忍者ブログ

増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第229回・温泉

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

【閑話休題】第229回・温泉

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2014-02-05 17:02:00]

【閑話休題】第229回・温泉

▼風呂もそうなのだが、とくに温泉のほうが日本と海外の違いが際立つ。火山の少ない欧州にも、温泉はある。ドイツのバーデン=バーデンなど有名なところは、あちこちにあるのだが、飲泉、療養など目的がかなり明確なのだ。

▼ところが日本の温泉は、それもあるのだが、なんといっても「温泉に浸(つ)かって癒す」のが目的だ。この「浸かる」ということと、「癒す」というのが、どういうわけか、アジアを含め、海外には無い。

▼要するに、湯にどっぷり体を沈めて、「あ~、極楽じゃあ」とのたまう一言に尽きるのだ。この「あ~、極楽じゃあ」が、あっちには無いということだ。

▼風呂にしろ、温泉にしろ、入って、洗って、はいさようなら、ではなんとも味気ない。しかし、朝鮮半島や中国でさえ、この「浸かって、癒す」という情緒はほぼ皆無といっていい。湯に入るということを、「機能」でしか活用していないのだ。もったいない。

▼ここに温泉の決定的な違いがある。海外では、衛生を保持することと、「療養」が目的なのだ。日本も、もちろんそうなのだが、なんといっても一番重要なのは、「快」を求める点で、線引きができる。だいたい、素っ裸で温泉に入るのも、ほぼ日本が専売特許に近い。

▼この温泉の「快」というのは、なかなか外人には理解してもらえないらしい。風鈴の良さすらわからないのだ、要求するほうが無理というものかもしれないが。

▼確かに民族によって、「裸観」が違う。英語でも、nude(ヌード)、naked(ネイキッド)、bare(ベア)など表現がいろいろある。語彙が多いということは、それだけその概念が豊富だということだ。水着を着たまま入る向こうのスパなど、あれでも彼らにとっては十分「裸だ」ということになるのかもしれない。

▼日本の「はだか」という言葉は、「肌赤」から転化したものだから、いわゆる「丸裸」「すっぽんぽん」が「はだか」という意味だ。裸観で、いったいどちらの文化的レベルが高いのか判断は難しい。ただ、違っていることだけは間違いなさそうだ。

▼しかし、と思う。こと温泉に関しては、そもそもが裸にならなければ「いけない」のだ。裸にならない入浴というのは、それがスパだろうが、なんだろうが、およそ動物としての先天的な水浴本能を満たしていない。

▼快感という精神的な喜びや癒しというものは、その獲得には裸になるということが最終的には絶対条件だ。衣服文化の起源は、性と身分の強調、つまり差別化の発想に基づくもので、保温というのは後で加わった機能だという。

▼裸になることによって得られる解放感は、差別の必要がない環境になることによって生じる。人間としての最終的な緊張感から解き放たれるのだ。

▼日本語というのは、皮膚感覚を表現する語彙が非常に多い。多いということは、それだけ優れているということだ。

▼しっぽり、しっとり、びしょびしょ、じとじと、すがすがしい、さっぱり、さわやかなどなど、書き出していったら、それだけで一冊の本ができるくらいだ。これだけの語彙は外国語には無い、という。

▼おそらく、どこの国でも、温泉はもともと裸だったのではないだろうか。ローマのカラカラの大浴場の絵でも、裸で混浴だ。どうも欧州ではキリスト教が、東アジアでは儒教が、裸や混浴を制限していく倫理的な制御装置の役割を果たしたのかもしれない。

▼面白い違いとしてては、欧州では混浴を残すために素っ裸ではなく着衣のまま入浴することとし、日本では裸を残すために、混浴を別浴にしたというプロセスがうかがえる。どちらが、なにを重視したかということがわかる。

▼しかし、しょせん温泉というのは、裸で混浴が筋だ。欧州では、ローマ時代に回帰する動きがあるようだ。逆に日本では、古い温泉では混浴が残っているが、次第にそれは時間毎の別浴になり、いまや深山の天然露天風呂を除けば、ほぼ絶滅危惧種だ。この見方で行けば、欧州のほうが原始のあるべき姿に戻りつつあるが、日本は原型が失われていく一途ということになる。さて、どちらが文化的か。

増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄


日刊チャート新聞のコンテンツは増田足のパソコン用ソフト、モバイル用アプリから閲覧可能です。

15日間無料お試しはこちらから
https://secure.masudaasi.com/landing/pre.html?mode=cs
PR

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。