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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第160回・黄金と朱

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【閑話休題】第160回・黄金と朱

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-10-22 18:00:00]

【閑話休題】第160回・黄金と朱


▼日本の色とは、いったい何だろうか。古代日本には、そうした特別な意味を持った色は、おそらくなかっただろう。麻布や絹のような白がそうであったかもしれないが、国そのもの、文化そのものを象徴するような地位は、白という色に与えられたことがない。

▼そこへ、仏教という外来宗教が入ってきた。それは膨大な経典と、見たこともないような仏具や伽藍(がらん)、そして何より古代人を驚倒させたのは、仏像の黄金だった。その圧倒的な迫力と神秘的な色に、古代日本人は言葉を失った。聖徳太子(実在については疑われているらしい)が仏教を広めるまでもなく、その黄金に日本人はひれ伏した。

▼この仏教が伝来し、破竹の勢いで拡大していった様子に危機感を持ったのが、伝統的な神道だった。もっとも神道も、元を正せば外来宗教が多い。たとえば、稲荷にしろ八幡にしろ、秦氏(はたうじ)が大陸から持ち込んだ、彼ら自身の先祖信仰にほかならない。出雲の熊野大社におわしますスサノオでさえ、父親名・フトゥ、本人名はフトゥシ、息子(天照国照彦天火明饒速日命、ニギハヤヒ)の名がフルと、すべてモンゴル名である(朝鮮名ではないので、この点注意)。しかし、ここではまあ、そう堅いことは言わず、古代日本の神道としておこう。

▼この伝統的な神道は、仏教の勢いに対抗する必要性があった。そうしなければ、存在そのものが危うくなる恐れがあったからだ。伽藍は白木で質素なだけに、迫力という点では仏教伽藍に及ばなかった。神具もいたってシンプル。高等な論理がちりばめられた経典なども皆無だ。せいぜい、祝詞(のりと)くらいのものだった。どこをとっても、仏教には力負けしてしまう。そこで彼らは、黄金に対抗しうる強烈な色を持ち出した。それが朱色(しゅいろ)だったのだ。

▼何故、稲荷の鳥や本殿は、これでもかというくらい強烈に自己主張をする朱一色で染められているのか。稲荷ばかりではない。どこも神社の鳥居は、基本的に朱色で統一されている。これは、古代神道の、外来宗教・仏教に対する強烈なアンチテーゼだと言ってもいい。

▼黄金そのものは劣化しないが、仏像に使われた金箔は、金に銀や鉛を混入してつくられるため劣化する。しかし、朱色は何度でも塗り替えることができるし、多少古くなっても朱色の自己主張はそう簡単にはおさまらない。こうしてみると、たかが朱という一つの色に過ぎなくても、日本人がそこに込めた気迫というものが、千年の時を越えて感じられないだろうか。

▼いささか長い余談だが、日本人の色彩感覚と欧米人の色彩感覚が違うことは、つとに知られている。たとえば虹だが、日本人は「七色の虹」と呼ぶ。虹の色は紫、藍、青、緑、黄、橙、赤の七色だ。ところが、国によっては五色、六色に数える国も多いし、かたくなに二色だと言い張る民族もある。英語圏ではふつう、藍色を除いた六色である。

▼逆に、これと矛盾するようだが、日本では青と緑を混同して使うことも結構ある。「青々と茂る樹木」のように、本来緑色のものを「青」と表現することが少なくない。これは、日本だけでなく中国でも、緑に近い色までも青色と認識する傾向にあるようだ。これに対して西洋では、「青」は少し紫色に近い範囲まで blueと言うらしい。「青色」と認識する範囲が、東洋と西洋では微妙に違っていることになる。

▼緑色とgreenも微妙に違っていて、日本語で「緑」は濃い緑を思い浮かべるのに対し、英語のgreen は明るい緑色、つまり日本語なら黄緑に認識される色まで green と呼ばれる。日本人の緑色の濃さというのは、究極的には「緑の黒髪」という言葉に象徴される。

▼朱色に関係していることで言えば、たとえば、太陽の絵を描いた時に何色に塗るだろうか。もちろん、日本では朱色ではなく、「赤色」で塗ることが多いわけだが、英語圏だけでなく外国では「黄色」に塗ることが多い。生涯にわたり、太陽を一心不乱に描いたゴッホの絵を思い出してほしい。赤い太陽は一つもない。全部黄色なのだ。ゴッホは、とくに黄色が好きだったということもあるが、それにしても異常なくらい黄色を多用している。

▼「彼はまだ青いね」、「白黒はっきりさせよう」、「真っ赤な嘘」・・・といったような日本語独特の表現は、中国や欧米では、どうなっているのだろうか。Blueは、憂鬱なというニュアンスがあり、白黒ではなくBlack and whiteと逆に呼ぶ。Redは羞恥、激怒、赤字とかなり日本人の用途と近い。こうしてみると、色のことを突き詰めていけば、もっともっと、文化の違いということが分かってくるかもしれない。

増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄




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