忍者ブログ

増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第97回・イエロー・ジャーナリズム

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

【閑話休題】第97回・イエロー・ジャーナリズム

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-07-22 17:30:00]

【閑話休題】第97回・イエロー・ジャーナリズム


▼メディアは恐るべき第四の権力であると呼ばれて久しい。愚劣な批判も含めて、批判という批判の存在は重要だ。国家がその自浄作用を維持するために不可欠の存在が、メディアというものだろう。ただ、その資質や品格を問われるような場合も多々ある。

▼アメリカでは、かつてイエロー・ジャーナリズムというものが吹き荒れたときがある。そもそもこの言葉は、1890年代に、ジョーゼフ・ピューリツァー発行の『ニューヨーク・ワールド』紙とウィリアム・ランドルフ・ハースト発行の『ニューヨーク・ジャーナル・アメリカン』紙が、『イエロー・キッド』という漫画を奪い合って掲載させた事に由来する。両紙ともにイエロー・ペーパーと呼ばれた。ちなみに、新聞の色刷りを初めてやったのはピューリツァーである。

▼さて、ときは20世紀に入ったばかりの頃、米西戦争直前である。ピューリツァーとハーストは、購読数を競って激しい争奪戦を繰り広げる。先述の「イエロー・キッド」という漫画の取り合いは、その前哨戦に過ぎなかった。お互いに、ごっそり相手の従業員の引き抜きをしたり、あまりにも通俗的、扇情的な記事を誇張し、ときに捏造しと、とにかく勝つために、あらゆる滅茶苦茶な応酬を繰り返したのだ。とくにピューリツァーの手段を選ばないその報道ぶりは、「信仰を捨てたユダヤ人」と非難されたりもした。

▼そしてこのイエロー・ジャーナリズムの暴走が、戦争を引き起こす世紀の謀略事件へと発展していった。当時、フロリダ半島沖のキューバは、スペインの植民地で、独立運動が始まっていた。同じくスペインの植民地だったフィリピンも同じだ。そしてアメリカは、南北戦争のおかげで、植民地獲得に遅れをとっており、さまざまな権益の拡大に意欲的な財界などから、政府は突き上げを食っていた。帝国主義の時代である。

▼ピューリツァーとハーストの戦いは、ここで熾烈なものとなった。ここをチャンスとばかりに、スペイン打倒の記事が両紙の紙面で炸裂していく。「To Hell with Spain!(くたばれスペイン!)」という報道が連日のように行なわれた。キューバ在住の米国籍女性がスペイン兵によって全裸にされたなどという、でっちあげ事件をあいついで「スクープ」。好戦的で激情的なスローガンを伴った報道は、米国の世論を最高潮に刺激していった。

▼だが、スペインは非常に慎重で、アメリカの軍事介入を恐れた。キューバやフィリピンで、独立運動家を一斉に検挙、処刑する一方で、自治権を逐次認めていくなど植民地経営に政策の転換を示し始めた。硬軟両用で現状維持をねらったのだ。アメリカもおいそれと口実がつくれないうちに、いたずらに日が過ぎていった。いらだったのはピューリツァーとハーストである。有名な話だが、ピューリツァーのところに、キューバに特派した報道記者からの電報が届いた。
「当地は、いたって平穏」。この電報に激怒したピューリツァーは、すぐに返電する。「君はとにかく記事を書け。私は戦争をつくる」。

▼その後、メイン号事件が勃発した。1898年2月15日、キューバのハバナ湾に停泊中だったアメリカ海軍の戦艦メイン号が爆発、沈没。266名の乗員が死亡したのだ。この中には8名の日本人コックとボーイが含まれていた。原因はいまだに不明だが、定説となっているのは石炭貯蔵庫の自然発火というものだ。爆発の原因に関する証拠とされたものは、矛盾が多く決定的なものがない。ここには、ピューリツァーを始め、財界や軍、政界など含め、開戦の口実をつくるための、大掛かりな謀略があったともされているが、確証は得られていない。

▼思い返せば、その後の太平洋戦争の真珠湾攻撃、ベトナム戦争のトンキン湾事件と、相手を挑発して戦争に持ち込むか、さもなければ、相手が先に手を出したと捏造(ねつぞう)して戦争に持ち込むか、という謀略にかけては、見事な手腕を発揮するのがこのアメリカという国だ。ピューリツァーを含め、米国人の多くがこのメイン号事件にかかわっていたとしても、誰も驚かないだろう。

▼やがて、「スペイン側の謀略によって爆沈させられた」という「お話」が世論を席巻するようになり、一気に「スペイン討つべし!」という主戦論に傾斜した。米西戦争はアメリカの圧勝に終わり、スペインはキューバ、フィリピン、プエルトリコ、グアム・サイパンなどを手放し、アメリカがこれを引き継ぐ格好となった。名実ともに、アメリカも帝国主義のラリーに参戦していくこととなった。次の大きな目標は、中国という膨大な、そして腐り切った体制が残る大市場である。

▼こうしたイエロー・ジャーナリズムは、現在でも恒常的に発生するリスクが潜在している。自由と放埓(ほうらつ)の差は微妙である。メディアは正義を口にするが、正義くらいあてにならないものはない。100人いれば100人の正義があるからだ。事実の報道を掲げながら、そこには一定の思想や意図があるのは否定できない。事実といってもそこに誇張や捏造、不都合な真実は隠蔽(いんぺい)するという不作為の犯意というものもある。

▼私の実家では、かつて産経新聞と赤旗を両方購読していた時期がある。よく父親が、私を呼んだ。二つの新聞が同じ事件を扱った記事を、読み比べてみろと言われたものだ。右と左、いかに一つの事実がまったく違う論評になってしまうかを見せたかったのだろう。本人は、かなり右寄りの人間であったが、それだけに赤旗をとっていたのは面白い。

増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄



日刊チャート新聞のコンテンツは増田足のパソコン用ソフト、モバイル用アプリから閲覧可能です。

15日間無料お試しはこちらから
https://secure.masudaasi.com/landing/pre.html?mode=cs
PR

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。