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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第126回・イスラムというモザイク

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【閑話休題】第126回・イスラムというモザイク

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-08-30 18:00:00]

【閑話休題】第126回・イスラムというモザイク

▼相場の格言に、「近い戦争は売り、遠い戦争は買い」というのがある。中東における戦争は、日本にとって近いのだろうか、遠いのだろうか。第二次湾岸戦争の場合は、「遠い戦争」だったようだ。今回は昨日に引き続き、中東情勢がキナ臭いこともあり、当コラムには珍しい時事的な話を書こうと思う。

▼現在紛争中のシリアは、2011年から事実上の内戦状態が続いている。その要因は、1962年以来の非常事態法の下で、長期的な独裁政権・アサド一族に対する、反政府的な運動が中心軸となっている。事実上の憲法停止状態がずっと続いているのだ。が、単純な国内紛争とは言えない。国外勢力も入り込み、イスラムの宗派対立も絡んでいるのだ。

▼アサド一族は、少数派のシーア派に近いアラウィ派だが(シーア派の分派と呼ぶ人もいる)、人口の圧倒的多数はスンナ派(スンニ派とも言う)である。シーア派(+アラウィ派)VSアサド一族によるスンナ派という対立構造がまずある。

▼反政府勢力が多いスンナ派と同じ系統は、周辺国の場合、どこがそうなのだろうか。たとえば、サウジ、バーレーン、カタールといった産油国はスンナ派だ。基本的には、「自称」正統派、ということになっており、大部分の中東諸国がこのスンナ派ということになっている。

▼イラクは微妙だが、シーア派が65%、スンナ派が35%。ちなみに、処刑されたサダム・フセインはスンナ派だった。少数派のスンナ派政権が、長期独裁を行なっていたわけだ。ただし、シーアだからスンナだからといって、反欧米であるということでもない。多国籍軍は、サウジとは違うシーア派を救う形で、イラクに侵攻したのだ。

▼ただ今回は、サウジを盟主とする「正統派」のスンナ派を救うためにシリアに軍事介入しようとしているから、まだ分かりやすいとは言える。しかも、アサド政権はやはりシーア派のイランと通じている。ここが最大のポイントになる。

▼問題を一段と複雑にしているのは、アルカイダが反政府勢力を支持していることだ。米国としては、中東の民主化を推進するには反政府勢力を支持したいところなのだが、それではアルカイダと同じ船に乗ることになる。そのため、及び腰だった。アルカイダはもともとアサド政権と犬猿の仲であったが、それでは敵の敵は味方になるかというと、米国VSアルカイダという(表向きの)対立関係から言えば、そう簡単ではない。

▼サウジ、トルコなどは、イランに近いシリアのアサド政権を追い詰めたいのだから、当然、米英仏の軍事介入に賛成している。面白いことにイスラエルはというと、シリアがさまざまな交渉が一応できる相手であった経緯もあり、態度をはっきりさせていない。ただ、シリアの背後にイランが控えているため、イスラエルは当然ながら、シリアに脅威を感じてはいる。またイラクは、国内ではスンナ派が少数とはいえ35%もいるだけに、一方的にシリアを追い詰めることには消極的だ。

▼どうだろうか。こうやって、できるだけ分かりやすく対立関係を整理してみても、余計に頭が混乱してきそうなモザイク模様である。どうにも、絡み合った糸がほぐれない。

▼こういった、実に面倒な宗派を背景にした内紛というものも、しょせんは貧富の差と、封建的な不自由制度がすべての元凶である点では、どこの国の紛争も同じことだ。米国は、これまでできるだけ中東の旧態依然とした封建的な現政権を尊重して、それとの「取引」「勧誘」「篭絡」「恫喝」といった手法で自分の意思を通そうとしてきた。独裁政権と話をつけてしまうほうが、合理的かつ効率的だったからだ。

▼ところが、中東の国民も馬鹿ではない。愚民的な政策に疑問を持ち始めた。次第に、自分たちと世界との「差」というものを感じ始めたのだ。貧富と不自由の問題について、である。内紛が始まる。いったいどうすればよいのか。試行錯誤した挙句、ひと言で言えば、米国は面倒くさくなったのである。

▼結局のところ、従来の盟邦であるはずのサウジに対してさえ、米国は現在、手放しで快くは思っていない。シエールガス革命によって、米国のサウジに対する態度は急速に冷えつつある。サウジや中東の重要性は、音を立てて低下しているのだ。

▼米国がこの絡みあった糸を一刀両断するのには、つまるところ、豊かさと自由を演出して、一般大衆のグローバリゼーションを実現するのが一番手っ取り早い、という結論に至ったのだろう。米国の製品と金融支配による利益収奪を図るには、従来のような時代錯誤的な政権では、うま味がない。さらに、原油の中東依存が米国にとってそれほど重大なものではなくなったことで、とうとう米国が本性を露呈し始めたと考えてもよい。

▼中東諸国の資本主義化が浸透することこそが、米国の生み出す価値の輸出を促進することになる。いわゆる中間所得層の拡大である。それを実現するには、いったんガラガラポンと、封建的な体制そのものをひっくり返してしまうに限る。

▼その武器として使われているのが、ご存知タブレットやスマートフォンであり、フェイスブックやウィキペディアというわけだ。「扇動」である。内乱を引き起こすわけだから、米国としてはコストが安い。自分たちで勝手に、政権を転覆してくれるのだから、落ちてきた実だけを米国がいただけばよい。

▼もし話がややこしくなってきたら、難癖をつけて軍事介入すればよいのだ。きっかけがなければ、米西戦争やベトナム戦争と同じように、そのきっかけを米国が捏造(ねつぞう)すれば事足りる。そこまで言うと、はなはだ心外だと米国人には怒られるかもしれないが、そのくらいのことは平気でやってきた国柄だ。何をいまさら、という気がする。

▼昨日も述べたが、チュニジアに始まり、リビア、エジプト、そして今回のシリアは、まだ一里塚にすぎない。政府転覆の最終目標が、イランであることは言うまでもない。サウジは、時間をかけてゆっくり骨抜きにしていけばいいわけで、シリアを橋頭堡として、イランを全力で叩き潰しに行こうとする軍産共同体のシナリオは、まず確実に用意されている。シリア問題は、シリア問題にとどまらない。出方次第では、イランの帰趨(きすう)が問題となってくることは火を見るより明らかだろう。シリアとイランは、一蓮托生(いずれも少数派のシーア派)だからである。

▼中東に対する米国のスタンスの劇的な変化は、シエールガス革命とモバイル先端技術だけではない。中東地域の人間の「もっと豊かさを、もっと自由を」という自覚の醸成、さまざまなタイミングの一致が背景にありそうだ。シリアを片付けても、イランという最大の脅威は残っている。

▼ただ、そのイランも、ホメイニ革命(原理主義的イスラム)を知らない世代が人口の過半を占めてきており、体験者でも昔のシャー(皇帝)時代の、資本主義的な世の中に懐古の思いを抱く者も少なくない。イランが、状況によっては内部から崩壊するリスクは年を追って増大しているのが実情だ。

▼私自身、出張中の機内に、テヘランからイラン人たちがどっと搭乗してきたときのことを覚えている。離陸するまで、彼らは静かにしていた。とくにイラン人女性はみな、ビジャブ(スカーフのようなもの)などで、顔や全身をすっかり隠していた。ホメイニ革命後、イランでは長年にわたって、徹底的なイスラム原理主義が施行され、前近代的な価値観が全土を支配した。

▼ところが、飛行機が離陸した途端、彼女たちは一斉に大歓声を上げながら、民族衣装を脱ぎ捨てた。驚いたことにみな化粧をしており、なんと肌の露出部分の多い洋服に早変わり。胸元は露わ、スカートで、しかもミニばかりだ。いきなり、イラン人男性たちも、アルコールを注文し始めた。その航空機は欧米国籍だったから、離陸した瞬間、イランの法は及ばなくなる。こんなところに、イラン人の本音が見てとれる。

増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄




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