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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第238回・環境と遺伝

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【閑話休題】第238回・環境と遺伝

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2014-02-19 17:05:00]

【閑話休題】第238回・環境と遺伝

▼一体、人間がそうなるのは、環境によるものなのか、それとも遺伝的特性が継承されるためなのか。この古くて新しい論争は、未だに明確な定説がない。

▼深く突っ込めば突っ込むほど、人権に深く関わってくる問題だけに、取り扱いは非常に注意を要するテーマだ。

▼一番この二つの対立論争が激しいのは、かつて犯罪学においてだった。今では、どちらかというと誰もこの分野に言及したがらない。敬遠されているのだ。一方、大変な物議を醸しているのは、ご存知病理学や、薬学・バイオ研究などである。

▼もともとこの環境決定論と、遺伝子継承説は、犯罪学においてイタリアのチェザーレ・ロンブローゾが、犯罪者の形質というものに共通点があるという仮説を立証しようとしたことで、欧州で大論争を巻き起こした経緯がある。

▼ロンブローゾは、処刑された人間の頭骨を383体を解剖分析し、さまざまな生きた人間の形質とあわせて、骨相や顔相などに犯罪者の共通点があることを仮説し、犯罪者は生来犯罪者になるべくその遺伝的形質が継承されるとした。

▼ロンブローゾによって、当初主にイタリアで広まったこの遺伝子継承説に対して、猛然と反駁したのは、フランスを中心とした環境決定論である。

▼ヒラメのような顔の非対称性と犯罪者の顔相の非対称性の関連付けといった、かなり無理な(本人は大真面目だったかもしれないが)ロジックは、さすがに批判も多く、けっきょくロンブローゾの説は、今では擬似科学として片付けられており、現在ではほとんどかいまみられていない。

▼ロンブローゾ自身、もともと彼の仮説によれば、遺伝子継承的な形質の有無によって、犯罪者になる確率は70%としていたのが、後に30-40%に下方修正している。

▼しかし、その後世の中は、社会主義・共産主義の世界的な流行と歩を同じくして、環境決定論が社会学の主流となっていった。環境こそが、人間を変えてしまうのだ、ということだ。

▼その牙城が、もろくも揺らいでしまったのは、遺伝子の形質が継承されることによる病理の継承という大問題である。俗に言う、「ガンの家系にはガンが多い」という俗説が、単なる俗説ではなく、十分に蓋然性のあるものだということが、DNAの発見によって明らかになってきてしまったのだ。

▼実は、DNA(デオキシリボ核酸)は、1869年にスイスのフリードリッヒ・ミッヒャーが発見していた。が、これはその役割を、細胞内におけるリンの貯蔵と考えていた。その後、さまざまな研究と論争の結果、1952年、ADハーシーとMチェイスによって、DNAが遺伝物質であることが決定的になった。Jワトソンとチェイスが、DNAの二重螺旋(らせん)構造を明らかにしたのは、その翌年である。

▼こうなると、単純に環境が決定する、箱を変えれば人間も変わるという単純なものではなくなってくる。その結果、見たくもない、知りたくもない自分の遺伝的形質というものを、現代のわれわれは否応でも直視しなければならなくなった。

▼ 「蛙の子は蛙」なのか。それとも「鳶が鷹を生んだ」なのか。いずれにしろ、教育という分野は、この遺伝という効果を危険視して触りたがらない。ひたすら環境決定論一本槍で(少なくとも日本では)走り続けてきている。その結果が、「ゆとり教育」であり、その反動としての「土曜日登校の復活」だったり、右に左に大揺れを繰り返す試行錯誤を繰り返しているのだ。

▼今この両論の、相譲らない激論に、ひとつの道筋をつけようとしている試みがある。双子の行動原理を徹底的に、そして緻密に研究している慶応大学のチームによると、どうも双子の場合、同じ遺伝子が継承されているにもかかわらず、二人の環境を違えてしまうと、一方にはその遺伝的特性が発生してみたり、もう一方には発生しなかったりするというのだ。

▼つまり、遺伝子か環境かという、二者択一の世界ではなく、どうやら遺伝子は潜在し続けるが、環境によってそれが発現したり、潜伏したりするという仮説がでてきている。圧倒的に、遺伝子決定論が強いとはいえ、環境変化によってはそれが発動したり、発動しなかったりするわけで、結論としては遺伝子と環境の交互作用ということを受け入れざるを得ない。

▼教育という場においても、実はそこまで踏み込んだ固体と全体のバランス、固体の特性の吟味などをしなければならなくなってきている。これは今の教育現場の教師たちに負わせるには、あまりにも酷なほどだろう。いずれにしろ、遺伝子という燃料を起爆させるトリガー(引き金)になるのは、けっきょくのところ環境だという結論にでもなるだろうか。

増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄




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