【日刊チャート新聞記事紹介】
[記事配信時刻:2013-12-18 18:45:00]
【閑話休題】第200回・寿命
▼寿司の寿命は、どのくらいだろうか。回転寿司大手のスシローが、店内でICタグによる鮮度管理を行なっている。それによると、「寿司の寿命は350メートル」だそうだ。回転レールの上で350メートル走った寿司は、自動廃棄されているらしい。
▼生き物ではないが、香水の寿命というものもあるらしい。フタを開けるたびごとにアルコール分が消えて、どんどん濃縮されてしまうそうだ。
▼かつて人間の寿命は短かったが、還暦( 60歳)、古希( 70歳)、喜寿( 77歳)、傘寿( 80歳)、米寿( 88歳)、卒寿( 90歳)と、古くから長寿のランク付けがあったのは面白い。なにしろ、白寿( 99歳)もある。これは百という字から、一の字を消すという意味である。
▼ところが100歳には、そのような“名称”がない。百寿、上寿、百賀などいくつか呼び名はあるが、特別な由来があるわけではない。問題はその先だ。驚くなかれ、まだ100歳より先の名称があるのだ。茶寿( 108歳)、皇寿・川寿( 111歳)、珍寿( 112歳)、そして、なんといっても118歳の天寿である。「天寿を全うした」とはよく聞く言葉だが、亡くなった人が118歳に達していなかったら、全うしていないことになる。きわめつけは、「大還暦」といわれるもので、121歳(満120歳)というのがある。それはそうだろう。還暦を二回迎えるわけだから、これは凄い。
▼いったい、そこまで人間は生きられるものなのだろうか。いろいろ調べてみると、どうも徳之島の泉重千代(いずみ しげちよ)さんは、120歳と237日で大往生と言われているから( 1865~1986年)、天寿( 118歳)を全うした上に、さらに大還暦を迎えたわけだ。生年月日の不確かさなどを疑う向きもあるが、おそらく、ここまでの長寿、記録として信頼性のあるのは、日本ではこの泉重千代さんだけだろう。
▼もう一人、これに継ぐ人では、1964年(昭和39年)に118歳で亡くなった山梨県大月市の小林やと(「やそ」という表記も見られる)さんという、女性の日本最高記録保持者がいた。今後、DNAをいじくり回すことによって、どれだけ人間の寿命は伸びることだろうか。かつて、ロシアの作家・ツルゲーネフが、こう言った。
「死ぬのは恐ろしい。死なないのは、もっと恐ろしい。」
▼実は、哺乳類には「心拍数と寿命は反比例し、一生の総心拍数は約20億拍で一定」との説がある。ねずみの心拍数は1分当たり600拍で寿命は2~3年、ゾウの心拍数は20拍で寿命は70年位だそうだ。
▼ダーウィンが、1835年にガラパゴスから持ち帰ったゾウガメ「ハリエット」は、推定175歳で死んだ。もっとも、このハリエット、ダーウィンが捕獲したときには、まだ食器皿くらいだったという。ところが、100年以上経った後に、DNA検査でダーウィンが立ち寄らなかった島(サンタクルス)の固有種であることが発覚。どうやら、ダーウィンが持ち帰ったカメではないということが判明した。
▼それでも、動物園や管理者、あるいは昔の所有者たちの記録を遡っていくと、このハリエット、ダーウィンが捕獲したものではないにしろ、最低でも170歳以上であることは間違いないらしい。
▼ゾウガメの計算寿命は146歳。爬虫類ではあるが、哺乳類の心拍数と寿命の計算に、概ね合致する。ハリエット以外に、もっと長生きしたカメがいる。18世紀の探検家、ジェームズ・クックによってトンガ王室に献上された、マダガスカル産のホウシャガメだ。「トゥイ・マリラ」という名前なのだが、1777年ごろから1965年まで生きたため、188歳ということになる。今では、剥製になっている。
▼しかし、上には上がいる。インドのカルカッタ動物園で飼育されていた、アルダブラゾウガメである。「アドワイチャ」という名前がつけられたそのカメは、18世紀にセイシェル諸島で捕獲され、イギリス東インド会社の将校ロバート・クライブのペットとして過ごした。その後、クライブが帰国すると人手に渡り、1875年にカルカッタの動物園で飼育されるようになってからは、そこで約130年過ごした。2006年に肝不全で死んだが、動物園の記録から少なくとも150年以上生きたことは確実。それ以前の記録をつなぎ合わせると、実に250年以上生きた可能性があると考えられている。
▼一言で250年というが、とんでもない時間だ。クライブがプラッシーの戦いで、インドにおける英国支配を完全に成し遂げたのが1757年。その前後からアドワイチャが飼われたとすると、ほぼ250年生きた計算になる。
▼ゾウガメのアドワイチャが生まれた1757年前頃から、その後の世界と日本では何が起きただろうか。アドワイチャが17歳のとき『解体新書』が書かれ( 1774年)、19歳のときアメリカが独立( 1776年)。32歳のときフランス革命があり( 1789年)、58歳のときナポレオン帝国が崩壊( 1815年)。ペリーが浦賀に来航したのは96歳のときで( 1853年)、南北戦争が始まったのは104歳のときだった( 1861年)。111歳で明治維新( 1868年)、120歳のとき西南戦争が起こったことになる( 1877年)。120歳までの寿命なら、さしづめ泉重千代さんだ。
▼ところが、アドワイチャはまだまだ生きた。147歳で日露戦争( 1904年)、160歳でロシア革命( 1917年)、182歳で第二次大戦勃発。193歳で朝鮮戦争( 1950年)、218歳でベトナム戦争が終了( 1975年)。234歳でソ連崩壊( 1991年)、そして2006年、小泉内閣が退陣した頃、250歳でその長い長い生涯を閉じたことになる。
▼さきほどの心拍数と寿命の計算式を、そのまま人間に当てはめると計算寿命は54歳。日本人の平均寿命は女性86.41歳、男性79.94歳( 2012年)だが、これは医療と食生活の進歩によることが大きい。心拍数と寿命の計算式を信じるなら、ゾウガメの長寿の秘訣は心拍数にある。私たち人間も、もっと長生きしたいのならジョギングやウォーキングなどを続けて、心拍数を減らす努力が必要になるのだが……。
増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄
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