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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第512回・蘇る記憶

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【閑話休題】第512回・蘇る記憶

【閑話休題】

[記事配信時刻:2018-03-09 15:45:00]

【閑話休題】第512回・蘇る記憶

▼誰しも一度や二度は、「ここへ来たことがある」と思う機会に遭遇するという。わたしはまだ明確な「それ」を経験したことはないが、それに似たようなことは多少あったように思う。

▼いわゆるデジャヴ(既視感)と呼ばれるものだ。思い過ごしのことがほとんどだ。ただわずかに本当であるというケースも実際に存在するらしい。それは、前世の記憶だと仮説されている。本当なのだろうか。

▼スウェーデンの神学者スウェデンボルグが、この輪廻転生のことを説いた、西洋での初めての人間だろう。彼自身が、それを知っていたようだ。輪廻転生という概念そのものがなかった欧州文明において、キリスト教の神学者がこうしたことを説いたのだから、驚くべきことだ。

▼アジアではインドのブッダがこれをはるか昔に唱えていた。それは、繰り返される人間の業(ごう)そのものであり、この永遠に繰り返される呪縛のような宿命から、解き放たれよう、そう説いた。それを彼は解脱と呼んだ。

▼この平たく言えば「生まれ変わり」だが、キリスト教や、ユダヤ教、イスラム教を除けば、ほぼ世界中の原始宗教で当然の公理のように信じられてきた。現在はどうだろうか。

▼その実例は、事実と認められるような例は、世界でも1000を超える事例がある。以前、このテーマを書いたことが一度あるが、そこでも触れたように、わたしの大学では、必須講座に宗教学があり、そこでアメリカのボストン大学で出版された参考書を教材に使ったことがある。

▼「Life After Life(人生の後の人生)」というタイトルだったはずだが、詳細は覚えていない。心理学科の参考書だったように記憶しているが、これも曖昧だ。ただ、そこに書かれていたおびただしい事例は、強烈に印象として脳裏に焼き付いている。

▼戦後、アメリカの事例で最も有名な、そして常識では説明のつかないものの一つをここで紹介しておこう。「ジェイムズ・レイニンガー・ケース」だ。

(レイニンガー一家)

▼ジェイムズは、今年20歳になる。「事件」は彼が3歳のときに発生した。まず頻繁に悪夢にうなされた。幼児が、である。そしてこの「事件」は、その後8歳ごろが「発作」のピークとなり、前世の自分が死んだ現場付近を訪れたあたりから急速に減少し、13歳ごろからはほとんど無くなった。

▼3歳のとき。その「発作」が始まった。両親がなだめて、話を聞くと、とても幼児とは思えない用語をつかって、「飛行機が燃えている!」「脱出できない!」「落ちる!」などと大騒ぎをした。

▼そして彼はいつも同じような絵を描いた。絵には、空母が、戦闘機が、たくさんの人(死んでいるような人も)が、そして、驚くべきことに星条旗はおろか、ある船には、日章旗が描かれているのだ。

▼一連のジェイムズの言動から、ようするに第二次大戦中のイメージだと両親は推測した。そこで父親は何度も尋ねては、どうやら彼(ジェイムズ)が搭乗していた戦闘機が、日本軍によって撃墜された、ということらしいとわかってきた。

(ジェイムズの描いた絵の一枚)

▼父親は、たずねた。

「きみはどこで撃ち落とされたんだい?」
その回答は衝撃的である。

「チチジマ(父島)」

▼小笠原諸島だが、一連の硫黄島の戦いにおける米軍パイロットの戦死者であろう、ということになった。

▼しかし、父親は、信じなかった。母親は、すぐにこれを「リーンカーネーション(輪廻転生)」だと認識したが、父親は懐疑的だった。そういう概念自体が、彼にとっては不快であり、吐き気すら覚えるようなしろものだったからだ。敬虔なクリスチャンであればあるほど、そうかもしれない。

▼父親は、日を置きながら、なんどもジェイムズに尋ねた。

「きみが乗っていた戦闘機はなんという名前だい?」
「コルセア」
「お船から戦闘機で飛んだのかい?」
「うん」
「なんていうお船かな。名前はわかるかい?」
「ナトマ」

▼手がかりがでてきた。具体的である。そこで、父親はネットでこの二つのキー・ワードから探していった。すると、一連の硫黄島の戦いに投入された空母に、ナトマ・ベイというものがあったことが確認された。まさか、と思った。

(空母ナトマ・ベイ)

▼さらに詳しく調べると、意外な事実が出てきた。ナトマ・ベイには、一機もコルセアが搭載されていなかったのだ。息子の話は、つじつまが合わない。つまり、これはでたらめな話だと、結論づけた。おそらくジェイムズは、親が観ていた映画などで、たまたまナトマや、コルセアという単語を覚えていただけで、それが話の筋などと脈絡もなく記憶され、彼の幼稚な思考の中で、話が創造されただけにすぎない、と。

▼ある日、ジェイムズは両親にいきなり、こう告げた。

「ぼくはね、死んだんだよ。本当のママがいたんだ。」
「あなたのママは、わたしよ。」
「ちがうよ。本当のママがいたんだ。」

これは、母親にとっては、ショックだった。こういう「話」をジェイムズに刷り込んだものがいたとしたら、到底許せない。が、それをしたような可能性の人間は、周囲に一人としていなかった。

▼父親は、子供に言った。

「きみは死んだことがあるんだね。じゃあ、きみの名前はなに?」
「ジェイムズ」
「そうだ。きみはジェイムズだ。昔死んだ人じゃないんだよ。」
「違うよ。ぼくは死んだんだってば。ぼくの名前はジェイムズなんだよ。」

父親は意味がわからなかった。

▼父親は、この時点で、完全にジェイムズの話す内容は、事実ではないと結論づけていたが、母親はショックだっただけに、ますますこの「事件」の断固たる解決を望むようになった。ジェイムズが悪夢で深夜に泣きさけんだりする性癖は、次第に激しくなっていき、両親は心を痛めた。精神障害だろうかという疑念が、尽きないようになった。

▼母親も、半ば信じていなかったのだが、ジェイムスの言う話が、いかに刷り込まれたものであったとしても、とても3歳児が話す内容としては、あまりにも具体的であることがどうしても気がかりだった。彼女は夫に、「硫黄島の戦いで、空母ナトマ・ベイの乗員で戦死した人のリストを探して。」彼女は、その中に、ジェイムズの言う、「ぼくは死んだ」というその人物がいるにちがいない、とそう思ったのだ。

▼空母ナトマ・ベイ乗員者で、硫黄島の戦いで死んだ兵士は十数人だった。リストを見た二人は、一人の名前に目が釘付けとなった。

「ジェイムズ・ヒューストン」

母親は、この人物が、息子の言う「ぼくは死んだ」その人であると確信した。息子と同じ名前である。ジェイムズ・ヒューストンは、1946年3月3日、硫黄島で戦闘中、父島付近に墜落した。

▼彼女は、戦死したジェイムズ・ヒューストンの遺族を探し出した。姉がまだ高齢で存命だったのだ。そして連絡を取った。「息子が生まれ変わりらしい」などと切り出したら、電話を切られるに決まっている。そこで、第二次大戦を調べており、硫黄島のナトマ・ベイの活躍を知りたいともちかけ、戦死者を一人一人追っているのだが、ジェイムズ・ヒューストンの写真があったら送ってほしい、と頼んだのだ。姉のアンは、快諾して何枚か送ってよこした。

▼送られてきた写真を見ているうちに、衝撃を受けたのは、こんどは父親のほうだった。その中の一枚に、ジェイムズ・ヒューストンが戦闘服に身を包み、愛機に寄り添っているその戦闘機は、「コルセア」だったのである。ナトマ・ベイには、コルセアは搭載していないはずだ。

(コルセアとジェイムズ・ヒューストン)

▼父親は、ジェイムズ・ヒューストンが、ナトマ・ベイに配属される前の経歴を調べた。すると、驚くべきことに、彼がナトマ・ベイに乗艦して硫黄島の戦いに参加する前には、ずっと戦闘機コルセアの搭乗員だったことが判明したのだ。こうなると、動かしようもない事実である。3歳の息子の言っていることが、正しいということになる。

▼さらに驚くべきことに、3歳のジェイムズは、パイロット仲間のことも詳細に話始めるようになり、第二次大戦に関する本を見せると、硫黄島を指差し、「ここに飛行機が落ちた」と言うのだった。

(ジェイムズ・ヒューストン一家)

手前左が、幼いころのジェームス・ヒューストン(後の中尉)。手前右が姉のアン。

▼両親は、息子を伴い、ジェイムズ・ヒューストンの姉と面会した。姉も、ヒューストン家の人間でしか知りえない話をしたことから、ジェイムズ・レイニンガーが、ジェイムズ・ヒューストンの生まれ変わりだと確信したようだ。とくに、3歳のジェイムズが、彼女を「アニー」と呼んだからだった。彼女をそう呼んだのは、当時の家族でも、またその後の人生でも、たった一人、弟のジェイムズ・ヒューストンだけだったからだ。

▼ジェイムズ・レイニンガーは、8歳ころまで、この記憶が残った。事実の確認がなされても、まだ前世を語る「発作」や悪夢は続いた。レイニンガー家の3人は、ついに父島に訪れた。東京で花を買い、船に乗って父島まで赴き、海に献花して祈った。

▼わたしは、もしジェイムズ・レイニンガーが、ジェイムズ・ヒューストンの生まれ変わりなのだったら、祈ってもあまり意味がないと思う。なぜなら、別の時代に別の肉体に宿っているものの、二人同一人物(魂)だからだ。憑依しているわけではないのだ。

▼いずれにしろ、アメリカに戻ってからは、その父島を訪れたことがそれなりに効果を見せたのか、「発作」は減っていった。現在は、ほとんど記憶が無いそうである。

▼この案件は、精神科医や、前世の遺族、レイニンガー家の周囲の関係者など、あまりにも多数の人が、現実に見守ってきた事実だけに、アメリカにおける輪廻転生のケースの中でも、とりわけ異彩を放っている。

(最近のジェイムズ・レイニンガーと、出征前のジェイムズ・ヒューストン)

増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄




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