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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第49回・日本人の父親像

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【閑話休題】第49回・日本人の父親像

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-05-14 17:30:00]

【閑話休題】第49回・日本人の父親像


▼一体、いつの頃からだろうか。日本人の父親像というものが、子供の「友達」のような存在になったのは。しかも、父親本人がそれを喜んでいる。私のような「古い」環境で育った人間には、あまりの違和感に気分が悪くなる。

▼おそらく、戦後なのだろう。アメリカの価値が無制限に流入してきてからというもの、日本人は何かを誤解したのではないか。一見フランクで、フレンドリーなアメリカの父親像というものは形だけで、実態とは大きくかけ離れている。

▼いまだに、アメリカでは父親は絶対的な存在である。それは恐ろしいほどで、独裁者といってもいい。DV(家庭内暴力)の比率を見れば明らかで、15秒に1人、年間200万人以上の女性がDVの深刻な被害を受けており、それで亡くなる女性が1日あたり11人に達するという。欧州ですら、16歳から44歳までの女性の身体に障害が残る被害や死亡の原因は、DVが病気や事故を抜いてトップである。白人社会というのは、そういう社会なのだ。肉食系文化、狩猟文化が成り立つためには、そうした独裁的な家父長制の名残があっても仕方ないのかもしれないが。

▼だからこそ、子供と対等に、そして友達のようにもの分かりのいい父親像が望まれる。それが、映画やテレビなどで喧伝されるものだから、それがアメリカだと日本人は勝手に思い込む。かつて、日本のテレビドラマでも、お茶の間のシーンでは判で押したように、ちゃぶ台を囲んだ家族の会話が出てきた。今の日本にちゃぶ台のある家庭はほとんどないが、外国人が見たら間違いなく勘違いするだろう。それと似ている。

▼話は飛ぶが、「レイディー・ファースト」というのもそうだ。なぜ欧米社会では、かくも女性をエスコートするマナーが幅を利かせているのか。エレベーターでも、車を乗り降りするときでも、レストランで席に着くときにも、やたらに「レイディー・ファースト」だ。これも日本に直輸入されて、浸透しつつある。馬鹿を言ってはいけない。欧米では、女性というものは無能で、無力で、弱いものだという前提がある。だからこそ、保護してやらなければならない、という前提なのだ。勘違いしてはいけない。あれは、「女性というものは、男性の所有物にして財産である」という概念の産物でしかなく、男性優位社会そのものの典型的な側面を示している。

▼日本など、昔から封建制度があって、法的には同じように父親は独裁者だった。しかし、一般の市民レベルではまったく違う現実がそこにあった。実際的には、「カカア天下」だ。これは何も、北関東方面だけの専売特許ではない。亭主は表では立てるが、一歩家に戻れば完全に尻にしかれる。それをそうと思わせない女房が、実は良妻賢母の資質を持った女性とみなされた。

▼実際、昔でも大抵の日本の男は、家ではかあちゃんに頭が上がらない、というのが普通だった。外でどんなに威勢を張っていても、かあちゃんにはかなわなかったのである。レイディー・ファーストより、よっぽど気が利いている。日本は古来、制度はともかくとして、実質的に母権社会なのだ。

▼かくいう私の父親は、ほとんど明治生まれといってもいい世代だったので、昔の日本の男そのものだった。幸いなことに、私は一度として手を挙げられたことがない。半面、一緒に遊んだことも皆無である。父親の体が弱かったせいもあるが、キャッチボールをした記憶もない。せいぜい、休日に近くの野山をいっしょに散歩したくらいだろう。そもそも、普段から父親は常に「不在の人」だった。顔を合わせることも少なかった。

▼しかし、その日は父親がいる、というだけで家の中に緊張感が走ったものだ。そういう存在だったのだ。声を荒らげるわけでもない。酒を飲んで、くだを巻くわけでもない。黙って新聞を読んでいるだけなのだが、とにかく怖い。何か聞かれれば、その緊張感はピークに達する。

▼だから、生きているうちに、もっと話を聞いておきたかったという思いが非常に強く、心残りではある。父親も自分のことをほとんど話さない性格だったから、ことさらその点についての後悔はある。今のフレンドリーな父親たちは、コミュニケーションなどと称して子供と接する時間が多いとはいえ、一体、どれだけ生きてきた価値を伝えているのだろう。馬鹿話だけをする間柄なら、そんな父親など要らぬ。友達を演じているだけなら、本物の友達のほうが子供にとっては、ずっと勝手が良い。

増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄




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