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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第50回・SF小説と現実

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【閑話休題】第50回・SF小説と現実

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-05-15 17:30:00]

【閑話休題】第50回・SF小説と現実


▼SF小説の嚆矢(こうし)は、フランスのジュール・ベルヌ( 1828-1905)と、米国のH・G・ウェルズ( 1866-1946)の二人だ。二人は、ともに後世に大きな影響を与えたが、決定的な違いがある。その作品に表れた科学技術を比較するとよく分かる。

▼ベルヌの作品には、当時まだなかった新機軸の科学が描かれている。『月世界旅行』でロケットを、『海底二万マイル』で潜水艦を、『サハラ砂漠の秘密』ではミサイル・超伝導物質・監視システム、『カルパチアの城』で音声付きの映画、『悪魔の発明』で原子爆弾、『征服者ロビュール』で大型飛行機を次々と創造したわけだが、そのほとんどが後に現実のものとなった。

▼一方、ウェルズのほうだが、およそ後のSF小説の題材となる基本的なギミック(仕掛け)は、彼がすでに書きつくした感があるくらいだ。たとえば、タイムマシン、タコの形をした火星人、透明人間、冷凍睡眠装置、最終戦争などなど。しかし、不思議なことにほとんど現実となったものはない。

▼二人の作風は、明らかに現実の科学の発展から、あり得る可能性の世界で空想を駆使したベルヌと、まったく意表を突いた非現実的な空想を描いたウェルズとで、決定的な違いが見える。ただ、いずれにしろ、夢があった。それが恐怖であっても、消化できる空想だった。

▼ところが、近年、彼らとはまた違った次元のSFが出てきている。ご存知、1990年に発行されたマイケル・クラントンの『ジュラシック・パーク』だ。琥珀の中に埋もれていた蚊の血液から、太古の恐竜のDNAを抽出し、蘇らせるという発想だった。SFにパニックサスペンスが加わったこの名作は、その後何度も映画になって空前の興行成績を挙げた。バイオという世界なのである。ベルヌもウェルズも想像しなかった世界が、小説や映画レベルですでに広く知れ渡っているのは、隔世の感がある。

▼米国にデュポンという会社がある。フライパンのテフロン加工の開発で名をなしたと言えば分かりやすい。このデュポン、ライフサイエンス(生化学)と呼んで、バイオに猛進している。蜘蛛(くも)の糸から、柔軟で鋼鉄よりも硬い糸をつくれないか。ゴキブリのDNAを活用し、生鮮食料品の鮮度を数カ月にわたって100%保てないか。その発想は常識では考えられないものだが、いったい研究の現場で何が起こっているのか、知るよしもない。

▼ライフサイエンス企業としては、デュポンと双璧をなすモンサントも同じことだ。とうもろこしのクローンをつくって、農薬も肥料もいらない特性を生み出そうとしている。しかも、それは一代限りの有効性しか持たないのだ。農家はクローンを栽培しても二代目はないのだから、結局また買わなければならない。この図式は、おぞましいほど開発側の貪欲さを示している。

▼たばこのフィリップ・モリスという会社もある。これも、現実に虫に葉が食われないようなタバコの栽培に成功している。どのような発想で、何を使って成功したのか、当然ブラックボックスだ。発癌性がどうのこうのという問題など、はっきりいって学芸会レベルの問題なのだ。癌との関連性を表に立たせることで、肝心の恐るべきタバコのクローン開発という大テーマを、カモフラージュしている可能性すらある。

▼カプコンのゲーム『バイオハザード』では、化け物のような人間とも動物ともつかない存在が描かれているが、そうしたバイオ企業の奥深いところですでに「製造」されては、「廃棄」されていることも容易に想像できる。羊の「ドリー」が生まれたのだ。人間の「A、B、C・・・」がどれだけ「製造」されては「廃棄」されていても、まんざら不思議ではない。ある意味、背筋が寒くなるのを覚えてしまう。

▼科学者は、究極的には倫理の一線を越えるかどうかが試される。そうでなければ、目をむくような発明というものは生まれないのだ。もの分かりのいい科学者では、金にならない。そして、得てして科学者というものは、その最後の一線を越えられる見込みがついてくると、どうしてもそれを越えたい欲求にかられるものなのだ。結局、新しい科学の登場によって生まれる副産物の後始末に、追われている現実(CO2と地球温暖化を見よ)がある。過去の経験からすれば、恐るべきしっぺ返しを食らうという自然の鉄則を、彼らは忘却の彼方に追いやったまま、その一線を超え続ける。

増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄




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