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増田経済研究所『閑話休題』バックナンバー

【閑話休題】第93回・結論の出ない話

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【閑話休題】第93回・結論の出ない話

【日刊チャート新聞記事紹介】

[記事配信時刻:2013-07-16 17:30:00]

【閑話休題】第93回・結論の出ない話


▼このコラムにしては、やや重い話だ。死刑の廃止、あるいは存置の議論である。世界的に死刑というのは、廃止の方向になっている。世界中の国のうち、58カ国で死刑は存置されている。米国では33州がまだ死刑存置である。いったい、死刑は必要なのか、不要なのか。

▼死刑の目的というのは、応報説と予防説(抑止力)と大きく二つがあるわけだが、近代先進国では、応報説はほとんど排除されている(イスラム圏では依然として応報説が主流のようだ。要するに被害者あるいは遺族たちによる、報復の概念である)。今、一般的には予防説が主力となっているが、果たしてそうだろうか。「冤罪(えんざい)」というリスクがこれまた話を複雑化させる。

▼実は死刑には抑止力がない、という見方も根強いのである。殺人というものを例にとってみると、殺人の圧倒的多数は衝動的殺人である。かっとなって、というやつが多い。かっとなっていても、その瞬間には殺意があったかもしれない。なかったとしても、要するに衝動ないしは、その衝動の延長である。残りが計画的な殺人だ。

▼衝動的な殺人の場合、およそ死刑になるなどということが抑止力になるわけがない。衝動なのだから。また、計画的殺人の場合、自分だけは絶対につかまらないと思ってやるわけであるから、そもそも抑止力など効くはずがない。つまり、抑止力はほとんど無力だといっていい。

▼実際、イタリアだったと思うが(間違っていたら御容赦)、その頃、非人道的だということで死刑が廃止されることになった。それでは犯罪が増えてしまうではないか、と存置(死刑賛成)論者が猛反対したが、廃止が決定された。さて、その後だ。死刑がなくなったら、とたんに犯罪が急増した。そのため、やっぱり死刑がなければ駄目だ、といって死刑復活とあいなった。ところが、である。死刑復活後、犯罪はさらに増加したのである。

▼いったい、これはどうしたことか。つまり、重犯罪の増減と死刑の存置・廃止とはほとんど関係性がなく、犯罪の多くはその社会の経済状態の改善・悪化と深く関係しているという説が出された。私も、どちらかというとこの見方に賛意を表する側である。アメリカの州ごとの犯罪率と経済状態の良し悪しの比較でも、かなりはっきりとこの傾向が見てとれるそうだ。

▼やはり、死刑の問題は、けっきょく報復の概念という、もっとも原初的な理由に回帰するのではないだろうか。いくら綺麗ごとを並べてみても、最終的には復讐という人間の情念と、報復されるという恐怖と、どこで折り合いをつけるか、ということになってしまうのではないか、と思ったりもする。実際に身内を殺害された側の立場に立ってみると、この報復の概念は、大いに心を動かされる。しかし、「非近代的」ということで、一蹴されてしまうわけで、まったく議論にもされない。釈然としないものがどうしても残る。

▼そうは言いながら、私などは、基本的には死刑にどうしても納得できない部分がある。理由はともあれ、まったく無抵抗となっている人間を、国家の名において一方的に殺害するわけであるから、仮に私が刑務官で執行をしなければならない立場のときに、それができるであろうか。しかも、私はその死刑囚の犯罪事件とは無関係なのである。

▼堂々巡りをするばかりで、いかに考えても答えはでない。戦争であれば回避すべきだが、どうしてもやらなければならない戦争というものはある、とかたく信じている。しかし、死刑となると話は別だ。立場をいろいろ考えてみるが、おそらく死ぬまで答えが出そうにない。

▼ちなみに、判断を巡る悩ましさということでは、これから私たちが迎える(参議院)選挙というものがある。この選挙、判断を間違えた場合、とんでもない結果をもたらすことを、民主党政権の誕生で私たちは骨身に沁みた。この局面で、責任ある立場にたてば、さすがにまともなことをするだろう、という淡い期待は、微塵に砕け散ってしまった。ただ、しょせん選挙である。冤罪による死刑に比べればはるかにマシだが、それでもこれが国家防衛にかかわる話になってくると、とてつもなく重大な選択になってしまう。とにかく、選挙には行きましょう。

増田経済研究所
「日刊チャート新聞」編集長 松川行雄




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