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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第138回・星の導き

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【閑話休題】第138回・星の導き

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-09-18 18:00:00]

【閑話休題】第138回・星の導き



▼満月が近い。満月の夜には、極大化した木星が月のすぐそばに寄り添う。天体のランデヴーだ。江戸の儒学者・中根東里(なかねとうり)が、「出る月は待つべし。散る花を追うことなかれ」と言ったらしいが、この待つ、見送るという行為に、なんとも日本人だけが持つ、独特の情緒を感じないだろうか。

▼「余白の美」(酒井田柿右衛門)とも言うが、絵を描くときに余白を描けという意味である。これも、それと近い情緒を思わせる。

▼星の導きというのは、古来、日本人がとても大切にしてきたものだが、それ自体は世界中で見られていた。真言密教(高野山)は、大日如来(だいにちにょらい)が本尊だけに、“太陽の宗教”と言われる。一方、天台密教(比叡山)は、天体の秘儀を重視するため、“星の宗教”とも言われる。

▼もともと、“天狗”も流星を指して、「あれは天狐(てんこ)なり」と呼んだことから派生していった言葉だ。眷属(けんぞく=従者)が狐の稲荷も、北斗七星と深いかかわりがある。稲荷の本地仏(正体といってもいい)は、ダキニ天だが、これは北斗七星そのものといってもよい。正式には、ダキニ天は「北辰狐王菩薩」と呼ばれるが、北辰とは北斗の意味である。

▼稲荷は、天皇から「正一位」の位階を授けられている唯一の神だけに、ダキニ天のような「魔」では格が不釣合いだ。だから、二階級特進で「菩薩」に格上げして、そのように称したのだろう(八幡大神に官位はないが、「大菩薩」を与えられている)。

▼もっといえば、八幡大神も古い神画には、頭上に北斗七星が描かれているものが残っている。実は北斗七星は、北極星と七つ星がセットになっていて、併せて八星だという見方がある。もうひとつ、七つ星にはなかなか見えにくいのだが、小さな補星(見えた者は一年以内に死ぬという中国での言い伝えから、「死兆星」とも呼ばれる)もあわせると、八つ星という見方がある。しかも、八幡は妙見(北斗七星の化現神、神託霊符神)と同体である、とされたから、おそらく間違いなかろう。

▼どうやら、日本の総神社数の70%を占めている稲荷と八幡という二つの神は、元をただすとこの北斗七星に辿りつく。結局、天体の妙に見せられた古代人の思いというものが、伝わってくると言えようか。

▼密教系の仏典によると、宇宙の真理は星の巡りによって支配されており、つきつめれば、北斗七星になる。そして、その天体の秘儀のすべてを知っているのは、文殊菩薩(もんじゅぼさつ)となっている。ちなみに、稲荷の本体とも言われるダキニ天は、正しくは文殊菩薩の教令輪神(きょうりょうりんじん=変化)である。だから平安期には、呪術というと、もっぱらこの文殊菩薩が用いられた事実がある。

▼明治が始まるまで、天皇家では、即位するときにご本人が大日如来の印を結び、ダキニ天の真言(マントラ)を唱えるという、「即位灌頂(そくいかんじょう)」が千年に渡って続けられていた。この事実からしても、日本人の星にかける思いの深さというものがよく分かる。

▼以前、月の巡りと人間界の異変(大事件、大事故、天変地異)が、タイミング的にかなりオーバーラップするという話は、当コラム(第2回「月齢と相場」)でも紹介したことがある。太陽と違って、月の光は反射であるから、言わば「一度死んだ光」だ。冥界をイメージさせるだけに、月と地球との因果関係は、さまざまな連想を生んできたのだろう。

▼東京では、中秋の名月にそなえてお団子とススキを用意するなどという習慣は、ほとんど見られなくなってきた。まだ私が子供の頃は、親に言われて、野原に腐るほどあるススキを刈りに行かされたものである。だが、そもそもそうしたものをお供えする「縁側」などという場所が、今はない。

▼月も星も、さぞ寂しがっていることだろうと勝手に思っては、やっつけ仕事のように、団子を神棚・仏壇にお供えしている。昔はこの時期、収穫されたばかりの里芋を供えていたらしく、言わば豊作を祈る儀式なわけだ。秋という、一番相場では波乱が繰り返された季節。お月様にもお願いしたくなるのは、私だけではないかもしれない。

増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄



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