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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第306回・メールの奴隷

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【閑話休題】第306回・メールの奴隷

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2014-05-30 15:30:00]

【閑話休題】第306回・メールの奴隷

▼わたしは昔から電話が大嫌いだった。今でこそ、電話の音も電子音だから、まだマシだが、昔は黒電話だったから、電話が鳴ると心臓が止まるほどぎょっとするものだった。あの、人の都合も考えずに(相手の状況が見えないのだから当然なのだが)、人生に横槍をいれてくるようなあの電話は、実に忌避すべき存在だった。

▼それでも子供の頃は、家で電話が鳴ると、あれはどういうものなのか、子供というのはやたらと電話に出たがる。わたしも一応そうだったのだ。ところが、母親が「出るな」と言って遮る。「何で? 電話鳴ってるよ。」と、けたたましく鳴り響いている電話の前に立ち尽くすわたしに、母親はこう言ったものだ。「電話ってものはね、取るもんじゃないんだよ。かけるものなのよ。」わたしは、意味不明のまま、釈然としない思いで鳴り続ける電話を見つめていたものだ。

▼しかし、このときの母親の電話に対する否定的な姿勢は、今なら、よくわかる。電話は、かけるものであって、出るものじゃない。

▼時代は変わり、今は電話よりむしろメールだ。これは便利なものができたと90年代中盤に、わたしはこの新しい通信ツールの到来を、大歓迎した。なにしろ、送信するにしろ、受信するにしろ、受け手が自分の都合に合わせて開くことができる。相手がどんな状況にあるか、あまり斟酌しないで連絡を取ることができるのだ。実に人間的な、相手の事情を尊重するツールではないか。

▼ところが、それは一時的な幻想にすぎないことを、思い知らされる。そうなると、こんどは、人間、めたらやたらにメールを送りつけるようになるのだ。情報の氾濫も手伝って、一日に襲い掛かってくるメールの数たるや、食欲が無くなるくらいだ。

▼最近、電子メールの奴隷といった文化がますます問題になっている。米国の専門家の調べでは、高い技術や知識を持つ労働者は現在、就業時間の28%をメールのやりとりに費やしているという。今や社員はメールを開封するのを恐れ、氾濫するメールを前にぼうぜんとするばかりだ。私たちは生理的に、絶え間ないメールという暴力のせいで、継続的にホルモンによるストレス状態に置かれているという。

▼さらにメールはますます有害な効果を持ち始めている。生産性にかなりの影響があるだけでなく、われわれが集中するものをゆがめてしまう。つまり、緊急性が重要性にますます勝ってしまっている。

▼メールは考える時間も奪い取ってしまう。1日のうち、考えるだけの時間をどれだけ作り出すことができるだろうか。複雑さを増す社会において、考える時間はこれまで以上に重要で価値あるものになっている。ところが、頭の回転はこのメールの爆弾の前に、沈黙を余儀なくされるのだ。

▼人によっては、週間の「デジタル安息日」を取るようにし、継続的ではなく1日のうち数回にわけてメールをチェックするようにしているという人もいるそうだ。自分自身が不必要なメールを無視することをますます容認し、同じように他人も大目にみるようにしているらしい。

▼「双方向のコミュニケーション」などという美辞麗句をかさにきて、人間に常に連絡しあうことを強要するこのメールという化け物のために、現代人はまさに奴隷と化している。ちょっと手が空いたときに、ふと携帯の着信を確認するあのしぐさは、もはやわれわれの日常生活において「基本動作」にすらなってしまっている。

増田経済研究所 日刊チャート新聞編集長
松川行雄




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