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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第294回・因縁の間柄

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【閑話休題】第294回・因縁の間柄

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2014-05-14 15:30:00]

【閑話休題】第294回・因縁の間柄

▼過去1000年の間、17回も中国に攻め込まれた国がある。ベトナムである。最近、南シナ海のパラセル諸島で、漁船という名目の中国軍艦が、ベトナムの海上警備船に放水、衝突をするなど、紛争が次第に激しくなってきている。

▼在日ベトナム人が大挙して、駐日中国大使館前で抗議デモをするなど、新聞紙上には連日、両国の「衝突」の記事が掲載されている。

▼南シナ海のサンゴ礁は、中国、ベトナム、マレーシア、台湾、フィリピンなどの国境線が複雑に絡み合っている。しかも埋蔵量200億トンとも言われる大油田とガス田が発見された宝の山を、各国が領有しようと躍起になるのは当然。

▼しかも、ここは世界有数の海運ルートで、世界中の物資が通過する通商ルートでもある。

▼ここに最初に目をつけたのは、誰あろう大日本帝国であった。はやばやと1939年にリン鉱石の発掘を目的に領有した。ところが、敗戦後、1951年のサンフランシスコ平和条約で領有権を放棄。そのとき、次の所有者をはっきり決めなかったのだ。これが現在に禍根を残している。

▼1970年末、ベトナムが南シナ海沖に油田を発見(バホー油田)。南ベトナム政府が地すべり的に滅亡していく過程で、1974年には早速中国がまず、火事場泥棒さながらに西沙諸島(パラセル諸島)を占拠。この場所は南沙諸島(スプラトリー諸島)へ進出する重要拠点となり、要塞化された。

▼75年に統一ベトナム政府が成立すると、これが隣のカンボジアで、国民の大虐殺を行っていたポルポト政権打倒に動いた。カンボジアを支持していた中国がこれに激怒し、トウ小平は突如として、ベトナムとの国境線を越えて侵攻したのである。当時、「社会主義国同士が戦争をするわけない」というわけのわからない左翼の論理が、一般的な総合新聞の論調のほとんどだった。

▼わたしは当時、大学生だったから、その第一報に驚愕したものだ。トウ小平の発言は、「ベトナム懲罰」ということだった。懲罰である。なにさまであろうか、という感じだ。大方の世論では、中国の圧勝というものだったが、現実には直前まで30年以上にわたって、仏・米と戦争をし、いずれも叩き出した強兵ベトナムである。ベトナムの北部国境を突破して、深く侵攻した中国の人民解放軍は、完膚なきまで痛めつけられ、惨敗。わたしの友人(中国人)も、クラスメートの何人かを失っている。それもそうだろう。当時、人民解放軍は人海戦術で侵攻したものの、兵士の誰一人として、ヘルメット一つ被っていなかったのだ。人民帽である。これでは爆風だけで、多数の死傷者が続出して当たり前だ。

▼1982年に国連海洋法条約が制定され、沿岸国に大幅な海洋資源の権利が認められるようになってから、南シナ海を巡る争いは激化。他の沿岸国も領有権を主張するようになった。ベトナムと中国も競って南沙諸島の小さな島々を一つ一つ占領していった。まさに乱取りである。

▼中国は南沙諸島の海域に複数の軍事施設を建設し、1992年には一方的に南沙諸島の領有を宣言する(中国は尖閣諸島だけでなくどこでも同じである。つまり、尖閣諸島にも、いきなり上陸してきて軍事施設、飛行場などを作ってしまう可能性は十分にあるということだ。)。

▼しかし、台湾やフィリピンなども少数ながら島を領有し、中国船にフィリピン軍が威嚇射撃を行うなど、中国は完全に周辺国をすべて敵に回している。

▼元々この紛争はフィリピン駐留の米軍が撤退したことで力の空白が生まれ、後に中国が増長したため起きたわけだが、アメリカも及び腰、しかも、ASEANとしても、これ以上アメリカに石油をやりたくないという思惑が透けて見える。

▼これらの島や岩礁は面積も小さく、居住に適さないが、領有権を確立すれば周辺EEZでの漁業権や海底資源の開発権を独占できる。世界の海上貨物の約25パーセントがこの海域を通過しており、日本の輸入原油も、約70パーセントがこの海域を経て運ばれている。

▼今のところ、この海域の約8割の領有権を主張しているのが中国だ。中国は現在、パラセル諸島の全てとスプラトリー諸島の7島を実効支配している。

▼ケリー米国務長官は12日、南シナ海のパラセル諸島付近で中国とベトナムの艦船が衝突した冒頭の問題について「最も新しい懸念がパラセル諸島に対する中国の挑戦であることは明らかだ」と述べた。この問題で、米国の閣僚が中国を名指しで批判したのは初めてのことだ。

▼ベトナムでは、反中国感情が激化しており、中国人観光客はおろか、開戦を主張する世論すら台頭してきている。1000年に及ぶ因縁の間柄だ。なにが起きても不思議ではない。結果は、陸戦においては少なくとも中国軍の敗退であることは間違いない。ベトナムが負けるはずはないのだ。そもそも国民の士気が違う。しかも、その正規軍は大日本帝国陸軍肝いりの遺伝子を受け継いでいるのだ。

▼しかし、海上では話は別だ。制空能力で決まる。果たして、ベトナムに勝利の成算はあるだろうか。アメリカが頼りにならない以上、ベトナム政府はかなりきわどい選択肢を前にして、さぞ苦しんでいるだろう。実は、一触即発は、ウクライナだけではない。沖縄、台湾のすぐ先で、とんでもない緊張が高まっているのである。東アジアでこれだけ緊張が高まってきているのは、75年のサイゴン陥落以来ではないだろうか。

増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄




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