは間違いない。そうであっても、アメリカが勝つ見込みはゼロだったのだ。

▼また、こういう反論もあるだろう。アメリカは負けると分かっていて、フィリピンまでノコノコやってくるわけがない、と。いや、フィリピンの駐屯米軍(マッカーサーが陣取っていた)を見殺しにする選択肢は、米国人の発想からはあり得なかったはずだ。アメリカの国民性からしても、ルーズベルト大統領に駐屯米軍を見殺しにする選択肢はなかった。

▼むしろ、真珠湾と同様、日本が先手を打ったことで、対日・対独参戦の正当な口実を得たとして、欣喜雀躍して応戦したことだろう。それも、米海軍首脳部の反対を押し切っての強硬判断を下したはずだ。また米海軍首脳部も、当時はまだ、ゼロ戦の戦闘能力や空母の有効性に気づいていなかった。だから艦隊決戦に、万に一つの勝機を模索したのだろう。

▼こうした開戦直前の情勢を見ると、これまで私たちが先入観で思い込んでいた、「日本が無謀な戦争をした」という理解が、まったく見当はずれの間違いだったことが分かる。ではなぜ、その負けるはずのない戦争に日本は負けたのか。しかも、惨憺たる負け方だ。問題はむしろここにある。無謀で自暴自棄のような戦争だったというより、遥かに深刻な「失敗の本質」がそこに存在する。太平洋戦争が、間違った論点から長らく研究され続けてきたことは、大変残念だとしか言いようがない。

▼その最大の失敗の本質は、真珠湾奇襲攻撃( 1941年、昭和16年12月8日)そのものにほかならない。なぜ、真珠湾を叩かなければならなかったのか、この対米戦争の最終的な目的は何なのか。そのための最短にして、最適な作戦計画とはどうあるべきなのか。多くの疑問を、この真珠湾攻撃に集約してみることができる。

▼いわゆる「グランド・ストラテジー」の欠如である。グランド・ストラテジーとは、要するに「大局を見すえて緻密に駒を進める能力」のことだ。陸軍は長年、ロシア・ソ連を仮想敵国としてきた。それが例のノモンハン事変によって、勝手に「容易ならざる敵」だと勘違いをし、それまでの北進論を引っ込め、ひたすら南進論に転換したことは先述した通り。一方、海軍は、途中からアメリカを仮想敵国と認識し、海軍予算を政府から奪ってきた経緯がある。つまり、両者バラバラの仮想戦争計画を立てていたのだ。

▼米国から「鎖国以前の国境に戻れ」などという、明らかな“挑発”を受け、石油資源も止められた日本は、どういうわけか悲観論に陥り、対米開戦不可避と決め込んでしまう。そこで、飛び出してきたのは、機先を制してハワイの米太平洋艦隊を壊滅させることだった。これで時間を稼ぎ、その間隙を縫って、南方の石油資源(オランダ領インドネシア)を奪取する、という作戦を練った。

▼話がどこか違わないだろうか。日露戦争以来、日本の最大の仮想敵国はロシアであり、ソ連であった。しかし、現実には共産党と内戦状態で忙しい蒋介石・中華民国と、泥沼の戦争を継続していたのだ。そもそも、これ自体が間違っている。しかも、敵の首都南京を占領してしまったら、蒋介石は逃亡するに決まっており、交渉する相手がいなくなってしまうではないか。日清戦争のときには、現地軍は北京占領目前まで進攻したが、大本営は停止命令を出し、北京に入ってはならない、と厳命した。明治の軍人と昭和の軍人の、ここに大きな「リアリズムの違い」が出ている。

▼日本はアメリカから徹底的にいじめられたことで、「開戦必至」の雰囲気となり、米太平洋艦隊を叩こうとした。だがそれは、たった一回の奇襲攻撃にとどまり、ハワイを占領することもなく、結果的には「ただの時間稼ぎ」にすぎなかった。挙句の果てには、今までの戦争計画には一度も登場したことがない、南方作戦(南進論)に全力を投入していったのだ。

▼この戦争のどこに“計画”があるのだろうか。場当たり的な判断だけで、いたずらに戦線が拡大し、にっちもさっちもいかなくなるのは、素人でも分かる成り行きではないか。

( 9日の「後編」に続く)

増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄



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