【閑話休題】
[記事配信時刻:2015-10-09 16:32:00]
【閑話休題】第386回・投資と賭博
▼10月である。旧名、神無月といって、全国の神様が出雲に集まるので、神社には御神体がお留守になるという。ということは、10月に神社におまいりしても意味がない、ということになるが、そうなのだろうか。
▼これは語源俗解といい、間違いである。そもそもこの説を言い始めたのは、中世以降の後付で、出雲大社の御師が広めたところから始まる。
▼国津系(出雲)と天津系(伊勢)の確執から、劣勢な出雲系が挽回の一策として打ち出したものかもしれない。出雲では逆に、10月を神在月(かみありづき)と称している。
▼もしかすると、確かに出雲系の神々を祭っているところ、たとえば、八坂神社や諏訪大社のようなところは、ほんとうに出雲に行ってしまわれているのかもしれない。が、その諏訪大社では、逆に神無月にも諏訪には神様がいらっしゃると言っている。なんだかよくわからない。
▼たとえば、稲荷などどうなるのか。稲荷は、宇迦御魂(うかのみたま)と豊受(とようけ)と、二つが主祭神だが、宇迦御魂は国津系(出雲)であり、豊受は天津系(伊勢)である。しかもこれらは同体同一であるとされている。分身であり、神無月には宇迦御だけが、出雲に赴くということになるのだろうか。
▼では、大宰府中心に全国にある天神はどうなるか。ご存知菅原道真を祖とする怨霊、祟り神である。出雲でも伊勢でもない。神田明神(平将門)もそうだ。また稲荷とその神社数では双璧をなす八幡はどうなるのだろうか。これもどちらとも言えない。
▼そもそも、神無月とは、どうも「神の月」が、「神な月」と言い習わされていったようなのだ。祝詞にも「神ながら(かんながら)・・・」という言葉があるが、同じである。「の」という意味だ。「無い」という意味ではないようだ。とすると、出雲大社の御師が言い始めた「神無月」というのは、やはり出雲大社側の政治的意図によってつくりあげられたお話ということになりそうだ。
▼実際、水無月(みなづき)という呼称がある。旧暦の6月のことだ。文字通り梅雨の季節である。水は世の中にたっぷりある季節にもかかわらず、水無月とはこれいかに。つまりこれも「水の月」という言葉がなまっていったと推測されるわけだ。
▼ということで、わたしの中での結論は、神無月にはどこの神社にも神様はいらっしゃるので、10月に神社におまいりすることは、特段意味がないということでは無い。
▼ちなみに、この語源俗解によって「神無月」には神様がお留守であるという伝承は、とくに関東などで、「神様が留守では困る」ということから、恵比寿を留守番にあてさせて、10月に「恵比寿講」が行われるようになったケースが非常に多い。
▼だいたいからして、神霊には時空などというものは関係ない。同時多発的に彼らは行動する。10月・神無月でも、これでどんどん神社にお参りすることができるというものだ。
▼どうも投資という世界にいると、この神頼みをついついしてしまう。これも人情だ。日ごろ、具体的にお願いすることを避けているつもりだが、あちらはこちらの存念など、とうにお見通し。無心に感謝するというのは、禅と同じでなかなか難しいものだ。
▼しかし、投資というものは、一見運のようでいて、また神様のご加護のようでいて(ご利益、ごりやく)、実は投資の行動原理そのものは、運や神頼みとはまったく無関係である。
▼また、偶然の産物でもない。ともすると、相場や市場の動きはランダム(でたらめ)であることから、なにをどうやっても、なるようにしかならない、と思っている人も多いだろう。
▼しかし、違うのだ。投資はやはりロジック(理詰め)の世界なのである。もちろん結果は、どうなるか不透明なのだが、それでも投資という行動には、明らかに理論がある。だから、プロの投資家というものがいるとすれば、彼らはけして賭博をしないし、神頼みもしない。運のせいにもしない。
▼マネックス証券の広木隆チーフ・ストラテジストが、面白いことを書いていた。いわく、
「サマージャンボ宝くじの1等賞金5億円が当たる確率は1000万分の1だから期待値500円。一番下の5等300円は10本に1本当たる。期待値は30円である。1等から5等まですべて期待値を合計すると約145円。宝くじは145円の期待値のものを300円払って買う。1枚買うごとに155円損する勘定だ。
プロのトレーダーなら絶対このような賭けにおカネを投じない。カジノで稼ぐプロのギャンブラーも同じである。彼らがやっていることは基本的に同じである。それは、期待値がプラスのものに賭けるのだ。正確には、投じた資金を上回る期待値、すなわちプラスのリターンが期待できるものに賭け続けるのである。」
▼言い得て妙とはこのことだ。では、一体投資で言う期待値とはなんだろうか? 考えるに、これは突き詰めて言えば、「ゆがみの修正」ということだろうと思っている。
▼自然界というものは、エントロピーの原則が敷衍(ふえん)している。エントロピーというのは、「混合の度合い」のことだが、簡単に言えば、コーヒーにミルクを垂らすと、最初は分離しているが、時間の経過とともに(ここが重要である)、区別がなくなっていく。エントロピーが効かないものとしては、たとえば水と油」がそうであろう。永遠に分離したままだ。
▼水と油のように、物質的な特性(比重の違いなど)で、混合しないケースはいたしかたない。大気圏と宇宙空間の真空状態の分離もそうだろう。しかし、自然界では例外はあるものの、たいていはこのエントロピーの原則が効く。
▼屁(おなら)もそうだ。見えないものだから、これは大変である。もし、エントロピーが効かないとしたら、延々と見えない臭気は固まったまま浮遊しており、運悪くそれに出食わしてしまったら最後、いきなりわれわれはみな悶絶しなければならなくなる。エントロピーのおかげで、空気中に拡散し、薄まり、結果事なきを得ているのだ。
▼これを投資の世界に当てはめると、要するに「ゆがみは必ず修正される」ということだ。ここに、勝機がある。投資が、広木氏の言うように、もし「期待値の高いものに賭け続ける」ことだとすれば、この「ゆがみの大きなものに」投資し続けることが、勝機を掴むことにほかならない。
▼この「ゆがみ」は、たとえば、ファンダメンタルズである。利益成長率予想が高いにもかかわらず、株価にそれが反映されていないということ。需給でもそうだ。売り越しが限界にまで達したら、これは手仕舞われなければ終わらないということ。テクニカルでもそうである。移動平均線は、上昇の限界に達すれば、かならず下降の限界まで振り子のように揺り戻されるということだ。
▼こうした株価の価値を決める、ファンダメンタルズ、需給、テクニカルの三要素のそれぞれで、いわゆるギャップ(乖離)が大きくなったものを、攻めるというのが、投資理論ということになる。必ず、行過ぎたものは修正されるのだから、そのゆがみの修正が行われるまで、徹底的に攻め続けるということだ。
▼だから、時間の経過がとても重要である。株価の価値を決定する四つ目の、(忘れられがちな)要素とは、まさにこの「時間の経過(時間論)」なのである。つまり、平たい言い方をすれば、「日柄」である。
▼時間を友にする投資家は、従って、勝利の確率が高い。だから、わたしは人それぞれ、言い分はあるだろうが、短期やデイトレードというものを、投資とは考えていない。賭博(投機)だ、というのはこのためである。投資である以上は、あくまで「勝てる期待値に賭け続け」なければならない。それは、短時間では判明しないことなのだ。ギャップが修正されるのには、それなりに時間の経過がどうしても必要だからだ(もちろん、一気にギャップが埋まるということもあるが)。
▼ちなみに、このギャップ(ゆがみの修正といってもよい)に着目する投資スタンスこそ、ファンダメンタルズ分析と呼ばれるものである。フェアバリュー(理論株価、合理的株価)という仮説を立てて、それに対して株価がプラスのギャップ(買われすぎ)なのか、マイナスのギャップ(売られすぎ)なのか、という判断をするのだ。
▼しかし、需給に関しても、またテクニカルに関しても、突き詰めれば、このギャップの判断と言ってもいいのかもしれない。
▼どうだろうか。将来、一体なにが起こるかわからないという前提においては、賭博(ギャンブル)も、投資も同じなのだが、それに対する行動原理においては、賭博と投資はまったく異なる。同じだという人は、こういうことがわからない人だ。
▼ちなみにわたしは、賭博は一切やらない。勝てるかどうかわからないものに、賭けるつもりが毛頭ないからだ。戦(いくさ)は、勝てると思わなければやるものではない。わたしは、運や偶然や賭博で、勝てるとは思えない。とはいえ、神頼みはときにしてしまう。そこがわたしの情けないところ。
▼さて、神無月、10月である。米国では「ハロウィンに買え」という俗説がある。俗説だが、明らかに経験則からきた投資理論である。ファンドの損益通算期限の中心値が10月だからだ。下がったときに、そのギャップの修正をねらって買うというのは、きわめて合理的である。
▼「ゆがみは必ず修正される」ということを信じられない人は、トレンドの下降が今後も延々と続き、企業収益がどんどん悪化を続け、需給は売り手一方が増大し続けるとしか考えられないだろう。この人たちには、買いタイミングは、ずっと遅くなって、株価が相当上がってからでなければやってこないだろし、リターンはずっと小さいものになるだろう。
▼「ゆがみの修正」が始まったかどうかは、変化が起こったかどうかでわかる。それが、いつも日ごろからレポートで執拗にチェックして解説している、各種の「定点観測項目」なのだ。
増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄
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