忍者ブログ

増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第169回・残心

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

【閑話休題】第169回・残心

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-11-05 18:45:00]

【閑話休題】第169回・残心


▼スポーツの試合における、勝者の喜びはいかばかりであろうか。その素直な誇りと歓喜の表現は、たとえば、サッカーや野球などを見ていても実に感動的である。

▼が、そのたびに、ついつい敗者の気持ちを考えてしまうのが、私のいけないところかもしれない。もし、自分が勝者の立場だとしても、体中であの天真爛漫な喜び方をすることはないだろう。もっとも、私は運動音痴だから、そういう機会が永遠に訪れることはないのだが。しかし、私であればおそらく、誰も見ていない、自分だけの世界でその喜びを爆発させるような気がする。

▼剣道はもともと剣術(武術)であり、正直なところ、殺し合いの技術の鍛錬であった。その精神は、スポーツ(武道)となった現在においても、いくばくかは受け継がれている。それが「残心」だ。残心とは、武道の世界ではある動作を終えたあとでも、「緊張を持続させる心構え」のことをいう。

▼実際に真剣の斬り合いで勝ったとしても、どこに次の敵が潜んでいるか分からない。斃(たお)れた相手でさえ、最後の一太刀を浴びせてくるかもしれない。勝負がついたと思っても、一瞬の、それも必死の反撃を想定していなければならないのだ。だから、最後の最後まで気を緩めず、鞘で刀身をゆっくりと迎えに行く。その間、中腰の戦闘態勢はけっして崩さない。居合いではそうだ。

▼残心は、こうした戦いの場での実践的な教えそのものなのだが、精神的な教えも加わっている。敗れた相手への敬意だ。どんな相手からも、教えられることがある。学び取ることができる。だから武道では、勝っても敗者の前で勝ち誇ることを戒めているのである。「礼に始まり、礼に終わる」を、まさに徹頭徹尾、文字通り形にしたものが、残心なのだ。

▼剣道の試合では、一本勝ちをした勝者が、その場でガッツポーズなどをすれば、即刻、一本勝ちが取消されることになりかねない。剣道では、この残心が決まっていなければ、「有効打突(ゆうこうだとつ)」として認められない。有効打突とは、一本勝ちとなる打突のことである。

▼残心は禅から来ている考え方で、柔道や合気道、茶道などにも用いられているが、一番厳しいのは、やはり剣道のようだ。全日本剣道連盟の試合審判規則第24条で、「不適切な行為」として規定されているのが、「打突後、必要以上の余勢や有効を誇示すること」である。第27条では、一本勝ちが取り消しになり得ることを規定されており、実際に全日本選手権で、これが発動された事例がある。

▼国技である相撲でも、実はこれが生きている。2009年1月場所の千秋楽、優勝決定戦で、白鵬に勝利して復活優勝を遂げた横綱・朝青龍が、勝利直後に土俵上でガッツポーズをした。このときは横綱審議委員会などから問題視され、後日、日本相撲協会から所属部屋である高砂部屋親方を通じて、本人に厳重注意が申し渡された。

▼さらに言えば、野球もこの「求道的」な性格が色濃く残っており、ホームランを打った後などに、派手なガッツポーズを行なってはいけないとされている。いわば、日本野球の不文律だ。

▼野球の場合、日本人の国民的スポーツとなってから、長い歴史がある。それだけに、こうした日本的な哲学が根付いたのかもしれない。水泳にしろ、ボクシングにしろ、スポーツとはいえ、戦いである。堅いことを言うようだが、私などは勝っても粛々としている謙虚さのほうが、勝者の体中で示す喜びや舞い散る紙ふぶきを見るよりも胸を打つ。何よりも、「本物」を見せてくれた喜びが伝わる。あまりにも、感覚が古いのであろうか。

増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄



日刊チャート新聞のコンテンツは増田足のパソコン用ソフト、モバイル用アプリから閲覧可能です。

15日間無料お試しはこちらから
https://secure.masudaasi.com/landing/pre.html?mode=cs
PR

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。