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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第287回・ロシアの憂鬱 後編

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【閑話休題】第287回・ロシアの憂鬱 後編

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2014-05-01 15:24:00]

【閑話休題】第287回・ロシアの憂鬱 後編

▼ロシアというものを語るときに、どうしても避けて通れないのが、北方領土の問題だ。ロシアも憂鬱なら、日本にとっての憂鬱はこの問題だ。

▼われわれ日本人としては、まず、向こうの言い分をまず確認しておこう。それは、こういうことだ。

「北方領土(南クリル諸島)は、法的に拘束力のある連合国間の合意や取り決めおよび日本が批准した国連憲章に従い、第2次大戦の結果として法的な基盤に基づきロシア連邦の不可分の領土の一部であることを強調する。」

▼この決まり文句を繰り返すロシアの言い分を、日本は受け入れるわけにいかない。そもそも、「法的拘束力のある連合国の合意(agreementsと複数になっている)」とは何を指しているのか

▼日本は、米英が、ソ連の対日参戦を要求し、その見返りに北方領土をソ連に与えるとしたヤルタでの秘密協定の当事国ではない。しかし、戦後のサンフランシスコ講和条約は、ソ連の千島への主権を認めず、それも一つの理由にグロムイコ外相は署名をせずに帰国したではないか。日本への無条件降伏勧告をした、連合国のポツダム宣言は、日本も受け入れたので、日本を拘束するが、そこには千島をソ連に移す条項などない。

▼この合意のほかに、取り決め(arrangementsとこちらも複数になっている)が言及されているが、これも何を指しているのか。そんなものは私の知る限り、世の中に存在しない。

▼国連憲章への言及は旧敵国条項を念頭においたものと考えられるが、憲章107条は国連憲章の諸規定が、すでに敗戦国に対して行われた措置を無効化、排除するものではないというだけであって、それ以上の意味、ましてや千島の領有権のソ連への移転などの効果を持つものではない。

▼ソ連は国内法上、1946年2月2日に最高会議幹部会令により対日平和条約の締結前に北方領土を併合した。ソ連の領有権主張の法的根拠はこの国内法しか無い。こんなもので国際的に領有権主張などできるわけもなかろう。そのうえ、平和条約を待たずに併合するのは国際法違反である。日本は世界のほとんどの国と平和条約を結んでいるのに、未だに、日本とロシア(旧ソ連)だけ結んでいないのだ。

▼口上書でも、談話でも、何でも良いから、つねにこの問題は、執拗に公言することが必要だ。ありもしない慰安婦問題や虐殺問題を、中韓は毎日のようにあらゆるメディアをつかって喧伝しているではないか。こういう、しつようさが外交には必要だ。正しければ、黙っていてもいつかみんながわかってくれるほど、国際社会はお人よしではない。ロシアのような、こういう盗人猛々しい姿勢には、徹底して反論し続けることが必要なのだ。

▼かくして、ロシアとの関係改善というものは、正直お話にならない、という印象である。それは日本人なら、北方領土以来、骨身にしみているが、世界は忘れてかけていたのだろう。クリミア問題で、そのことが改めて思い知らされたということにほかならない。それが証拠には、安倍首相の靖国参拝問題など、吹き飛んでしまったではないか。その後、大挙して閣僚などが参拝したが、まったく騒ぎとならなくなってしまったではないか。

▼将来、中国との東シナ海での武力衝突は、喫緊のリスクとして考えておかなければならないが、しょせん中国は地政学的に、領土征服をしていく動機がない。遺伝子的にそうなのだ。国内の不満の拡散に使うだけのことだ。しかし、ロシアは違う。基本的に南下する(異教徒の地を、第三のローマが開放する)という、遺伝子的な動機を持っている国家なのだ。

▼やや安倍政権は、この北方領土問題が引っかかっているためか、クリミア問題での対露制裁に遅れをとったフシがある。クリミアではロシアの行動を半ば理解を示して、北方領土で日本に恩恵をなどというバータ(交換条件)は、ロシアには通じない。クリミアはクリミア、北方領土は北方領土だと言うに決まっている。

▼ただ、対外的に余りにも弱腰リベラリストの米国オバマ政権に、「もっとしっかりせんか」と喝を入れるには、敢えて日本が独自外交路線もとりかねないという装いを示し、そのためにロシアを重視するようなそぶりを見せるというのだとしたら、これはこれで高等戦術である。

▼ロシアが、クリミア問題で日本が制裁に及び腰であったことに恩を感じて、北方領土で譲歩してくれるほど甘い国ではないことは、百も承知で、敢えてロシアにも配慮しているようにみせているのだとしたら、それは対ロシア外交ではなく、明らかにだらしのない米国に対する安倍政権の挑発といってもいいだろう。

▼つまり、日本が日米同盟から、少しずつ離脱しかねないリスクを、米国は再認識せよと促がすことにほかならない。そこまで踏み込んでの、対ロシア融和政策であるならば、たいしたものである。

▼実際、安倍政権は、現在の欧米の対ロシア制裁そのものが、及び腰ではないか、と鼻で笑っているフシがある。確かに、欧米には本気度が見えない。戦争を恐れるあまり、制裁が、後手後手に回っているのだ。完全に、尻に火がついているはずのロシアが、実は紛争の主導権を握っているではないか。ロシアもそのへんの手ごたえを得ている。欧米の自由とデモクラシーと、民族の自決を守る気迫も、ずいぶん薄っぺらいものに成り下がったものだ。

▼しかし、先週末以降、ウクライナ暫定政権が親ロシア派の不法占拠に、実力排除を始めたことに端を発して、ロシアが一段と強硬な姿勢を示し始めた。とうとう、オバマ大統領は外遊先で、「プーチンの命を救いたい」と発言。ロシアが軍事介入すれば、欧米の武力介入も辞さないというニュアンスであろうか。

▼この言葉の意味は重い。言い換えれば、「もし、ロシアが国境線を越えたら、欧米は軍事介入をする」ことを示唆しているわけで、さらにロシアが敗戦に追い込まれた場合には、プーチンを戦犯指定する。」ということも言外に匂わせているわけだ。弱腰リベラルの大統領の発言だけに、現段階で文字通り受け止めることもできないが、保守派から相当の突き上げを食らっていることは間違いない。

▼かつて、帝政ロシア末期、文豪トルストイが存命だったころ、日本からもさまざまな文化人、学者、思想家、社会活動家たちがトルストイを訪れた。トルストイはキリスト教的無政府主義者だ。裕福な地主の家で生まれたトルストイは、若いころから自領内の農奴たちに、教育を施してきた。

▼日露開戦前、遠路はるばるトルストイを訪れた日本人たちに、彼は日露の関係悪化を懸念し「非戦」を唱えた。ツァー(露帝)にもそう訴えた。そして、日本人たちが社会改革に邁進することを賞賛し、心から激励した。無産階級の国際的連帯を諭した。そのトルストイが、いざ日露戦争でロシア帝国が敗れたという一報が届くや、「黄色い猿ごときに負けるとは!」と、地団太踏んで悔しがったのだ。

▼このように、ナショナリズムというのは、自然な民族感情の発露だが、これを超越して、すべての民族の主体性を尊重する立場にまでアウフヘーベン(止揚)するのは、容易ではない。トルストイにできなかったものを、今のロシア人たちにできるとは思えない。ちなみに、プーチン大統領の政治顧問には、トルストイの玄孫がいる。先が思いやられる。

増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄


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