【日刊チャート新聞記事紹介】
[記事配信時刻:2013-11-15 18:45:00]
【閑話休題】第177回・日本の名言
▼戦争中のことか、戦前のことか定かではないのだが、日本のスパイが中国側に発覚して捕まった話がある。その日本人スパイというのは、シナ語は完璧な北京なまりの巻舌音を使い、その所作、習俗ともに、中国人でも見分けがつかないというくらいだったらしい。
▼ところが、ひょんなことで「偽中国人」であることがばれた。それは、顔を洗うときの仕草だったという。日本人が顔を洗うときには、水を両手で洗面器からすくって顔に浴びせ、両手を上下に動かす。日本人なら、当たり前のことだ。しかし、私は知らなかったが、中国人は顔のほうを動かして洗うのだそうだ。
▼「ウソだろ」と思っていたが、仕事で中国に渡った折りに、どうやって顔を洗うか知り合いの中国人に聴いてみた。すると、私が直接聞いた限りでの答えというのは、みな「顔のほうを動かす」だった。これには一驚した。さすがにお国が違えば、仕草も違う。
▼今はどうか知らないが、昔は中国に行ったとき、日本人が非常に嫌な思いをするトップ10の一つに、中国人の「舌打ち」があった。これは、私もしょっちゅう経験した。たとえば、レストランで注文したものと違う料理が配膳されたとき、「これ違うよ」と指摘する。すると、ウェイトレスはまずたいてい、「チィッ」とばかりに舌打ちをしたのだ。これが、たまらなく不愉快だった。
▼ところが長年、現地で仕事をしていると、どうも彼らのこうしたときの舌打は、日本人の舌打ちとは意味が違うことが分かってきた。彼らは、間違いを指摘した私に向かって舌打ちをしたのではないようだった。あくまで、自分のミスに対して「しまった」といったような、もっと極端な表現をすれば、自己嫌悪のような、そんな感情があの舌打ちに含まれているようだった。そう思うようになってからというもの、とくに腹が立たなくなった。
▼それもこれも、習慣の違いからくるものだ。だから、どうという話ではない。ただ、最近ネット・ラジオを聴いていて、とても心に残る話があった。日本人の見分け方というテーマなのだが、体験者は歌手の武田鉄矢である。
▼彼が、最近(去年だと思う)、福岡県人会の招待か何かで、ベトナムに行ったときのことだ。現地のベトナム人から見たら、日本人も中国人も韓国人も見分けがつかないだろうと思いきや、そうではなかった。日本人だけは100%分かるのだという。いったい、なぜだろうか。
▼武田鉄矢が聞いたところでは、日本人は食事をするとき(手を合わせるかどうかは、人によるが)、まず例外なく、「なんとかかんとか」という“呪文”を唱える。つまり、「いただきます」という言葉である。当然食事の後にも、「ごちそうさま」という呪文を唱える。このような呪文を唱えるのは、日本人だけだというのだ。
▼言われてみれば、確かにそうだ。中国語にも韓国語にも、これに相当するような明確な言葉はない。英語にもない。少なくとも、私が知る限り、ドイツ語にもロシア語にもない。これは、当たり前のようでいて、驚くべき事実だ。
▼もっといい話を、武田鉄矢は聞いたという。ベトナムでは、コンビニであろうとどのような店であろうと、買う側の日本人がレジでお金を払って、品物を手に取ったとき、みんな「ありがとう」と言うそうだ。
▼どこの国の人間も、金を出して買うのは自分なのだから、お礼など言うわけがない、と思いがちである。たいていの日本人も頭の中では、そう思っているはずだ。しかし、私もそうだが、ついどういうわけか、「ありがとう」と言って「しまう」ことがある。これが、たぶん“日本人気質”というものだろう。
▼武田鉄矢に言わせれば、「いただきます」「ごちそうさま」、そして「ありがとう」は、世界に誇る日本の名言である、と。これには、まったく同感する私がいる。
増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄
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