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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第73回・通過儀礼

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【閑話休題】第73回・通過儀礼

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-06-17 17:45:00]

【閑話休題】第73回・通過儀礼


▼成長に伴って、名前が変わっていく「出世魚」というのは、もともとは武士の時代に、年齢に沿って名前を変えたことに由来するらしい。元服というのが、もっとも代表的な年齢の区切りだが、これとて何も武士が始まりではなく、奈良時代にすでにこの言葉はあったようだ。「元」は首(頭)という意味で、「服」は着用を表し、要するに冠をかぶるという「加冠」の儀式からきているようだ。武家の場合は、冠の変わりに烏帽子(えぼし)をかぶる儀式だった。庶民は前髪を剃って、いわゆる「月代(さかやき)」にすることだけで済ましたようだが。

▼出世魚で有名なところは(地方によって違うが、ごく一般的な例を書くと)、ブリなどは、ワカシ( 35cm以下)→イナダ( 35~60cm以下)→ワラサ( 60~80 cm以下)→ブリ( 80cm以上)と変転するのがよく知られている。ちなみに、イナダは夏に旨く、ブリは夏に味が落ちると言われる。

▼面白いのは、われわれがよく知っている名前が最終的な名前ではないという例だ。たとえば、ボラなどは一番最後の名前かと思いきや、そうではなく、オボコ→イナッコ→スバシリ→イナ→「ボラ」→トドとなっていく。トドはこれ以上大きくならないことから、「行き着くところ」などを意味する「とどのつまり」の語源となった。

▼スズキもそうだ。セイゴ→フッコ→「スズキ」→オオタロウと変わっていくのだという。また、名前は変わっても、出世魚とは呼ばない魚もある。マグロ、サワラ、ウナギ、カンパチ、サケなどがそうだ。

▼いずれにしろ、普通の人間の世界では、名前を生涯にわたって変えていくという習慣は明治以降、なくなってしまった。しかし、この習慣、けっこういいものかもしれない。人生で区切りをつけたいときには、名前を変えると身も心も生まれ変わったような新鮮さがあるだろう。

▼実は、女性も江戸期に元服と称するものを、結婚と同時に行なっていたらしい。未婚者でも、18歳から20歳くらいの間にしてたようだ。地味な着物を着て、丸髷(まるまげ)、両輪(りょうわ)、または先笄(さきこうがい)などの髪形に替える。厚化粧をし、お歯黒をつけてもらい、引眉(ひきまゆ=眉を剃る)をする。いまだにこのような元服の習慣は、祇園の舞妓など一部の花街では残っているらしいが、お歯黒だけは、どうにもいただけない。実際にこの目で間近に見たら、私などはぎょっとしてしまうだろう。だが、この風習は貴族の間では幕末まで男性でも続けられていたし、女性は明治末期まで残っていたようだ。

▼こうした一種の「通過儀礼」は、何がしかの自覚を本人に促すから、基本的には良い効果をもたらすと考えたい。どこかの国の成人式のように、なんでもやりたい放題の無礼講になってしまうような場合もあるが。

▼今、芸能人や特殊技能者は別として、一般には名前が変わることもなく、とりたてて人生の通過儀礼というものもない。強いていえば、選挙、自動車免許証、酒タバコが許されるといった程度で、あとは七五三、還暦、喜寿などといった忘れかけた記憶としての通過儀礼があるだけだ。

▼しかし、結婚する女性の場合は、大変な通過儀礼が待ち構えている。入籍すれば姓が変わってしまうという制度だ。名前はそのままでも、姓が変われば人格が変わりかねないほどの精神的なインパクトがあるのではないか。親は姓に馴染む名前を娘につけたつもりでも、結婚すればそれがご破算になってしまうのだから、一大事だ。私などは、夫婦別姓でもまったく問題ないと思うのだが、硬直的なゲルマン法一本槍できた日本の民法制度は、かたくなにこれに抵抗しているようだ。

▼逆に、結婚したら夫が妻の姓に変更しなければならないという制度だったらどうか。多少は日本の男性にも、ある意味生まれ変わろうとする大きな動機になるかもしれない。どうだろうか。一度、いまの制度を逆転させてみては。戦後、良くも悪くもたくましさがなくなった日本の男性たちにも、多少は喝が入るかもしれない。

増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄



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