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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第77回・蝶の話

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【閑話休題】第77回・蝶の話

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-06-21 17:30:00]

【閑話休題】第77回・蝶の話


▼若い頃、勤めている会社の出張で、ボルネオに行ったことがある。ボルネオは南北に分かれていて、北がマレーシア領のサバ州とサラワク州。南がインドネシア領でカリマンタン地区と呼ぶ。熱帯。まさに赤道直下だ。海岸にへばりつく諸都市、シブ、ミリ、コタ・キナバル、サンダカン、サマリンダなどから、河沿いに奥地のダム現場や資源開発基地に出入りしていた。休みのときにも、香港から近いこともあって、よくコタ・キナバルにある唯一のビーチリゾート
へ遊びに行ったりもした。

▼いつもボルネオに行くときには、どういうわけか心が躍った。蝶を見たい、と思ったのだ。何しろ熱帯である。花も蝶も、その身を絢爛豪華に飾りつけているだろうと期待していたのだ。ところが、初めて行ったとき驚いた。実に熱
帯の風景というのはつつましい。息がつまるような湿気や、昼間でも真っ暗に
思えるほど濃い緑の熱帯雨林は確かにその通りなのだが、どぎつい色の花と
いう花があちこちに咲き乱れているなどという光景は、まずない。

▼あちらに一つ、こちらに一つ、ぽつぽつと散らばって咲いている程度だ。花自体も、原色さながらというのはあるにはあるのだが、総じて小さく、あまり自己主張しないような咲き方をしている。蘭は熱帯の原産だが、私たちが花屋さんで見る蘭と違って、原産の蘭は実に小さな、謙虚な花だ。蝶のほうはどうだろうか。これもスラウェシ島の蝶の谷(行ったことはないが)のような、乱
舞する様子を見ることはまずない。

▼レンタカーでコタ・キナバルの国立公園に寄ったときのことだ。一人の日本人男性に会った。50代の高校教師で、夏休みになるとボルネオにやってきて、蝶を探しているということだった。家族からは粗大ゴミと呼ばれていると笑っていた。園内の宿舎に泊り込み、自炊しながらの生活。台湾、アマゾンと並んで、ボルネオからニューギニアあたりは、大変な蝶の産地らしいが、ボルネオ
の蝶の図鑑はまだなかった。高校教師の彼は、それをつくっていたの
だ。一週間滞在すれば、一つや二つは新種が見つかると話していた。

▼その彼が蝶について、面白いことを話してくれた。ジャコウアゲハの仲間はウマノスズクサの仲間を食草としている。アルカロイドなど毒性のある植物の成分を体内に蓄えておくことで、鳥などの天敵から身を守っている。毒を持っていることをアピールするために、蝶の多くは体や翅(はね)に赤や黄の警戒
色をほどこしているのだという。

▼このジャコウアゲハ科の中の、トリバネアゲハ(BirdWing)には、世界最大の美蝶がいる。ゴライアス・トリバネアゲハやアレキサンドラ・トリバネアゲハがそれだ。前者は旧約聖書に登場する巨人、ゴリアテからの命名。また、後者はアレクサンドラ・英国王妃への献名で、命名したのは英国ロスチャイルド家の第3代当主・ウォルター・ロスチャイルドだという。翼長は最大28センチメートルにもなり、メタリックブルーの美しい色彩をしている。日中に活動し、
ハイビスカスの花を吸蜜(きゅうみつ)する。幼虫は体長が12cm以上にもなる巨大なイモムシだ。

▼トリバネアゲハは世界一の蝶だけあって人気が高く、そのために乱獲され、現在はワシントン条約によって取引が禁止されている。現地でも悪質なコレクターによる採集や、現地人による密猟が問題となっていた。最大の危機要因は生息地の乱開発だ。生息地の熱帯雨林の伐採、食草と生活場所を奪われたことが激減に拍車をかけた。保護対策は行なわれておらず、このまま森林破壊が続くと数十年以内の絶滅が懸念されると言われていたが、今はどうだろうか。な
にしろ当時、一匹つかまえると200万円から300万万円という高値で取引されるというのだ。

▼蝶は色を感じるらしい。彼の経験からすると緑のネットには、アゲハが寄ってくるそうだ。青のネットには岐阜蝶が寄ってきたという。理由はわからないが、少なくとも色は感知しているらしい。全世界で2万種と言われる蝶だが、なぜか最初の蝶の話は聞かない。蝶の誕生は1億~2億年前とのことだが、なんとも美しい造形を自然は生み出してくれたものだ。亡くなった人が、蝶に乗り
移ってやってくるという話は、不思議とどこの国にもある。

▼わたしがボルネオに行っていたのは、1980年代だ。その後、1997年にボルネオのカリマンタン地区では大火災が起こり、森林が大量に消失した。それに合わせて蝶も激減した。私がコタ・キナバルで会った高校教師は、その後、図鑑を完成させることができたろうか。聞けば、今では蝶を多く見ることができる
のは、国立公園内や森林地帯の限られた場所だという。

▼ボルネオの蝶の図鑑。その人の名前も聞かなかったから、音信不通のままである。しかし、人によってはこういう夢もあるのだ。いったい、この深い密林の中で、どうやって蝶を捕るのかと聞いたら、彼は笑ってこう答えた。「昔から
言われている鉄則です。蝶は追うべからず。ひたすら待つべし」。

増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄



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