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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第265回・新地政学的シナリオ〜デフレ脱却への道

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【閑話休題】第265回・新地政学的シナリオ〜デフレ脱却への道

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2014-03-31 15:30:00]

【閑話休題】第265回・新地政学的シナリオ~デフレ脱却への道

▼なぜ日本はデフレだったのだろう。当研究所の日々のコラムでも、またセミナーでもこれまで解説してきた。

▼米国の為替政策(ドル安誘導)。あるいは根本的には、ネット普及によって雇用の要らない社会体質になってきていること。日本ではこれらを受けて、輸出競争力を高めるために、国内価格を破壊することで(物価のとめどもない下落)対応しようとし、自らデフレにしていかざるをえなかった事情(自縄自縛)など。考えればさまざまな理由がある。

▼これを地政学的な観点から見ていくと、また別の事情というものが浮かび上がってくる。それは冷戦構造の崩壊だ。

▼思えば、1989年12月、日経平均が39000円近い大天井をつけた後、1990年には暴落となり、以来、長期に渡るデフレの航海をひたすら漂流し続けてきた。その1990年というのは、実はもうひとつ重大な事件が発生していたのだ。それはベルリンの壁崩壊である。つまり、日本のバブルの崩壊と、ベルリンの壁の崩壊は、同時だったことになる。

▼これが、もし関連するとしたら、どういうことが考えられるだろう。その前の時代と比較してみると、絵が鮮明になってくる。90年以前は、冷戦構造が厳然として続いていたので、米国にとって日本は重要な防波堤であり、攻撃の場合には橋頭堡であった。が、冷戦がひとたび崩壊してしまうと、日本のこうしたレゾンデートル(存在理由)は、雲散霧消してしまったのだ。

▼それまでは、米国は日本をことあるごとに庇護し、俗な言い方をすれば甘やかしていた。関税が高かろうと米国は文句を言わず、日本の会計基準だけが世界の非常識でも、目くじらを立てず、日米貿易摩擦でもなんとなくうやむやにしていた。

▼ところが、ベルリンの壁崩壊以降は、態度が一変。いきなり、高圧的な要求が相次いだ。
とくに貿易摩擦では、日本は完全に締め上げられ、現地生産を余儀なくされていった。関税然りである。今、これがTPPで最後の「けじめ」をつけさせられようとしている。会計基準も国際的なルールに変更を強制された。

▼米国は「もう日本だけの甘いルールは終わりにして、世界と対等なルールで国際競争をするように」と言ってきたわけだ。こうして日米構造協議などを経て、金融ビッグバンの一環として外為法の改正や国際会計基準の導入などが行われ、それまで日本に許されていた、さまざまな下駄を、脱がされてしまったのだ。これが、日米関係の変化によって生じた、日本の低成長時代の根本的なパラダイムだったと言えないだろうか。

▼ところが、時代は再び循環する。新たな冷戦構造が発生し始めているという仮説がそれだ。ロシア、中国というのは、地政学的には「ここを押さえれば、世界を制する」と言われるユーラシア大陸の大部分を占めるハートランドである。

▼このハートランドの二大人口国家は、それが共産主義であるか否かに関わりなく、世界の問題児だということが、近年あからさまになってきてしまった。共産主義だから問題だったのではなく、ロシアがロシアであることそのもの、中国が中国であること自体が、問題なのだ、ということがわかってきたとも言える。

▼さもなくば、米国にとって「ロイヤルファミリー(皇族)」とも言える、次期、あるいは次次期の米国大統領の可能性すら取り沙汰されているケネディを、斜陽の日本の大使に送り込んでくるわけもない。

▼条約や協定は、「破る為にある」とは、この二カ国のためにある言葉だ。リベラルを地でいっているオバマ大統領も、さすがにカチンときていることが多い。ましてや、米国を動かしている産軍共同体や、保守陣営は、あからさまな反ロシア、反中国の旗を立て始めた。

▼ロシアは、対日では、メドベージェフ首相が「こわもて」で、日本を非難して揺さぶりをかけ、柔道家だということで親日のポーズをとるプーチン大統領が、親分さながらまあまあと仲に割ってはいるこのやり口は、やくざの「手打ち」と何もかわりはしない。こういうのに騙されてはいけないのだ。

▼中国は中国で、米中貿易摩擦が激化している中、本来であれば、人民元の自由化によって、人民元高にならなければならない。米国はそれを要求している。ところが、あろうことか、国内経済が厳しくなってきたために、人民元の変動幅の拡大といいながら、実質的には人民元安を誘導し、米国の逆鱗に触れている。顔は笑いながら、手では相手の横っ面をひっぱたくというのは、中国の得意技だ。

▼中国はしたたかである。なにしろ、米国財政の原資である米国債の大量購入者だからだ。なにかあれば、この売却をちらつかせては、恫喝しかねない。ロシアはもっと単純だから、米国の世論のリベラル化という足元を見て、公然と武力を行使しようとする。

▼こうなってくると、米国としては再び、欧州では英国、中東ではイスラエル、そして極東アジアでは、日本という橋頭堡の存在意義が、俄然再浮上してきてもおかしくない。その米国債の問題にしても、日本が大量保有者なら、米国を恫喝するなどという馬鹿なことはありえない。(実際、かつて某橋本首相がこのことに言及して、瞬殺同然に降板したことを覚えておいでの方も多いだろう。)

▼あの、リベラルのオバマ大統領でさえ、日本非難を繰り返す韓国や中国の首脳に、繰り返し、「忘れてもらっては困る。日本は米国の同盟国なのだ。」と釘をさすくらいだ。この「同盟国」という言葉は、日本語より遥かに英語では強烈な意味を持つ。日本人は、軍備を持たないから、「同盟国」と言えば、友達くらいの意味にしかイメージがないのだろうが、英語では「軍事同盟国」にほかならない。

▼まだ、リベラルな民主党政権であるから、そこまで米国は強硬策に打って出るだけの腰は入っていない。が、共和党政権であれば、こんなものでは済まされない。しかし、じわじわと、米国復活のシナリオが現実のものとなってきている今、世界は新たな冷戦構造に突入する可能性は十分にあるだろう。

▼日本経済は長期の低迷を経験した。世界の主要60カ国のうち、この20年間ほとんど成長していない国は、日本しかないのだ。深刻なデフレに陥っている国も、日本しかない。この理由が、冒頭で述べたさまざまなものであることは自明だが、国際関係論のアプローチから言えば、まさに冷戦構造の崩壊が、米国にとって日本の存在価値を希薄化させたことに端を発することが、見えてくる。

▼ところが、中露は、共産主義を捨てつつあるにもかかわらず、実はなにもその行動原理は変わらないではないか、ということが明らかになってしまったのだ。体制が変わってもまったく「言葉が通じない」国だということを、旧西側は思い知らされているのだ。

▼米国連銀は、来年にも利上げを示唆している。それだけ自信があるということだ。ということは、20年間ジャブつかせてきたドル札を、逆に回収しはじめるということにほかならない。これは中露にとって、死命を制する米国政策の大転換である。余計なマネーが、中露には回らないということを意味するからだ。

▼当然、世界のマネーは米ドル重視となる。円安のトレンドだ。過去20年間、米国のドル安政策に甘んじて耐えてきた日本への、なによりの「返礼」ということにもなろう。連銀や米国政府が、アベクロノミクスをもろ手を挙げて賞賛する所以である。

▼だとすると、90年以来日本が苦しめられてきたデフレ状態から、脱却していくシナリオは、確実なものなのだろう。いわば、それを米国が望んでいるということにほかならない。中国に変わって、再び日本が米国債を支えていかなければならないわけだが、ドル高と米国金利上昇(日本金利の低位安定)が、これに実効性を与えることになる。中国マネーのキックアウトである。

▼20年のデフレだったとすれば、今後、20年にわたるデフレからの脱却シナリオが登場してくる。7年後の東京オリンピックの招致決定は、新たな冷戦構造を迎えるに当たって、旧欧米「西側」諸国が選択した、日本へのプラチナカードだったということになりそうだ。

増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄


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