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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第187回・不思議の国の日本人

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【閑話休題】第187回・不思議の国の日本人

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-11-29 18:45:00]

【閑話休題】第187回・不思議の国の日本人


▼日本と日本人については、世界でもとかく誤解されることが多いような気がする。風俗・習慣の違いは、知ったらしまいという側面がある。しかし、「そうなのか」と知ったところで、どうしても理解しがたい部分というものが残ったりもする。

▼外国人は、日本人が律儀だったり正直だったりと、ステレオタイプの日本人像については、とうの昔から知っている。しかし、その彼らが改めて驚愕した「事件」があった。多くの人は絶賛したが、一方では“異常”だと思い、その行動については理解を超えていると言う人もいた。

▼2011年3月11日に起きた東日本大震災の後、岩手、宮城、福島の3県で約5700個の金庫が警察署に届けられた。このことは、ニュースにもなって伝えられたから、まだ覚えておられる方もいるだろう。金庫は、みな津波で流され、再び海岸に打ち上げられたものばかりだ。

▼金庫の中の現金は、およそ23億6700万円に達したらしい。そのほか、これとは別に届けられた財布やバッグの現金と合わせると、なんと合計で約37億900万円。その内、85パーセントにあたる約31億円が持ち主に返還されたのだ。

▼拾ったモノを返す、または交番に届けるのは日本では当たり前だが、それにしても、状況が状況だけに、海外ではこのニュースにびっくり仰天だったようだ。まず海外では、あのような災害のときには大混乱となり、火事場泥棒さながらに、奪い合うのが普通である。それどころか、商店などが暴徒に焼き討ちされ、略奪されることもよく報道されている。

▼アメリカやイギリス、フランスといった先進国でさえ、そうしたことは「不可避」と考えられている。中国とて同じこと。四川大地震でもかなり広範囲に略奪が起こった。最近のフィリピンのレイテ島を襲った台風の被害でも、タクロバン市における略奪・暴行はずいぶんと問題になっている。銃撃戦まで繰り広げられているくらいであるから、大変な事態だ。

▼それがどうだろう。日本では、被災者の留守宅を狙った泥棒の類こそ報道されたが、住民同士の略奪・暴行のような状況は見聞されていない。かつて、私が1年の3分の2を過ごしていた中国大陸では( 80年代前半)、人々は日本人以上に正直で、清廉さがあった。北京の繁華街・王府井(ワンフーチン)でパスポートや人民元が入った財布を落としたときも、あっという間に届けられたものだ。

▼当時の中国は、人民解放軍が怖かった。怖いが、なにしろ清く正しかった。それだけに畏敬の念を持ったものだ。社会も清貧に甘んじていたものの、見事なほど安全と礼儀と規律が確保された世界だった。それがものの15年ほどで一変してしまい、さらに15年経つと、都市部はどこもかしこも戦前の魔都・上海に舞い戻ってしまったかのようだ。解放軍も事実上、革命前の軍閥となんら変わらない状態になってしまった。

▼当コラム第54回「マルクスの亡霊」で、無政府主義者・バクーニンが、マルクスの共産主義を罵倒した有名な言葉を紹介したことがある。
「労働者以上に、労働者の幸福を知っていると自称する小数の労働貴族と、ただ支配される無知な畜群という、帝政以上にタチの悪い国家ができあがることが、どうして予想できないのだ。その後の国家の消滅など、夢のまた夢だ」。」
そしてその予言は、清朝末期よりも中華民国初期よりも、遥かに「タチの悪い国家」に成り下がりつつある中華人民共和国に、そのまま当てはまる。

▼先般の三中全会議も、中では揉めに揉めたようだ。汚職一掃の改革を行なおうとする指導部も、ほとんどメスを入れることはできなかったらしい。その一方では、中国共産党政法委員会の周永康(しゅうえいこう)元書記親子が、その家族の牛耳る石油部門と政法委員会部門の影響力を利用し、大いに「権銭交換」を行ない、少なくとも200億元の財を集めたとメディアに暴露されている。権銭交換とは、職権で私利を貪ることだ。

▼またニューヨーク・タイムズは、中国共産党幹部の子弟たちが、家族の権勢を利用して中国経済の動脈を支配、国家財産を壟断(ろうだん)していると報道した。たとえば、江沢民前国家主席の息子である江綿恒(こうめんこう)はテレコム、半導体等を掌握し、また、李鵬(りほう)元首相の娘・李小琳(りしょうりん)は中国電力国際有限公司のCEO、息子の李小鵬(りしょうほう)は華能国際電力株式有限会社の理事長である。

▼共産党幹部とその血族者、利害関係を結ぶ財・官・軍はみな一蓮托生。寄ってたかって国をむさぼる体質は、数千年来の遺伝子だ。共産主義革命は、その腐敗体質に終止符を打つことが目的の一つだったはずだが、結局、経済開放からわずか30年で元に戻ってしまった。

▼いまでは支配の仕組みが、より巧妙にして強固になっているだけ、革命前より「タチが悪い」と言えるだろう。しかも、不平不満や隠蔽暴露は、「人民の正義」の名の下、武断的に潰されている。では、国家が悪いのか。そうではない。国家のレベルを決定しているのは、国民の資質と品格そのものだからだ。

▼5700個の金庫と37億円に及ぶ現金の返還は、東北大震災を巡るさまざまな胸を打つ話の、たった一つのエピソードにすぎない。しかも、それを当たり前のことだと大半の日本人が思っている。外国から見れば、それこそが「この国の不思議さ」でもある。日本という国の品格は、このエピソード一つに如実に示されている。

増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄




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