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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第83回・東と西(前編)

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【閑話休題】第83回・東と西(前編)

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-07-01 17:30:00]

【閑話休題】第83回・東と西(前編)


▼私が民俗学に興味を覚えたのは、父親の所蔵本の中に戦前の歴史家、安田徳太郎の『人間の歴史』全巻があったことからだった。安田は、海洋民族学的なアプローチで、言語の近似値から仮説を組み立てていく手法の、おそらく先駆け的な存在だった。あまりにもそのやり方が斬新にして乱暴であったことから、アカデミズムでは一笑に付され、本人も後に撤回するなど幻の学説となった本だ。今でも、古本屋には全巻そろっているものを、よく見かける。しかし、一般にはほとんど忘れ去られた人物だろう。

▼アイヌ語を研究した金田一京助、『遠野物語』など地方の怪異譚(かいいたん=怖い話や不思議な言い伝え)を蒐集した柳田国男などもよく読んだ。現代の民俗学者では、やはり世界的にも大変著名な網野善彦はけっこう好きだった。網野は「日本人論」「単一民族論」としての日本人の自己認識を変えようとし、「一国史観」を問い直した歴史学者である。彼の学説では、日本人という民族は存在しないのだ。私も基本的にはそう思っている。近代の国民国家としての日本人と、民族・民俗学的な日本人とを切り離さなければ、事実がきちんと見えてこない。

▼日本はこんなに小さな国なのに、地方色が大変豊かな国だ。ざっくり東と西で分けただけでも、ずいぶんと違いがあるのにびっくりする。もっとも、名古屋とか中部地方はどういう区分けになるのか。基本は西国文化の影響が大きいと思うのだが、昔、平安貴族たちは濃尾平野一帯を「あづま(東)」と称していたから、東国の側面もある。この区分けはとても難しい。だから、ここは典型的な関東と関西に分けて書いてみよう。

▼両者の違いで、古くから言われてきたものに「うどん」の違いがある。関東は鰹(かつお)だしだ。関西のそれは昆布だしであり、これが決定的な違いとなっているが、なぜそういう分岐になったのかというと、関東は硬水が多く、鰹を長時間醤油で煮立てなければならないらしい。関西は軟水のため、昆布を5分程度煮るだけで、味が染み出るという。

▼こういう違いというものは、年月を経るにしたがって、けっこう間違った都市伝説を生んでしまうこともある。「真っ黒な醤油汁の関東のうどんより、薄い透明な関西のうどんのほうが繊細な味のように思えるが、実は塩分は関西のうどんのほうが多い」、という類。これ、間違っているらしい。塩分濃度は、概ね関西が2.5%なのに対し、関東は6.7%と2倍以上高いのだ。やはり関東は、「しょっからい」のである。だから、関西ではうどん汁は飲み干すが、関東では残す人が多いわけだ。

▼もっとも、関西人はお好み焼きをはじめ、たこ焼き、串あげ(串かつ)など、けっこう濃厚な味のジャンクフードが多いのに、不思議とうどんに関しては、関東より繊細な味わいを好む。これは不思議なアンバランスだ。

▼同じように有名なのは、餅であろうか。関東の四角い切り餅に対して、関西の丸餅文化だ。この違いは、江戸時代からはっきり出ていたらしい。江戸ではなにしろ人口が多かったから、一つずつ丸めてつくるより、手っ取り早く切ってつくれる切り餅が主流になったようだ。要は、利便性からきている。関西の丸餅は、そもそもが「丸く円満に収まるように」ということで縁起をかついだ部分が大きい。

▼私がびっくりしたのは、「トコロテン」だ。関東で生まれ育った人間にとって、トコロテンといったら、「醤油・酢・青海苔・カラシ」と相場は決まっているものだが、関西では「黒蜜」で食べるのが普通だという。これはこれでおいしいと思うのだが、「くずきり」と似たような感覚だろう。しかし、一瞬むせてしまうような関東のトコロテンの食べ方は、関西ではあまり受けないらしい。

▼やはり、こだわりという点では、圧倒的に関西のほうがこだわる。お好み焼きなどのソース類には、まあ実に多彩な種類がある。関東では、下手をすればウスターソースだけで済ませてしまうところだが、関西では逆にウスターソースなど認知されていないくらいらしい。

▼このほか、お雑煮、すき焼き、味噌汁、鰻のさばき方、いなり寿司、三色おはぎと、違いを探そうとすればことごとに見つかる。これだけ小さな国で、かくも違いがあるかというほどで、改めて驚きを禁じえない。一番、ゼロサム的な違いがあるのは、納豆だろうか。関西では、一般的に好まれない食品のようで、嫌いな人は匂いを嗅いだだけでも吐き気がするという人もいる。
(以下、明日の後編に続く)

増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄



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