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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第347回・ライフサイエンス。

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【閑話休題】第347回・ライフサイエンス。

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2015-02-06 15:07:00]

【閑話休題】第347回・ライフサイエンス。

▼もう20年前の話だが、米国株を専門に分析していた証券会社勤めのころ、化学大手のデュポンが、とんでもないことを研究していると知った。

▼デュポンというのは、なかなか日本では一般的に知られていないが(ライターなどのデュポンとは違う)、米国では大変な財閥だ。

▼もともとは、「エミグレ(フランス革命のときにアメリカに亡命してきた人たち)」によって創業された。その一人の名を取って、デュポンというが、米国では英語式に、デュポントと発音している。

▼1860年代の南北戦争で、優秀な黒色火薬を開発し、巨利を得、その後延々とアメリカの戦争に火薬と爆弾、果てはプルトニウムの生産で関わってきた会社である。

▼20世紀に入っては、ナイロンの発明が画期的であったが、フライパンなどのテフロン化工を生み出した会社としても知られる。

▼そんなデュポンが、蜘蛛の糸から、鉄の何倍もの強度を持ち、絹より遥かに柔軟にして滑らかな繊維を作ろうとしているとか。ゴキブリの遺伝子から、「それ」を注入すれば、りんごが半年、常温でまったく変わらない状態で維持できないか試みているとか。・・・・

▼まったく馬鹿馬鹿しいと思ったのもわずかな期間で、その後この種の技術は日進月歩となっていき、今では再生医療が現実に行われ始めているくらいだから、まったくの与太話ともいえなくなってきている。

▼この「とんでもない発想や着眼」というものが、次の「とんでもない時代」を生むのだろう。その多くに、実際の生物の特徴から、科学技術に応用しようとする試みが大真面目に行われている。

▼デュポンの例は、明らかに生物固体から、遺伝子の類を抽出して利用しようということだから、完全にライフサイエンスということになる。バイオだ。

▼バイオの世界になると、実際問題、一体どこまで「恐ろしい現実」が行われているのか、わかったものではない。科学者というのは、世界のため、人間の利副のためにというよりも、個人的な技術革新の野望に突き動かされて研究開発しているというのが、普通だ。また、それを悪いともいえない。一線を越える欲望に、つねに悩まされるのが科学者の宿命といってもいい。

▼ただ、誰も一般にはうかがいしれないところで、半人的なもの(明らかに生命を持っている、ヒトのような存在)が試験的に「製造」され、夥しい数の「不良品」として、「生体実験」の末に、ゴミのように焼却処分されていっている数が、何百、何千体もあったとしたら、正直おぞましい限りだ。羊のドリーができたのだ。人間「のようなもの」が、すでにいくらでも「製造」されては、「処分」されていてもなにも不思議ではなかろう。

▼そういった人間の倫理に抵触する可能性が高い、ぎりぎりの研究開発ではなく、あくまで生物界の素晴らしい原理を、応用しようという試みも数多くなされている。

▼以前、日経新聞にも整理して区分けされていたので、それをそのまま引用してみれば、ざっとこんな具合だ。

▼省エネというカテゴリーでは、たとえば、空を飛翔しながら、水中に飛び込むカワセミのくちばしの原理をもとに、新幹線の空気抵抗を抑え、消費電力を削減する効果を生もうというような研究がそれだ。あるいは、マグロの体の表面の「ぬめり」が水の抵抗を減らすことから、船舶用の塗料を「ぬめり」に似せて燃費向上をさせるとか。鳥のきわめて軽量な骨に着目して、飛行機の軽量化と燃費向上をはかる。あるいはまた、外気よりも驚くほど温度が低い、シロアリの蟻塚の原理を応用して、効率的なビル空調システムをつくろう、といったようなものだ。

▼新素材の分野ではこうだ。たとえば、蛾(が)の目の微細構造から、光を反射せずに、水をはじくフィルムを作る。ヤモリの足裏の細かい繊毛に注目し、強力な接着テープをつくろう、とか。水流に逆らわない鮫(さめ)の肌の原理から、新たな水着をつくったり。

▼カタツムリの殻というのは、細かい溝があり、これが汚れがつきにくくしているらしい。これを使って、雨水で汚れが自動的に落ちる外壁をつくろうとしている会社もあるそうだ。

▼面白い発想はまだある。フナ虫が、その脚で水を吸い上げる原理を利用して、動力のいらないポンプを作ろうとしているというのもある。

▼なにもハードウェアだけではない。よりソフトな世界でも、こうした生物界の原理の応用は研究されている。たとえば、魚群の一糸乱れぬ遊泳原理から、自動運転者の渋滞緩和をどう実現させるか、といったようなテーマ。あるいは、ミツバチの集団行動をもとに、小型ロボットを連携させて、災害現場の捜索をさせようとする実験などもそうだ。

▼考えてみれば、人間は、そのほかの生物からいろんなものを得て、学び、そして利用してきた。

▼もともと人間は、起源を水中にもとめることができる。実際、その頃にはエラがあったともいう。楳図かずおの「半魚人」みたいなものだ。たとえば、鮫などの軟骨魚類の体表には、エラ穴がある。進化の過程で陸上生活になると、これらは不要となった。すると、エラ蓋(ふた)がはずれて切れ込みができ、そこに鼓膜が張った。これが人間の耳の起源だ。

▼ということは、逆に「戻ること」もできるのだろうか。たとえば、肺呼吸とは別に、水中生活に慣れていけば、水陸両用で、まったく呼吸が自由な生物体ということも、ありうるのだろうか。

▼こうした「とんでも話」は、言うだけ番長であるから、罪が無い。しかも、とてつもなく面白い。そもそも、人間が鳥のように空を飛ぶなどということは、およそ想像もできなかったはずだから、実際腰が抜けそうなことが実現したっておかしくない。わたしが生きている間に、一体どのくらいの「腰が抜けそうな発明」を経験できるだろうか。インターネットということだけでも、正直腰が抜けそうな技術革新だが、まだ足りない。もっとわたしは、貪欲にその新しい時代を知りたい。

▼しかし、さすがにどんどんこのバイオ技術が突き進んでいる現状に、及び腰になる自分もいる。たとえば、米国マサチューセッツ州のアクアバウンティ・テクノロジー社が開発した遺伝子組み換えサケ(鮭)。正式名称は「アクアアドバンテージ・サーモン」だ。危険性を指摘する人々からは、「ミュータントサーモン」「フランケンフィッシュ」などと呼ばれている。

▼アトランティックサーモンに、キングサーモンの遺伝子を加えることにより誕生した。通常のサケと比べて、体長は2倍、重さは8倍になるという。さらに2倍のスピードで成長するというから驚きだ。

▼米国食品医薬品局(FDA)は、食用として安全で、環境への影響もないと評価しており、近く承認されれば市場への流通が開始する見込みだ。さらにカナダ政府は、この「遺伝子組み換えサケ」の卵をパナマへ輸出することを認可したという。本当に大丈夫なのか、と思ってしまうが。

▼さらに、もっと凄いのが、中国農業大学の李寧教授たちは、受精した牛の卵細胞にヒトの遺伝子を植えつけることにより、ヒトの母乳に極めて近い成分のミルクを出す牛を誕生させた。2011年の発表時点で、この牛は300頭程度が飼育中だと伝えられている。

▼またほぼ同時期に、アルゼンチンの国立農業先端技術研究所(Inta)と国立サンマルティン大学(USAM)も、同様の牛の開発に成功したと発表。「ロシータISA」という名のこの牛は、通常の2倍の体重を持って生まれてきたという。

▼これらの「遺伝子組み換え牛」から絞り出したミルクは、ヒトの母乳に含まれるリゾチウムやα-ラクトアルブミンという栄養成分を持っており、開発者たちは揃って安全性を強調している。発表時、中国の研究チームは「10年以内の商品化を目指す」と語っているそうな。

▼おいおい、本当に大丈夫なのか、とつい口からついて出てしまいそうだ。なんだか、背中が薄ら寒いものを感じるのだ。だいたいからして、ほかの哺乳動物の乳を飲むのは、人間だけなのだ。それがそもそもおかしいのに、その牛をまた作り変えるわけだ。どうもわたしなどは、こういう動きには生理的に抵抗を感じる。開発の渦中にある科学者たちは、どうなのだろうか。年なのだろうか、どうも進歩というものに、だんだんついていけなくなってきている自分がいる。

増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄


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