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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第125回・戦争と相場

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【閑話休題】第125回・戦争と相場

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-08-29 18:00:00]

【閑話休題】第125回・戦争と相場


▼株式相場が一番嫌がるものは、不確定、不透明なことだ。悪い材料でも、それがいつなのか、どういう内容なのかということが判明すれば、おおむねその時点で株価は底を入れることが多い。不確定、不透明な状況が続いている間に、株価は下落を終えているわけだ。

▼第一次湾岸戦争( 1990年)の際、イラク軍がクエートに侵攻したときは、文字通り相場が急落した。「311大震災」( 2011年)のような天災も同様。あるいは、「911テロ事件」( 2001年)のような突発的事項は、もはや事前に避けようがない。

▼現在、シリアにおけるアサド政権の化学兵器使用疑惑について、欧米中東諸国で構成された「シリアの友人」は、アサド政権に対して強硬姿勢を示した。国連調査団はすでに8月28日の段階で、現場に向かっている。

▼現時点で言われていることは、英米仏などとりわけ強硬派が、アサド政権に対する警告の意味で、空爆、あるいはパトリオット巡航ミサイルのようなもので、10箇所程度の攻撃目標をすでに準備し終わっているということだ。

▼いつものように、中露はこうした強硬姿勢に反発している。とくにロシアは、1999年、ユーゴスラビアへの欧米の軍事介入以来、つねにこうした局面で「反対派」に回っており、ことごとく屈辱を味合わされた。今回も言葉を荒らげて、欧米を非難している。根拠は、「化学兵器使用が、アサド政権によってなされたか具体的な根拠がない」というものだ。

▼国連調査団による結果が、アサド政権によるものだと断定された場合、まだそれでもロシアが反対姿勢を維持するかどうかは分からない。また、仮に英米仏が軍事介入をしたところで、ロシアにこれといって対抗措置があるわけでもない。

▼この問題は、日々刻々と入ってくる報道を頼りに判断していくより方法がない。が、基本的に相場というものは、こうした短期決戦と想定される場合、それまでに下げきり、開戦そのもので底入れ反発するというのが従来のパターンであった。近年では、比較的長めの第二次イラク戦争でも、2003年3月18日に最後通牒が発動されてから20日の開戦までが、相場にとっては結果的に底入れのタイミングとなった。

▼当時は、2000年のITバブル崩壊後、エンロン事件、会計基準の抜本的変更、米国の急速な景気後退、「911テロ事件」と対テロ戦争のような先が読めない景気状況が続いており、ようやく前年2002年秋ごろから、株式相場は景気の底入れを模索するような動きを見せ始めていた。その動きを決定的にしたのが、2003年3月20日の、第二次イラク戦争の勃発であった。

▼果たして今回、空爆や巡航ミサイルといった飛び道具だけで事態が収拾されるかどうかは、なんとも判断のしようがない。ただ、従来の紛争と違い、反政府勢力の活動がきわめて旺盛であり、アサド政権はこれまで武力による鎮圧に失敗し続けてきたことをみると、飛び道具だけでも政権崩壊に結びつく可能性はある。

▼もし、注意しておく点があるとすれば、むしろ混乱がシリアから周辺中東諸国に及んでしまうケースである。それだけにすみやかな政権交代が行なわれる必要はあるだろう。もう一つ、懸念されることがあるとしたら、米国が民主党政権であるという点だ。

▼『閑話休題』の第23回「アメリカにハトはいない」でも書いたように、もっとも戦争が長期化、大規模化する可能性があるのは、民主党政権による軍事介入である。今回は、原油生産地の中東であるということから、米国が国益を無視して軍事介入することはないにしても、もともと理想主義的なイデオロギーが強いだけに、正直、無用な戦争にまで発展するリスクが、民主党政権の戦争にはある。

▼正義を主張するだけに、「引きどころ」を逸するリスクが高いのだ。これが、徹底した軍産共同体的発想をする共和党であれば、戦争に「利益」がないと判断した段階で、さっさと手を引くであろう。しかし、民主党はそうはいかない。

▼今回は、国連調査団派遣はあっても、国連軍として動こうとしている様子はない。まだ、「警告」にとどまるためなのだが、これが長期化する場合、米国は国連決議による地上軍派遣を伴う軍事介入に発展していくとしたら、話は厄介になる。中露は拒否権を発動するであろうし、なかなか決議がなされず、余計な疑心暗鬼の負担を市場に与えることになる。

▼今のところ、国連調査団の結果は来週前半に明らかになるとされているので、それまでは不透明感が漂うことになりそうだ。

▼さて、以上のように通りいっぺんの時事解説をしたところで、一つ「うがった見方」を紹介しておこう。なぜ、オバマ政権は唐突とも思えるほど、シリア問題に好戦的になったのだろうか。一般市民が化学兵器による被害を受けたという、いかにも民主党が憤激しそうな材料で、急速に軍事介入へ傾斜していったのは分かるにしても、やはりこういうケースでは、その裏を考えてしまう悪い癖がある。

▼答えがあるとしたら、国防予算の大幅削減だ。すでに、その方針で米国は動いている。もし、これを覆すとしたら、現実の戦争勃発以外にはない。削減の緩和、あるいは削減そのものを廃案にする、といったような目的があるとしたら、実際に戦争に関わって「需要」を具体的に示すのが手っ取り早い。とくにそれが、非人道的なものに対する攻撃であると、とりわけ正義が大好きな米国世論の受けも良い。

▼ましてや、中東全体を民主化させて、米国の生み出す価値が、自由に中東に浸透していくことを望んでいる米国のことだ。チュニジアに始まり、リビア、エジプト、そしてシリアと、軒並みドミノ現象のように内乱が続発している現在の状況は、もしかすると戦争特需をテコにした、壮大なゲームを始めているということなのかもしれない。

▼また、連銀の政策変更の時期と内容が、なかなかはっきりしない現在、これを思い切って先送りする絶好の口実は、戦時体制にしてしまうことかもしれない。連銀が市場の安定化を図るには、即時、政策変更を断行して「織り込み済み」にさせるか、ずっと先にスケジュールを延ばすか、いずれかである。目下の経済指標には軟調なものが多い。マクロ経済指標次第で判断するとコメントしていた連銀の発言と、市場の「やるならさっさとやってくれ」という要求の間で、どうにも動きが取れずにいるのが今の連銀だろう。

▼戦時体制ということになると、もともとは12月に勃発するはずであった、例の連邦債務上限問題(にわかに10月が危ないという話に前倒しとなってきている)の処理も、すんなり議会で通る可能性も出てくる。

▼なにしろ、戦時体制なのだ。非愛国的な態度くらい、米国で蔑視されることはない。きれいごとが大好きな国なのだ。考えれば考えるほど、この軍事介入の有無というものは、結構根深いものがあるかもしれない。景気が立ち上がろうとする最後の瞬間に、切り札として使われることが多いのが、この米国による「戦争開始という妙技」とも言える。今回もそれに当てはまるだろうか。

▼それでは、このチュニジアに始まる、一連の中東地域の政府転覆という事態が、もし米国の壮大なゲームの一貫であるとしたら、その最終目的地は、どこだろうか。もちろん、サウジの民主化と、イランの革命政権打倒であろう。さて、どうなるか。少なくとも、クリントン政権(民主党)時代の、ソマリアへの軍事介入のような無様な結末にだけはしてほしくないものだ。

※クリントン政権が敢行したソマリアの軍事介入は、30分で終わる予定だったが18時間を要し、しかも米軍が惨憺たる被害を出して終わった。その有様は、リドリー・スコット監督の映画『ブラックホーク・ダウン』に、強烈なリアリズムで見事に描写されている。

増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄



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