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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第116回・日本の一番長い日

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【閑話休題】第116回・日本の一番長い日

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-08-16 17:30:00]

【閑話休題】第116回・日本の一番長い日

*8月14日、15日に配信いたしました「68年目の夏」について、会員の方々から、終戦時の貴重な体験談をメールでお送りいただきました。その方々には、この場を借りまして心より御礼申し上げます。

▼1967年に公開された、東宝の白黒映画のタイトルだ。白黒だけに、そのリアル感はすさまじい。当時、私は小学校3年だったが、なぜかこれを観ていた。おそらく戦前に生まれていたら、稚心さながらの軍国少年になっていたことだろう。原作は大宅壮一になっているが、実際に書いたのは半藤一利である。昭和20年8月14日正午、御前会議でポツダム宣言受諾を決定した瞬間から、翌8月15日正午の終戦詔勅(しょうちょく)を告げる玉音放送までの24時間を描いている。

▼日本の映画の中で、私がどれを選ぶかといったら、迷わずこの一本を挙げることだろう。後に、原作のほうも読んだ。ノンフィクションだから当たり前だが、その劇的な24時間は、映画も原作も、それぞれにいわく言い難い、重苦しい迫力でわれわれに迫ってくる。

▼政府の無条件降伏を阻もうとする青年将校たちのクーデター、抵抗する森近衛師団長の惨殺、政府関係者宅を襲撃する厚木航空隊の反乱、海軍大臣と陸軍大臣との詔勅の草稿を巡るとめどもない激論、政府首脳の迷走と苦衷。反乱の中、玉音テープを守り通す宮内庁の人たち。あるいはまた、NHKアナウンサーの、玉音放送を阻止しようとする反乱将校への必死の抵抗。陸軍を代表して責任を取り、それによって反乱を抑え込もうとする阿南陸軍大臣の割腹自決、皇居前広場での青年将校たちの最期など、およそあの24時間にすべてが起こったなどと誰も想像できないような出来事が、史実に基づきドキュメンタリータッチで徹底したリアリズムのもとに進行する。

▼8月15日の未明、玉音放送まであと6時間あまりという段階で、最後の特攻隊が出撃している。本土からの特攻に限って言えば、終戦当日、茨城県百里原基地からの神風特別攻撃隊・第四御楯隊の彗星8機、千葉県木更津から第七御楯隊の流星1機によって行なわれたのが、最後の特攻である。全機未帰還。これが玉音放送前の最後の出撃であった。映画でも、そのカットが流れる(玉音放送後にも、実は軍令に反して行なわれた特攻が各地にあった)。現代の私たちにしてみれば、その日の正午には日本が降伏することを知っているだけに、いたたまれないほどの悲壮感が迫ってくる。

▼この2時間以上にわたる大作映画は、笠智衆、島田正吾、三船敏郎、山村聰、志村喬、高橋悦史、黒沢年男、若き日の加山雄三をはじめ、その他多くの名優・俳優が出演しており、さながら当時のオールスターキャストといってもいい。大日本帝国の断末魔のうめきが活写されているが、思い返すたびに、なぜ最終局面で帝国はあのように政局の大混乱をきたしたのだろうかと、疑念が沸き起こる。

▼そもそも、開戦は避けられなかったのか。8月15日が来るたびに、多くの日本人の脳裏を、このことがどうしてもよぎる。昭和天皇が、最終的に開戦を裁可した。しかし、何度か政府のこの奏上(そうじょう)を突き返している。天皇の、せめてもの抵抗であったといっていい。天皇は、旧憲法上、すべての権限を集中的に保有していたが、政府・陸海軍閣僚が全員一致で開戦を奏上した場合、天皇にはこれを拒否することは出来なかった。政府の奏上内容とは違う、別の考え方や分析、情報源というものが天皇にはなかったのだ。選択肢がないから、考え直せと突き返すのがやっとだったのである。

▼逆に終戦に際しては、陸軍と海軍の間で、徹底抗戦か即時無条件降伏か、真っ二つに意見が割れた。政府としては、まったく統一見解に達することが不能の状態に陥っていた。だから天皇は、自らの冷静で客観的な良識にもとづき、いずれかの案を選択するチャンスが訪れたのだ。開戦時には、この条件が天皇にはなかった。では、そうした制度上の問題だけだったのか。

▼たった24時間。帝国の運命を決したその24時間は、民族の存亡がかかった極限状態にあって、人間はどういう思考や行動をするものなのかを露骨に暴き出している。それぞれに理があり、それぞれに大義や正義がある。そのすべてが降伏か、徹底抗戦かという一点で激突する。その場にいたら、私たちはいったいどうしたことだろうか。

▼8月15日が、私たち日本人にとってどういう日なのか、私が御託を並べるより、「日本の一番長い日」は比較にならないほどの深い問いかけをしている。まだご覧になっていない方々、とりわけ若い世代の人たちに、一度観ていただきたい不朽の傑作であると思う。


増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄




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